桜田環が動く日(前日談)
今回は番外編のような感じです。
今回の主役は谷崎瑞樹ではないことを最初に誤っておきたい。
今回の主役は僕。桜田環だ。
僕がここで話すことは瑞樹ちゃんに会うきっかけの物語だ。とは言っても物語というほどの壮大なスケールの話ではない。どちらかと言うと小話程度のものだ。
ここまで言えば察しはついてしまうかもしれないけれど、今回の目的は僕の紹介を含めた、あの手紙を出すまでの前日談になる。
僕が瑞樹ちゃんに手紙を出す一か月ほど前のこと。
僕は仕事の関係で四国に来ていた。
僕はこのあたりの街が大好きだ。ちゃんと夜があって、それでいて人並みに活気がある。森林、草木と緑がそこらにあって、人間的にも好ましい。
もちろん人間も動物の延長線上の生き物だ。だから夜がないと疲れが抜けきらなかったり時にはもっとひどいことになる。緑もその一つで、人間は緑が近くの環境にあるとないのでは、発揮する集中力が違う。これももちろんあった方が好ましい。
人によっては虫が嫌いで緑なんてない方がいいという人も少なからずいる。だが、だからと言って人の作ったものばかりのところだとしても、というかそっちの方が人が嫌う生き物が目立っているのではないかと思っていたりする。
少し遅れてしまったが僕の仕事の紹介をしよう。
僕は人助けの仕事をしている。なぜこんな漠然とした紹介なのかというと、僕の仕事に当てはまる名前がないからだ。
きっと僕の仕事をある人は、心理学者と言ったり、またある人は医者と言ったり、時には祓い人といったりするのではないかと僕は思っている。
だが、僕から言わせればどれも違う。
僕は人助けをするために人の心に忍び込むこともあるけれど、それは僕自身がその人を助けているのではない。治療するために薬を作ることもあるけれど、もちろん医者でもない。時には幽霊と対峙したりもするけれど、僕自身はお願いをしているだけだ。
いうなれば、僕の仕事は物事の舟渡役だ。
もちろん活動をするにあたって必要なことは多い。そのために必要な資格も多々習得してきたが、今はその説明は省くことにする。
話を戻そう。
僕は仕事の関係である民家に訪れていた。東京では考えられないほどの大きな家だ。この家には父、母、長女、次男、ペットの犬一匹が暮らしている。
今日の仕事はこの家で起こるようになった騒動の解決だ。
僕はこの家の大黒柱である父親に事の説明をして、家の中を見せてもらえるように頼んだ。
父親は快く承諾してくれて、僕の後に長女と次男が付いてきていろいろ説明してくれた。
「ここはどんなところ」
「ここはね。大広間でお客さんがたくさん来た時に使うの」
「でも最近はあまり来ないよね」
僕の質問に長女が応えてくれる。
「大広間では問題は起きたりしたのかな」
「ううん。ここではなかったと思う。大体が二階で起きるから」
「そうなんだね」
そして、僕たちは問題が頻発するという二階に移動した。
二階には父親と母親が使う寝室と長女と次男の子供部屋があって、物置と今は使っていないと思われるもう一部屋。
問題が起きるのは今は使っていないもう一部屋の方らしい。
問題というのは、わかりやすい言い方ならポルターガイストというやつだ。だが、少し違うところがあった。それは物音がするというより気配がするといったところだ。
実際、住人であるここの人たちも何かが落ちたり割れたり、勝手に扉が閉まったり開いたりということはないらしい。ただ気配がするのだと、そう言っていた。
初めは気のせいだと思っていたらしいが、母親がよく気分がすぐれなかったりするようになったり、子供たちが何かを感じると頻繁に騒いだことで気に掛けるようになったらしい。それがあの使われていない部屋だ。
そこからは早かった。この家の門番の役割をしている犬が子供たちと遊ぶために普段は広い庭で走り回っているそうなのだが、あいにくその日は雨で、犬も垣根の下にいた。犬は部屋に上がり、子供たちと一緒に二階に行ったそうだ。そしたら犬は使われていない部屋の前で威嚇の声をあげ、吠え続けたらしい。
それを子供伝えに聞いて見に行った父親は、これはただ事ではないと思い、僕が呼ばれたというわけだ。
「この部屋を見た限りでは使われていないみたいだけど、どうしてかな」
「この部屋前はおばあちゃんが使ってたの。でも・・・・・・」
「ああ、それでか」
使われていないにしてはきれいに片付いていた。それで見た目とのギャップに合点がいった。それに祭壇も大広間の奥の隅に置かれていたしね。
「この部屋が使われなくなってどのくらいかな」
「たぶん四年くらいだと思う。私が、小学二年生の時だったから」
「四年でこれだけか」
「お兄ちゃん。これだけって何が?」
「それはあとで話すね」
「??」
僕は一階に降りてきて家族に今の状況を話すことにした。
ただ、今回は、見た感じ僕がどうのこうのできるようなことはなさそうだ。
もうすでに僕には事の解決方法が視えていたから。
「集まってもらって感謝します。まず、最終的な状況確認ですが、問題が起きたのはあの使われていない部屋で間違いないですか」
「間違いありません」
「そして、使わてなくなって四年くらいだと子供たちから伺いましたが、それも間違いないですか」
「たぶん、もうそのくらいになると思います」
「最後に確認なんですが、あの部屋は閉め切ったままの状態で放置していましたか」
「はい。たまに部屋のドアは開けてましたが」
「わかりました」
そして、僕は一息ついてから問題の解決方法を話した。
「今回僕がすることは特にありません」
「それは、あなたでは手に負えないということですか」
父親が質問してきた問いに僕はそうではないという意志を示すため、首を横に振る。
「今回は幽霊事件という感じでお伺いしましたが、今はまだそこまでにはなっていません。僕はこれでもプロですから、ことをあまりむやみやたらに大きくしたくないだけです。それにあの部屋を確認した感じではあの部屋にお札は使えません」
「それはどうして」
「あの部屋が、通り道だからです。あの部屋にお札を張ってしまうと他の部屋に悪影響を及ぼしかねない。基本的には、この世の者たち以外もこちらが何もしない限り、何もしてこないので、道をふさがない限り何もされません。ですが、何かしてしまうと仕返しを食らいかねない」
「わかりました」
「そして、あの部屋は通り道でした。それが今回の原因です。あの部屋を閉め切っていたために、よくないものが溜まり始めてしまった。だけどそれも何かになる前の状態。ちゃんと毎日窓を開けて換気してあげれば、問題はなくなるでしょう」
「では、そのようにしてみます」
「では、私はこれで。現状の状態が治らなければまた呼んでください。それと、これは余談なのですが、四年もあの状態なら、ここの通り道はそれほど活発でもないので、霊的な現象に遭遇したりすることもないと思いますよ」
それだけ言い残すと、僕はこの家を出て行った。この家族はお辞儀をしながら僕を見送ってくれたけれど、僕からすればこの程度は問題にすらないないことであった。正直これでお金をいただいているのはちょっとやりすぎかなとも思っていた。この仕事、管轄の人が少ない分、小額ではなかったりする・・・・・・
僕は返り道、ずっと開いていなかったスマホを開いた。
特に確認するようなメールや仕事の依頼は来ていなかった。
と思った矢先に、電話が入った。画面には、円城輪花と表示されている。
この電話には出なければいけないなと僕は思った。
「環君。出てくれてうれしいよ。私の感ではそろそろ仕事も片付いたころ合いだろう」
「輪花さんならそれくらい聞かなくても知ってるでしょう」
「ああ、もちろん知っているよ。でも一応、聞いておくのは筋じゃないか」
「そうでしたね。それで、今回は何用ですか」
「もちろん仕事の話さ。次は今から送るところに行って欲しい。環君ならぎりぎり解決できるかもしれないレベルの問題だ」
「それじゃあ、行かないわけにはいかないですね。だって他の人だと」
「そうだ」
輪花さんは一息おいてから、少し声音を落として
「殺すしかなくなる」
「それで、どんな相手なんですか」
「それは私にもわからない」
「輪花さんでもですか?」
僕は疑いの眼差しだ。この人にわからないことなんて数えるほどしかないのではないかと僕は思っているから。
「そうだ。私にも今はわからない」
「ということは、今回の僕の役目はその辺ですか?」
その辺とは、つまりは時間稼ぎみたいなものだった。それを輪花さんもわかっていて、
「それもあるかもしれないし、解決できるならしてくれても一向にかまわない。だけど、慎重に動いてくれよ。じゃないと、環君が消されるとあの人はいっていた」
「あの人が言っているなら本当なんでしょうね。もうほんと、お二人で解決に行った方が早いんじゃないかと僕は何度も思ってますよ」
あの人とは会社で言うところの社長のような立ち位置の人だ。だからまず動くのは下っ端の僕みたいな人なのだが、輪花さんとあの人で組んだ方が解決率も格段に上がるだろうにそれをしているところを僕はいまだに見たことがなかった。前は組んでいたらしいけれど・・・・・
「それはできないと私も何度も言っているじゃないか。それに、これは私たち二人が導き出した解だ。時が来れば私も動くよ」
「そうですか。なら今はせめて僕が頑張りますよ」
「ああ。頼んだよ」
「はい」
僕はしっかりした声で返事をして、電話を切った。
そしてこの後、僕は頼まれた場所に向かい、瑞樹ちゃんに出会うことになる。そして、その辺のことを調べ手紙を出したというわけだ。




