分解と創造
「はう」
私は胸が締め付けられる思いがして、いや、物理的に締め付けられている気がして手で胸を抑えた。
「この空間には今までの戦いで霧散した俺の魔力が充満している。その空気を吸っているのだから、当然ソナタの中にも俺の魔力が流れ込んでいる」
「これを狙って・・・・・・」
「始めからではない。ソナタが俺の魔力に耐えうる器と判断したからこそできたことだからな」
「くっううう」
息がつらい。苦しい。意識が朦朧としてきそうだ。
「だが、これが始めてというわけでもないだろう。不完全ながら、ソナタには量子分解再構成魔術がかけられた痕跡がある。なに。俺がそれを俺の望む形で完全にしてやるだけよ」
「なに、いって・・・・・・る」
「起きたら連れて帰るとするか」
「それは黙ってられないな。いえ、私を起こしてどういうつもり」
俺の意識が深淵に沈んでいくようにして、眠りに就くと同時に、またリリンが表に強制的に出された。
「ソナタはもう一人の。いや、起こしたわけではない。ソナタは器を得たただの零体だ。自我を眠りに就かせたことで、逆転しただけだ。だが、ソナタには影響がないように見えるな」
「そりゃあ、私は瑞樹ちゃんよりはできる子だからね」
「ほう、しかしながら。ソナタも数奇な運命を辿っているようだな」
「瑞樹ちゃんの記憶覗いたのね」
「魔力を操る精度が上がれば干渉する力も上がる。自我が眠っていればブロックもない。このくらい造作もないことだ」
こともなげにいう悪魔王だが、その様子はすでに戦闘モードではないようだった。
「私はまだ諦めてないんだけど、戦わなくていいの?」
「やめておけ。ソナタの器には意識の分解、肉体制御、そして強化魔術の分解を施した。やる気はあれどやれはしない」
「な。あっ・・・」
確かに身体が動かなかった。
でも私は諦めない。身体が動かないなら、内面に魔力を向け、かけられた魔術を解析。
私にはお母さんから、唯一託されたものがあった。
それは魔力でもないし、諦めない心でもない。ありきたりで、だけど教えるのが大変なこと。それは魔術の使い方だ。
私は結局色欲の魔女にはなれなかったが、お母さんが色欲の魔女でよかった。あの日々があってよかった。
「悪魔王、あなたの固有魔術が分解だというならば、私の、色欲の魔女の固有魔術が錬金術だということもわかっているはず。だけど、私のお母さんは、魔人リリスは気づいていたわ、それが人の域に過ぎないと。魔人から魔神になった今なら使える、私は瑞樹ちゃんを起こして見せる!」
色欲の魔導書にはリリスが取り込まれたことで、その研究成果も吸収されていた。
だからその研究成果を駆使して、錬金術を『創造』へと進化させた。
「魔導書に命じる。創造によって瑞樹ちゃんを助けて」
「リリン様をマスター代行と承認。魔術を実行します」
暗い闇の底に意識が沈んでいく。
過去の記憶が霧に包まれ、男だった意識が女になっていく。さもそれが当然のように。だけど、不思議と嫌ではなかった。
ただ、何か大事なことをやり残しているようなそんな気がしてならない。
「・・・・・・・・・瑞樹ちゃん!!」
遠くから声がして、感覚的に上を向く。
そして一筋の光とともに、リリンが手を伸ばしながら
「私を思い出して!!」
そう言って、私と手を結んだ。
「り、リリン」
「うん」
「私は・・・・・・」
「自分で選べばいい。私は信じてるから」
「そうだ。私はまだやり残したことがたくさんある」
私の意識が身体へと戻される。
「悪魔王!!」
「戻ったか。これが失敗したのは初めてだな」
「創造によってあなたの魔術を打ち消したわ。そして、リリスの過去、経験、研究を辿り、もう一つ創ったわ。魔眼発動!!!」
「その深紅の瞳は覚えている。俺を退けた唯一の魔女が持っていた瞳だ」
・・・・・・ごめんね、瑞樹ちゃん。魔術は解除したけど、治せたわけじゃないの。
・・・・・・ううん、ありがとう。助けてくれて
・・・・・・それと、魔術の説明しておくね
そう言ってリリンは創造と魔眼の説明をした。
それを簡潔にまとめると、創造は魔術を構築、また解析を容易にし反転させれば打ち消せるらしい。また魔眼は相手の魔力を可視化し、魔術の起動を予知できるとか・・・・・・
「天上に立ったか。ならばもう容赦はいらぬな」
「反撃開始だ!」
私は悪魔王を鋭く見据えた。




