お泊り会 当日2
保健室。
この短期間でよくもこれだけこの部屋に訪れたものだと言われても仕方がないようなほどに、俺はこの保健室という空間に来ている気がした。
残念なことにということはないが、保健の先生の華さんは今日はここにはいなかった。
俺とあかねは何を示し合わせたわけでもなく、あの時と同じベッドに座った。
一息ついた俺とは別に、あかねはその後すぐに立ち上がってカーテンを閉める。もちろん、ベッドの周りのカーテンだ。窓際のものではない。
カーテンを閉め終えたあかねは、また同じところに座り直して、
「これで準備完了だね」
と、言い放った。
いったい何が起ころうとしているのか、俺の頭には一つしか浮かばなかった。
「というわけで、瑞樹ちゃん」
「はい・・・」
「これから、いろいろ試させてほしいんだけど」
「えっと、一応聞くけど、いろいろって?」
俺は話を長引かせるために会話を続ける。
今の状況から逃げたいわけではない。
もともとこうなる予感はあった。こうなって欲しくはなかったけれど・・・・・・・
「嫌な予感の正体を探りたいの」
「正体って言っても、具体的に、形があるわけでもないだろうし、どうするの?」
「キスとかは最終手段と言わざるを得ないけど、あの日、瑞樹ちゃんに怒られたとき身体がピシって動かなくなるような、止まる感覚があったんだ」
「へぇ~~・・・・・・・」
やばい。
ヤバい。ヤバい。ヤバい。・・・・・・・・・・
これはもしかしなくてももしかするやつである・・・・・・・・
俺の頭の中を瞬時に行き来するのは、またキスしたら今度はどうなるかわからないという感情と、使い方のわからないものを使わされる時のような、高揚感と緊張感だった。
「とりあえず、私に何か言ってみて」
「言ってみてって言われても何を・・・・・・」
う~んと俺が首をかしげながら唸って、唸って、唸り疲れて、何も思い浮かばなかったので、
「じゃあ、お手・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・\\\」
沈黙の後には、赤面する俺と、キョトンとしているあかねの姿がそこにはあった。
「・・・今のは、ペット的なあれ???」
「え、いや、違うよ・・・・何も思いつかなかっただけ・・・だよ」
「へ~、そうなんだ」
「・・・・」
俺はこくりと頷く。
最近俺もわかるようになってきてしまったけれど、こういう時の俺って、自分で言うのもあれな話だが、楓の表情とかでなんとなくわかってはいたのけれど、もっといじめたいって思わせるような言動と表情をしているみたいだった。
今のあかねもそんな表情をしている。
あかねの場合は、プルプル震える感じだったけれど・・・・・・
「と、とりあえず、今のはダメみたいね」
「そうみたいだね」
「怒られたとき、詰め寄っていたけれど、接触してはいなかったよね」
「そうだね。迫ってきてはいたけどね」
「このくらいの距離まではね」
あかねは手が触れそうな、肩が触れそうな距離まで寄ってくる。
「ねえ、瑞樹ちゃん。最終手段したい?」
「え、・・・・私は別に、したいわけじゃあ」
あかねは俺の目を見つめてくる。
俺が目を離せないようにするかの如く、じっくりと迫りつつ、俺が後ろに行けないように肩を抑えながら、迫ってくる。
「私は、したいよ」
「え。あかね、それって・・・・・」
「ねえ、私じゃ、ダメ???」
「ダメ、じゃ・・・・ないけど」
「なら、いい???」
「・・・・」
俺は何も答えられなかった。
これはたぶん、入っている。
今のあかねは普段のあかねではない。俺の魔力に影響を受けている状態だと思うから。
でも、どうして。
どうして、毎回、こういうことになるのだ・・・・・・
この謎をどうにかしないと俺の影響は、これからも・・・・・・
そこまで考えていた俺の思考を遮ったものがあった。否、塞いだのだ。
「あっ・・・・ん」
「ちょ。あ・・・かね・・・・」
柔らかい唇。
ほのかに甘い匂いが鼻腔をくすぐる感じがして、脳が焼かれるみたいに熱くなる。
「んっ・・・・・ふ・・・んっ」
「あ・・・・・う・・・んっ・・・・あ」
あかねは目を閉じている。という俺も、いつの間にか目を閉じていたのだけれど、ちょっとチラ見した。
そういえば、こんな豆知識にもならないことを知っているだろうか。
どうして、キスをするとき目を閉じるのは女性で、閉じないのが男性なのかと言う話。これも絶対ということはないのだけれど。
秘密は、ひとえに性感の違いということらしい。
全体的に感じる女性に対して、一部で感じる男性ということだ。
そんなことを知っていると、今の俺は、生物学的にとか心理学的にとかではなくて、一体どちらに近いのだろうか。
「ふう、なんか、すっきりしたよ」
「・・・・・あ、うん、よかった」
数秒だったか、数分だったかなんてわからないけれど、俺にとっては一日よりも永い時が過ぎた感覚が、今終わりを告げた。
「でも、どうしてか、本当にすっきりした気持ちになるんだよね。瑞樹ちゃんとの行為にそんな効能があるのかな」
「どうだろうね・・・・もう二回目ともなると、気恥ずかしさはあっても、ごめんって感情はなくなりそうだよ・・・」
「どうして?? 今回も私からしたのに・・・・あ、そっか」
あかねは自分からしているのだからそんな感情いらないのにって顔をしているけれど、俺としては何とも、やるせないといった感じ。それをあかねは何かと勘違いしたようで、
「じゃ、今度は瑞樹ちゃんからしてね」
「えっ・・・・・・・」
俺はそのまま固まってしまうのだった。
結局、嫌な予感の正体はつかめなかった。
俺がばらしてしまえば、いい話な気はするのだけれど、これを言うことは度胸と覚悟が足りていなかった俺にはできなかった。
とりあえず、俺たちは保健室を後にして、昼過ぎと言うこともあって、商店街のカフェに向かった。
カフェというか喫茶店に着いた俺とあかねは窓際の席に通された。
ここのお薦めは、ブレンドコーヒー。ランチメニューならば、ナポリタンということだったけれど、夏も近く、非常に喉が渇いていた俺は、冷たいカフェオレとお薦めのナポリタンを注文した。それに続いて、あかねも同じものを注文した。
料理を待っている間に、今晩何しようかという話になったが、二人でできることなんてさほどないことだし、話でもして寝ようということになった。
というのは嘘で、俺が、
「両親から何か言われたりしないかな」
と、言ってしまったがために、この場の空気が一瞬凍り付き、
「そ、そうだね。それで疲れるかもしれないし、何かできたりはしないかもね」
とあかねも、動揺を見せ、結局、話くらいしかできないだろうというのが俺の見解であった。
その後届いた、ご注文の品。
もう、ほんと、おいしくいただきました・・・・・・
「お、おいしい・・・」
「おいしいね」
「ここで食べてよかったね」
「そうだね。瑞樹ちゃん」
ほっこり暖かくなった空気と身体を携えて、ご帰宅の予感をさせながら、喫茶店を後にする。




