十二月二十三日
十二月二十三日。
「やあ瑞樹ちゃん。今日の夜は明けないよ」
学校帰りの買い物の途中、そう言って声をかけてきたのは桜田だった。
「桜田・・・・・・もう少し普通の登場はできないの?」
「いや~、僕もこれが精一杯さ。それにここでしか瑞樹ちゃんと二人きりにはなれそうになかったものでね」
「そうなんだ・・・・・・」
俺は目の前の小麦粉をかごに移しながらにそう答えた。
今俺が何を買っているかと言えば、明日作るショートケーキの材料だった。
「あとは卵と・・・」
日ごろから両親が仕事で海外に行っていることが多かった俺たちのクリスマスはケーキは自作。チキンは市販のものを買うのが定例なのであった。
もちろん作るのは俺・・・・・・と言いたいところだが、これは楓が興味を持って始めたこと。初めは俺が作っていたけれど、今ではもう楓に任せきりになっていた。
それで、そのかわり買い物は俺がするというわけだ。
「それで瑞樹ちゃん、そろそろ僕にも関心を示して欲しいんだけれど」
「そう言われても、どうせそろそろ決戦だとか、そんなことでしょ?」
「よくわかったね!」
桜田はわざとらしく関心を露わにして見せた。
関心なんてしていないくせに・・・・・・
「それで、俺は何をするんだ?」
「何をするか・・・・・・そうだね。瑞樹ちゃんは自分のしたい戦いをするといい」
「そう。わかった」
「ずいぶんとあっさり今回は引き受けるんだね」
「あっさりっていうか、桜田」
俺は桜田に向き直って、
「桜田は俺、いや私より強いだろう。その桜田にそう言われたら反論しようとは思わないよ」
「僕が強い?」
「違うの?」
「どうしたらそう見えるんだい。僕はリリスには勝てないし、それどころか今の瑞樹ちゃんにも怪しい」
「ふ~ん、まあいいけど」
俺はそのまま買い物を続け、桜田はその後をついてくる。
「で、今日の夜は明けないってどういう意味?」
「やっと聞いてくれたね。このままスルーなのかと僕はひやひやしていたよ」
なんだか今日の桜田はテンションがいつもと違うような気がする。
「なんかテンション違くない・・・」
「まあ、僕も緊張している、ということだね」
「桜田が緊張・・・・・・」
ありえない、という言葉までは言わなかったけれど想像がつかない。目の前にいる桜田だって緊張しているようには見えないのだから。
「話を戻そうか」
「あ、うん」
「今日の夜リリスが来る。そして瑞樹ちゃんが戦うわけだけど、僕らが負けてもリリスを消滅させても、どちらも負けだ」
「いやいや、それって勝ち目無し」
「そんなことないよ。それで僕たちがとるのは封印という手段だ。ただ、封印は精神干渉系の魔術。僕もあまり得意ではないんだよね。だから緊張していると言っているんだ」
「そうなのね・・・・・・」
「おっと、そろそろか。では僕はまた後で窺うよ」
「??」
そう言ってそそくさと桜田はこの場から去っていった。
そろそろってなんだよ・・・・・・
そんな風に思っていると不意に、目隠しをされた。
「だ~れだ?」
「あかね・・・・・・」
「ピンポーン、せいか~い」
「声で分かるよ」
目隠しの手を外され、視界が開けると嬉しそうに笑みを浮かべたあかねの姿が目に入ってくる。
あかねも制服姿なことからまだ家には帰っていないようだ。
「あかねも買い物?」
「ううん」
「???」
買い物じゃないらしい。
「えっと・・・・・・」
今までとは打って変わっていきなり恥じらい出したあかねは、手をもじもじさせつつ
「い、一緒に明日クリスマスパーティーしない?」
「あ~、でも明日は楓とケーキ食べる約束してるから」
しゅんと瞬く間に、あかねが悲しそうな顔になるから俺は咄嗟に、
「でも、楓も誘ってうちでやれるかも・・・・・・」
「そ、そうね。聞いてみよう!」
ということで、買い物を済ませ、俺はあかねとともに帰宅することになった。
帰宅途中。
「私はいいけど、楓許してくれるかな」
「大丈夫よ。私が何とかして説得するから!」
ずいぶんやる気のようだけれど、俺の心配はまさにそこだった。
楓は何かとあかねに突っかかることが少なくないように思えるからな・・・・・・心配だ。
「あ、谷崎さんにあかねさん、二人も買い物ですか?」
「私たちは終わったところ。円は・・・・・・これから?」
声をかけてきたのは円だ。見たところ私服姿で、エコバックを肩から下げているから買い物にでも行くのだろうことは容易に想像できた。
「そうなんです。お母さんに頼まれて」
「偉いね。円は~」
あかねが円の頭をなでている。
「それじゃ、私はこれで」
「うん。またね」
そう言って円と別れた。
そう言えば、確かに桜田が言った通り、あの場所じゃなきゃ二人きりにはなれなかったと、俺は自分の家の門の前でそう思ったのだった。




