悶絶瑞樹ちゃん 前編
「そろそろ起きたらどうかな」
「・・・・うう・・・」
遠くで男の声がする。
「全く、君には危機感と言うものがないのかな。これでは、やる側も興ざめだよ」
「・・・・う・・・・・うう」
近くで男の声がする。
意識がぼんやりとしている中で、目を開ける。
知らない天井になっていた・・・・・・・
「こ・こ・は・・・・・」
「仏の間さ。昼に来ただろう?」
「え・・・・あ・・・・・」
男の声に言われて、あたりを見回すと確かに仏像があった。
ここは仏の間というのか。
俺はそんなことに関心している間に、ふっと意識が急激に覚醒していく。
「え。どうして、こんなところに・・・・・」
「どうしても何も、私が連れてきたからに決まっているだろう?」
覚醒した意識で再度男を見た。
男は、あかねのお父さんだった。
「どうして、あかねのお父さんが?」
「君はもうわかっているのではないのかい」
お父さんのその言葉を聞いて俺はすべてを理解する。
当たって欲しくなかった予想が当たってしまったということを。
と、言うことは、つまり・・・・・
俺はすでに何かされているのではないかと、自分のことを触ってみたり、動かしてみたり、服がはだけていたから直してみたり・・・・・
これと言って何もなかった。
俺は疑いの眼差しでお父さんを見る。
「む? まだ、何もしていないさ」
「そう。よかった・・・・・」
俺は安堵した。
「だが、君以外にはしたけどね」
「え??」
まさか、俺以外に危害が出たのか? 血縁である楓に?? 一緒に寝ていたあかねに、何か???
俺の思考は止まるところを知らないかのように、次々と不安要素をはじき出している。
そのうちに居ても立ってもいられなくなった俺は、仏の間から飛び出して、神社の出口へと走っていく。
出口の前には鳥居があり、そこを曲がればあかねの家の前に行ける。
「あ、まて・・・・・待ちなさい」
俺はお父さんの制止も聞かずに、神社から出ようとして、見えない壁にはじき返された・・・・・・
「え??」
俺はもう一度、やってみた。
しかし、結果は変わらなかった。
「だから、待ちなさいと言ったのに。私の制止を聞かないから、服が汚れてしまっているじゃないか」
「いや、今はそんなこと言っている場合じゃ・・・・・・」
「私が張った結界だから問題ない」
「え???」
俺がキョトンとしていると、お父さんは続けて、
「しかし、ここから出られないということはやはり、もう確かめる必要もない」
「確かめるって何を」
「君が異形の存在かってことをだ」
「わ、私が異形とでも言いたいの?」
「そうだ。この結界は闇の者を通さないよう、効果を付与している。したがって、このように私はここから出られる。しかし君は」
言いながら、お父さんは鳥居をくぐって見せた。
「・・・・・確かに出られなかったけれど」
「一応聞いておこう」
「何を???」
俺は嫌な予感がして、一歩後退る。そして、結界にはじかれて、お父さんの足元にひざまずく形になってしまった。
「言い残すことがあるかをだ」
そう言って、お父さんは俺の腕に長方形の紙を張り付けた。
長方形の紙を張り付けられた俺。
その前には、何かお経のようなものを唱えるお父さん。
俺はその紙を剥がそうと手で引っ張り、剥がすことができなかった。
日本語の初期の文字だろうか、俺にはよくわからない文字が紙に並んでいる。
何か強力な力でくっついているみたいで、無理やり剥がそうとすると皮までいってしまいそうだ・・・・・・
俺はとりあえず、今の立ち位置から逃げることにした。
走って、走って、裸足で走って、神社の中央まで来る。
「どこに行こうと言うんだ。君はここからは出られない」
「だからって何もせずにやられることもない」
「潔いとは到底言えないな」
お父さんは再度、お経を唱え始める。
どうやら、途中でやめてもいいらしい・・・・・なんて便利な・・・・・
「ど、どうしよう・・・・・!?」
俺はもう、自問自答。
答えのない問いに答えを見つけなくてはならないような気分だ。
紙・・・・紙なら燃えるはず・・・・なら、火があれば・・・・・・
あたりを見回すが、そんなことができそうなものはない。
別の手段・・・・・
きっとあのお経と関係があるはず・・・・・口をふさぐ・・・・・・ダメ、あかねのお父さんだから、気づ付けるのは、ダメ・・・・・・・
別の・・・・・
紙を破く・・・・・破けなかった。紙なのに・・・・・・・・
べ・・・・・・
もう思いつかない・・・・・・
俺はぺたりと跪いた。
・・・・・・どうしよう????
「なんだ、諦めたのか」
「あ、諦めてなんか・・・・・・」
言葉では強がってみたけれど、事実、思いつく手がもうない。
・・・・・魔力が使えたら、違ったかもな・・・・
俺は、ふとそんなことを思った。
たぶん、これはあかねのせい。
昼間、あんなことをして、俺は魔力のせいで何かコントロールできない力が働いているんだと思ったのがきっかけだろう。
魔力・・・・・・・
そうだ。火ならあるじゃないか・・・・・
俺の中であの時の桜田の言葉がよみがえる。
「君の身体には効力絶大だろう」
魔力は火になるんだ!
俺には確信があった。自分には魔力があると言う確信が。
ならば、やることは決まっている。
俺はまた、走り出す。
今度は、絵馬が飾れる場所まで。
ここなら、絶対にあるはず。
そう、ペンが!!
俺はそう思いながら、ペンを発見する。
「おいおい、そんなペン一本で何するつもりだい。まさか、私を刺すつもりかな、それならやめておいた方がいい」
「そんなことはしない。それはペンも使い方じゃないからね」
俺は記憶をたどって、あの時の、あの札に書かれたものを再現していく。
・・・・・・すごく簡単な札で助かった。
今や、長方形の札の裏側には、あの時の札と同じものができていた。
あとは、イメージ。
身体に流れる魔力的な何かをイメージ。
「う・・・うう・・・・うー」
「いきなりうなりだして、園児にでも戻ったのか? まあ、いい。私も早く済ませてしまおう。しかし、あかねには何といったものか」
「お父さんはそんな心配しなくていいよ」
「なに??」
お父さんが怪訝そうにこちらを見つめてくる。
その時、札から煙が上がった。
どうやったのかって?
魔力をイメージするのは大変に難しかった。だから、魔力自体をイメージするのではなくて、リリスとのキスをイメージしてみたと言うのが正確だろう。
あの時、意識の中でリリスは俺の中にある魔力を借りると言ってキスをした。
そこから逆算して、あの時感じた感覚が魔力の感覚と似て非なると言ったところのはずだ。なら、その感覚を思い出しながら、今度は燃える火を連想。
火はイメージしやすい。
そして、この状況。
俺の腕に貼られた紙は火がついて灰に変わっていく。
紙がなくなる頃には火も消えていた。
「ど、どうして、燃えるものなんてなかったはずだ」
「それは、言えないよ」
「だが、ここから出られないのは変わらない。さて、これも破れるのかな?」
「ぐぬぬ・・・・・」
俺は歯ぎしりする。
それは、できない。
俺の中にはその知識がないからだ。
「わ、私がここから出られなかったってだけで、本当にやっちゃっていいの?」
「それは問題ない。なぜなら、この結界を扱える人間で私以上の者はいないからだ」
「そ、そんなのわからないじゃん」
俺はひねくれもののように食い下がる。
「わかるさ。この神社は代々、家系ではなく力で支えられてきたのだから」
「力で?」
「私たちにも派閥はある。だが、決まったルールと言うのもあるんだ。その中で、私は頂上に位置する人間の一人だ」
「へ、へえ~。お父さん、強いんですね~」
俺は涙が出そうだった。いや、もう出ていたかもしれない。
だって、逃げることもできず、倒すこともできないってどんな拷問だよって話ですよ・・・・・・・・
俺はもう誰かにそんな風に伝えて、自分の気持ちも晴らしたい配気分だった。
「もう、諦めなさい」
俺はそんなことはできないと示すかのように立ち上がろうとした。
しかし、できなかった。
腰が抜けてしまったのだろうか。
お父さんはとてつもない速さでお経を読んでいく。
とりあえず這ってでも逃げようと、俺が行動に移そうとした瞬間、後ろから、
「待ちなさ~い!!!」
甲高い女性の声がした。




