悶絶瑞樹ちゃん 後編
声のした方側。
鳥居がある方。
そこには、仁王立ちしたあかねの姿があった。
「ど、どうして、あかねがここにいるんだ」
困惑した声をあげるお父さん。
「あかね。きちゃダメ」
俺も来ないでと意思表示をするように、手を前に出す。
「どうしてここにいるかって、そんなの起きたら瑞樹ちゃんがいなくなっていて心配になったからに決まっているでしょ」
あかねは俺のことなど無視するように、ずんずんとこちらに近づいてくる。
「あかね。この娘に近づいてはいけないよ」
「どうしてよ。お父さん」
「そ、それは・・・・・・」
お父さんは少し言うのをためらってから、こうなっては仕方がないというように続けた。
「この娘は、結界から出られなかったからだ。こういえば、どういうことかはわかるね」
「そ、そんな・・・・・じゃあ、瑞樹ちゃんは」
「ああ、私は私のすることをしなくてはいけないんだ」
お父さんはあかねの方から俺に向き直る。
「え、まさか、このまま続行なの?」
この状況、あかねに見られたくないな~なんて思っていたのは俺だけの様だった。
お父さんはすでに臨戦態勢だ。
引き続きお経を読んでいる。
そういえば、あのお経の効果って何なんだろう・・・・・・・
そんなことを油断にも考えていた俺は、咄嗟に胸を掴んで跪いた。
「ああ・・・・・・ぐ」
「瑞樹ちゃん!」
どうしたのかは俺にもわからない。
胸が苦しいような、息が苦しいような、心臓が握られるような、苦痛を強いられているというだけなら簡単だ。
だが、どれともなんとなく違う気がした。
そんな思考の中で、俺の意識は朦朧としだす。
「うう・・・・んう」
「お父さん止めて。やめてよ~」
あかねの言葉を聞いているのだろうけれども、お経を読み続けるお父さん。
俺の姿を見て半泣きのあかねが目に入っていたけれど、その視界もかすんで行く。
「は・・・・・あれ」
「おはよ」
「あ。おはようございます」
「こんなに早いスパンで来てくれるなんて、お姉ちゃん。関心しないな」
俺の視界には、もう一度来たことのあるところ。俺の意識、精神の世界が広がっていた。
そしてもちろん、俺に話しかけてきたのは、銀髪の髪を持ち紅眼で俺のことを視ている魔女、リリスだ。
「なんで、お姉ちゃん?」
「それは、秘密」
リリスは優しく微笑む。
「それはそうと、中から視させてもらっていたけれど、ずいぶんとピンチみたいね」
「そうだけど、対処のしようが」
「あのお経はたぶん悪魔退治と似てる感じかしら。だから悪魔を払う系だと思うのだけど、このままだとまずいわね」
「ですよね」
俺もここに来たことでもう実感している。
それは、非常にまずいことだと。
「だって、あの人は大きな勘違いをしているもの」
「勘違い?」
「そう。あの人がやっていることは私ではなく、あなたを含めた私を払うということをしているのよ」
「つまり、俺もやられちゃうの?」
「そうね。成功する確率は低いでしょうけど、成功したらそれはそれでまずいわ」
「確率低いんじゃ大丈夫なんじゃ?」
俺の言葉を聞いたリリスは俺を一睨み。
威圧感ぱないっす・・・・・・
「何言っているの。失敗したら死んじゃうのよ」
「え・・・・・」
死ぬの?
そんなに危険なの?
「成功した方がいいの?」
「私としてはお薦めしないかな。私がいないと瑞樹ちゃんは、あんなことやこんなことされちゃいそうだし・・・・・・」
「ふえ!?」
いったいどんなことを、と聞くのは今は控えよう。
たぶんというか今は絶対にそういう状況じゃない。
「瑞樹ちゃんは私が調合した魔力の種というものを持っています」
唐突な切り出しだった。
「魔力の種?」
「魔力保管場所とでも考えてもらえればいいわ。でそれを持っていると魔力をためて置ける。そして使えるのよ。でもそれだけじゃない」
「それだけじゃない?」
「今の時代の人が魔力を扱えないのはなぜかしら? 考えたことはある?」
「魔力なんてないから?」
俺の考えに、リリスは違うと首を振った。
「ないわけじゃないわ。みんな使い方を知らないのよ。それに、昔もそうだけど、全員魔力の種を持っているわけじゃない。そして、ここからが重要」
「ごくり・・・・」
マンガみたいなノリだったから効果音を付けてみました・・・・・
俺は一体何をしているんだろう。
「あなたは私が調合したのを持っている。つまり、レアの中でもウルトラ級よ」
「・・・・はあ」
「よくわかっていないみたいね」
それはそうだろう。
ウルトラレアなのはわかっても、それがどうしたのってことになってくる。
「つまり、どういうこと?」
俺はそれを聞くつもりで聞き返す。
「私がいなくなれば、そのウルトラ級のところが空席になるの。私たちみたいな肉体を持たない奴らは誰にでも取りつけるわけじゃないのよ。住みかとなるところを持ってないとダメ。もうわかったかしら」
「いなくなると、他に乗っ取られて、大変?」
「そういうこと。私がいなくなるのを許すくらいなら、住処事壊しなさい。と言いたいところだけど、その力はあの人にはないわ」
そう言ってリリスはひょいッとこっちに何かを投げるようなしぐさをして、丸いものを飛ばす。
それを受け取った俺は、中身を見て驚いた。
その中身は、外の世界の景色。
「とりあえず、このままここに居てもしょうがないし、私と変わってもらえるかしら」
「え。変わるって?」
「私が何とかしてあげるって言っているのよ」
「何とかって、具体的には?」
「ん~、ひねりつぶす?」
「ダメ!!」
リリスの答えを聞いた俺は反射的に叫んだ。
そんなことされたらますます危険視されてしまう。
「じゃ、とりあえず、元に戻して」
「ん。了解っと、その前に、魔力は気持ち。威力は願いよ。私の妹なら使いこなしてみなさい」
「妹じゃないよ」
俺はそれを最後に意識を絶った。
意識がはっきりしてくる。
目の前にはお経を唱えるお父さんの姿。それとやめてと叫んでいるあかね。
状況が変わっていない?
意識が戻ったし、アドバイスも貰った。
知識が足りないなら、頭を回すしかない。考えるんだ。打開策を・・・・・・・
「とりあえず、あのお経を何とかしなくちゃな・・・・・」
痛みはある。苦しみもある。
どこが痛いのか。どこが苦しいのか。
それはたぶん、魔力の種のある場所。
「私に効果を発揮しているからには繋がりがあるはず。それを断ち切れれば・・・・・・」
魔力は気持ち。威力は願い。だったよね・・・・・・
目を閉じ、俺は込める。
目に視えるように。
願う。
打ち消せるだけの力を。
・・・・・・ゆっくりと目を開き直す。
「み、見えるぞ。鎖みたいな感じで繋がれた漢字の羅列が」
打ち消し方はわからなかったので、とりあえずみえるようになったことでつかめるようになった。
掴んでみる。
同時に魔力を込める。
ただ、単純に手に魔力が集まるように願う。
「ち、千切れた・・・・・・・」
俺はそれがうれしくて、ついすべての鎖を断ち切ってしまった。
「あ。やばい・・・・・・」
「な、どういうことだ」
突如、お父さんが声を発した。
「私の力がはじかれたのか・・・・・」
気づいちゃいますよね・・・・・
どうしよう。もっと強力なの持ってこられたら、太刀打ちできるかな?
そんな風に気に病んでいると、近くから不穏な空気を感じて、辺りを見回す。
そしたらあかねがぼうっと立っていた。
「お父さん」
「なんだい、あかね」
お父さんはあかねの様子に気づいていないのだろうか。
そういえば、俺の方から視線を外していない。
「お父さん、横。横・・・・・」
俺がなんとなくヤバい気がして助け船のつもりであかねの方を見るように促す。それでもお父さんは見ない。
それに辛抱を切らしたのか、あかねが前に回り込んで、
「私は失望しています。娘の声に耳を傾けない親がこんなにも近くにいたなんて」
「あ、あかね」
あかねは冷たいまなざしで一睨み
「そ、そんなところまで、母さんと似てきて・・・・・・」
「私は、瑞樹ちゃんのことが好きなんです。好きなんですよ。ねえ」
「は、はい」
「それを目の前で痛めつけられていたら、どんな気持ちになると思っているんですか」
「で、でも私も職務が」
「瑞樹ちゃんもそうですよ。そうならそうと言ってもらいたいです」
「は、はい・・・・・・」
言えるわけないじゃないですか、とはとてもじゃないけど言えなかった。
「あとでお仕置きです。私の彼女にしてくださいって言うまで続けてあげますからね」
「ふえ・・・・えええ」
完全なとばっちりだった。
とはいえ、いつもと様子が違いすぎる。
あそこまでキレているあかねは初めてだ。
大丈夫なのだろうか・・・・・・
「あ、あかね。そろそろ落ち着いた方が・・・・・」
「お父さん。私、あかねは瑞樹ちゃんと駆け落ちします」
「そ、そんなこと許さないぞ」
「へえ~。なら、どうしますか。瑞樹ちゃんを退治しますか。そしたら私も一緒に心中しますよ」
「な、なにを言っているんだ。もっと自分を大切に」
あかねはお父さんの言葉には耳を傾けずに、俺のところまできて、
「行こう。瑞樹ちゃん」
そう言って手を引いて鳥居の方へと歩いて行く。
「あ、あの。私、出れないんじゃ」
「心配ないよ」
「待ちなさい。あかね」
お父さんが後ろから呼び止める。
「その娘はここから出られないよ」
「お父さんには関係ありません」
あかねは駆け足で鳥居へと向かった。
鳥居の前まで来た。
鳥居の中央に立つあかね。
本当ならば、そこは神様の通り道。
立ってはいけない場所。
通っちゃダメな場所。
「私が出入りを許可します」
あかねはそう言った後に手を横にばっと振り切った。
「さあ、いきましょう」
「え・・・・」
手を引かれて鳥居から一歩。
外に出れてしまった。
「な、なにしたの?」
俺は思わず、あかねの方をみた。
「さあ? 瑞樹ちゃんも教えてくれるなら私も教えちゃいます」
あかねははぐらかすように、もてあそぶように言う。
「はは、こりゃあ、とても面白いものが視れたね。ちょっと来るのが遅かったことを謝るよりも、お礼を言った方がいいのかな。ねえ、瑞樹ちゃん」
「な、なんで、ここに?」
鳥居と通りの間。そのちょうど中央辺りに、今の状況を見透かしたようなまなざしを携えて、桜田は立っていた。




