第一歩前へ
俺が学校に行きたくないがために小説を書き始めて数日が経ったある日の夕方、自宅の呼び鈴が突然鳴らされた。
もちろん、言うまでもないが楓のはずもないので俺は居留守を使おうと思ったのだが、居ることを知られているのか、呼び鈴は鳴らされ続けた。
それに耐えかねた俺が玄関の戸を開けると、そこには俺が通う高校の制服姿の少年少女の姿があった。
「大輝と、それにあかねか?」
「よう、久しぶりだな!」
「大丈夫? ずっと休んでいるけど、もう元気になったの?」
左側に立っている少年が飯島大輝。スポーツ刈りの頭に、学校カバンとスポーツ用のバッグを持ち、にいっと笑っている。
そして右側に立っているのが神無月あかね。今はポニーテールみたいだ。学校カバンを両手で持ち、なんだがその持ち方だと胸を強調しているみたいでドキッとしてしまう。
俺はこの二人とは幼馴染だ。
あかねは神社の一人娘で俺と大輝が遊んでいる時に知り合った時から意気投合、それ以来俺たちは三人で遊ぶようになった。
俺もそうだが、誰かが欠けるとよくそいつのところに行ったものだ。
ちなみに今回は割と遅めの方だと思うが、それは今が節目の時期だったからだと思う。
「ああ、玄関前で立ち話しもあれだし上がるか?」
「いや、今日はお前の顔を見に来ただけだから遠慮しておくよ」
「私も瑞樹ちゃんが元気そうなの確認できたし、今日は止めておくよ」
「それにその様子じゃあ、明日辺りには来れるんだろ?」
「あ、まあ、そうだね」
俺は思わず行きたくないとは言えなくて生返事を返してしまう。
「瑞樹ちゃんは私たちと同じ三組だからね」
「間違るなよ~」
「ありがとう、あかね。それと大輝、俺はそんなに馬鹿じゃないよ」
「あ、ああ」
今度は大輝が面食らったみたいな顔になった。
いったいどうしたっていうんだろうか・・・・・・
「何かあったのか?」
「いや、お前のしゃべり方なんか変じゃないか。その、なんていうか、男っぽいっていうかさ、前はそんなんじゃなかっただろ」
「そうだね。前は一人称は俺じゃなくて私だったし。何かあったの?」
「えっ、いや、何もないよ」
否、何もないわけがなかった。
いったい昔の俺はこの二人の中でどうなっているというんだろうか・・・・・
試しに少しばかり探ってみることにした。
「あかね」
「なに」
「俺・・・私たちが知り合ったのってあかねの家の神社だよね?」
「そうだよ。私が境内の掃除をしている時に大輝君と瑞樹ちゃんが遊んでいるのに気が付いて、一緒に遊んだのがきっかけだよ。急に昔話なんてどうしたの?」
あかねが心配そうに俺の顔を見てくる。
「いや、ちょっと気になっただけだよ」
「そう?」
「そうだとも・・・・」
少しの間沈黙に染まった。それを打ち破ったのは大輝だった。
「まあ、なんにせよ。これでやっと三人そろえるな。お前がいないからなんかしまらなくてな、元気そうで安心したわ」
「そうだね。じゃあ。瑞樹ちゃん、また明日ね」
「あ、ああ。また明日」
・・・・・・・・・あれ、これもう行かないとだめじゃないですかね・・・・・・・・・・・
「それでへこんでいたわけね」
「そういうわけです」
「この際、言葉使いには気を付けてもらうとして、学校にも思い切って行ってもらいましょう」
あれから数時間後、楓が帰ってきてリビングのソファーで落ち込んでいた俺を見つけて事情を話したところからの会話である。
この会話を聞く限り、俺はへこんでいるように聞こえると思うが、事実その通りだった。しかし一つ撤回するとするならば、学校に行かないといけなくなったことにではなく、幼馴染の二人が俺を見て違和感を覚えなかったというところにである。
これを踏まえると、学校に行ったときに俺に違和感を覚える奴は一人もいないということだった。
理由は単純だ。
俺と年季の入った付き合いのあるものがあの二人以上にはいないからだ。
それでももし取り上げるとするならば、楓か両親くらいのものだ。だが、この二組はすでに結果が分かっていた。この二組は俺の変化に違和感を持っている。
つまり、幼馴染より浅い付き合いのものには影響があり、楓ほどに一緒に居る者には影響が及んでいないということだ。
これを後々桜田にも報告することになると思うが、今はそのことは放っておくことにしよう。
「言葉使いに気を付けるって?」
「言われたんでしょ。男っぽいって?」
「まあ、言われたけど」
「なら、変に荒波立てるより平和に行く方がいいじゃない。だから、女の子っぽくしゃべってみればいいの」
「そう言われてもな~」
「とりあえず、俺を私に帰るだけでも印象が変わるから、そこから気を付けてみようか。お姉ちゃん」
「・・・・・なんでお姉ちゃん?」
「だって、こっちの方がやる気出るでしょ。お姉ちゃんは」
「うぐ・・・・・」
俺はこの時猛烈に後悔していた。今までこう言われて従ってきたことは何度もあったが、それが今回裏目に出た。というより、楓の脅し文句になりつつあった。
そして、ここから俺の苦難の特訓が始まった。
後日、俺は制服を着こんでいた。
自分で言うのもなんだが、凄く似合っていた。もう、本当に桜の木の下で佇んでいたらどこかのご令嬢に見えなくもない気がしたが、そんなこと試せるはずもなかった。
だってもうほとんど散ってしまっていたから・・・・・・
たとえ散っていなくても試さなかったと思うけれど。
それからいつものように朝食を済ませて、洗面所で支度をしていると楓が「今日は念入りにしていかないとね」と言って、俺の持っていたパフを横取りした。
「お姉ちゃんしゃがんで」
「あ、ああ」
楓ににらまれた。
楓に冷たくされたことって本当に少ないから、そんな顔されるとマジで怖い・・・・・・
「え、ええ」
俺は言い直した。
そしたら楓に笑顔を返された。どうやらあっていたようだ。
そんなやり取りをあれ以来し続けていたのだが、どこかのギャルゲーやったらわかるんじゃないのっていったら、あれは男の願望が強すぎることが多いからダメだと却下されてしまった。
その結果、俺の対応が間違っていたら楓が冷たくあしらうことになったわけだが、これが意外と俺の中では効果を発揮していた。
楓はせっせかと俺に化粧をのせていく。楓が言うには、俺は薄化粧で十分だとか。
「できたよ」
「ありがとう」
その後、俺は持ち物を再度確認して、家を出た。
学校までの道のりは通ったことはまだなかったけれど、一度入試で行っていたので迷うことはなかった。
その途中で、俺はあの人と出会うことになった。
円城輪花さんだ。
俺はまだその時、その人が桜田が言っていた上司の人だとは知らなかったのだけれど。
登校途中の信号待ちをしている時、交差点の別方向の横断歩道を渡ってきた女性にいきなり声を掛けられた。
「おや、君、めちゃくちゃ美しいな。ほんと、この世のものとは思えんくらいに」
「はあ・・・・・・」
いきなり通りすがりの女性に話しかけられたは百歩譲っていいとして、その言動はまさに痴漢のそれだった。
思わず通報したくなった。
「それほどきれいだと、さぞ痴漢には気を付けないといけないんだろうね~」
「まあ、それなりには・・・・・・」
あなたがそれを言うのかと思わずツッコミたくなったのを必死に我慢した。
俺は警戒心のメーターを跳ね上げているのに対して、女性の方は俺を覗き込むようにまじまじと見つめてくる。
思わず俺は眉間にしわを寄せた。
「でも気を付けないといけないのは痴漢だけじゃないかもしれないか。まあ、でも、触りまくられないように気をつけて授業受けなさいな~」
「そうですね」
「それと、女難の相が出ているから特に女性には気をつけてな。それじゃあ、またね」
「はい・・・・・・」
その女性が去った後、数分歩いてようやく、学校に着いた。
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