才能 後編
語り手がリリンになっています。
私こと、リリンはあの時死んだのだ。
私は、魂の法則にしたがい、輪廻の輪へと還るはずだった。しかし、それはなかった。
結果から言うと、母リリスの最後に唱えた魔法による影響だ。
リリスは減速させようと魔法を使ったみたいだけれど、やはり未完成の魔法。彼女の才をもってしてもそう簡単に成功はしないようだ。
私は少し安心する。
「私のことは私が一番知っている」
なんてよく聞くセリフだけど、事実そうだと思う。自分のことを自分より知っている他人なんて気持ちが悪くて想像もしたくない。
私は才能には恵まれていなかった。
だけど、私は魔法を好きになった。
母と研究に明け暮れる日々、笑いあう日々を好きになったのだ。魔法はそのついでに過ぎなかった。
しかし、学院に通い出した私の成績は頭一つとびぬけていた。
きっと幼少より魔法に触れてきたおかげだろう。
だが、学院の教員どもはあまりいい顔をしなかった。
リリスの才能は学院始まって以来の天才として知られており、事件後は森の奥に移り住み静かに暮らしてきた母だが、この学院にはかの天才と渡り合えるだけの魔術師や魔法使いはすでにいないのだった。
才能とは、持たざる者からすればあこがれや畏怖の対象にすらなるものだ。
だから私は襲われたのだろうが、今はその話はいいだろう。
魔法を扱うものにとって、肉体と魂は分けて考えられる。
時に現代ではサキュバスになっていたリリスだけれど、それを特に気にした様子がないのはそのせいだろう。
リリスは私が死んだことによりその才能を開花させたと言っても過言ではないのかもしれない。いや、開花させたのは師との別れで、私の死で完成したと言うのが正しいのかもしれないが。
リリスの最後の魔法は、減速こそできなかったが、超加速を引き起こした。しかも身体に魂を封印したまま。
結果、私は輪廻に還ることなく次の転生を果たした。
が、問題はここからだろう。
超加速によって私の魂は疲弊してしまった。だから、簡単に言って寝起きが悪かったのだ。そして、その間に自我を持ったのが、瑞樹ちゃんと言うわけだ。
そして問題はさらにある。
転生とは、現代に起こる事象ではなく未来に起こる不確定事象である。
私が転生できなかった未来。
瑞樹ちゃんが生まれなかった未来。
転生が成功しても、瑞樹ちゃんが死んでしまった未来。
転生しても私が目覚めなかった未来。
と、簡単に単純に一言で言ってしまうと、転生という神がかり的な奇跡はそう起こりえないということだ。
そんな奇跡もほんの単純なことで潰れてしまうかもしれない。
だから、つまり、奇跡が奇跡じゃない世界にしてしまったわけだ。私のリリスは。
色欲の魔法使いは、その研究の神髄を『命』になる。何かを造ったり、想像したり、育てたり、壊したり、再生させたり、それらすべてを追い求める研究が色欲の魔女の世界だった。
その名を持った母リリスにとって、世界一つを置き換え、作り、想像することは大変であっても苦ではなかったに違いない。
というか、私を助けることに夢中になって、どれだけ途轍もなく途方もなく、凄いことをしているのかすら頭から抜け落ちていたに違いない。
そして完成した世界が今の世界だ。
人知を超えた魔法。
才能だけで成しえた技ではもはやない。
そこには確かな努力があって、涙が枯れるほどの決意がある。
リリスに敬意を払うなら私は一度くらい面と向かって姿を現すべきなのだろう。
私はそれをする気はない。
私は死んで、転生した。だけど、瑞樹ちゃんがいるのなら、私は控えめくらいがちょうどいい。
「死んだ人間がよみがえることはない。そんな世界があるのなら人間なんて滅んでしまえ、だ」
失われる命があるから生まれる命がある。
次に進む一歩があるから未来がある。
私は母にもそうであって欲しい。




