何でもない
「あ、あれ? ここ......何処ッスか?」
あれから数時間経って陽が斜めになった頃、大体二時頃だね。
その頃になって一番先にペトラが目覚めた。
まあ、それまでする事が無かった訳じゃないよ。
[世界秘宝庫]の中身を確認したり、[創世終世完解]を[構想具現]で創った本に付与して読んだりしてたからね。
世界を視ても、まだあの国が消滅した以外には何も起こってない。
だから余裕がある訳でも無いけど。
「此処は俺が使ってる部屋だ」
「......アナタは......」
「ネオでいいさ」
「じゃ、じゃあネオさん......でいいッスか? アウラさん達、大丈夫なんスか? 特にイグニスさんは......」
「生きてるからそれでいいの。それより、どうする? 此処に居とくか?」
「こ、此処に居させてもらうッス」
「ま、好きにするといいさ」
俺はそれっきりペトラから視線を外して手元の本に視線を落とす。
そこには秒間千文字の速度で文字が表示されている。まあ、俺の速読は見覚も同然だから全て読める。
視界の端でソワソワしてるペトラが居る。
取り敢えず俺が創ったガラス製の器を出して、中に焼き菓子、主にクッキーを入れる。
で、俺が使っている和風な丸机の上に置く。
「食べたいなら食べていいから」
「あ、えっと、ありがとうッス......?」
何故疑問形。
まあいいや。以外と頑張って創ったんだよ。この皿。
縁に東洋龍を描いて、中心の方にオーブリエチア、日本ではムラサキナズナと呼ばれる花を描いた薄青色の結晶製の皿。
まあ、当然の如く能力の付与はしてないけどね。
恐る恐るといった感じで手に取って齧るペトラ。
「美味しいッス......」
それはよう御座いました。お気に召しましたようで、何よりで御座います。
なんてね。
まあゆっくりでいいさ。
そこから五分程、無言の時間が続いた。
「あの、失礼を承知で聞くッスけど。ネオさんって、何者ッスか?」
「......? どういう意味で?」
いや、意味は分かってるけどさ。
一応惚けてみた。
「ヴェルデ様から様付けで呼ばれていた事もッスけど。なんで、あんなに強いッスか? もしかして、ヴェルデ様より強かったりするッスか?」
あ~。コレ答えたらダメな奴じゃないかな?
まあ、柔らかく微笑んで流せないかな。
って訳で情報の開示と同時にやってみた。
髪の位置取り、光の反射、流し目の様な視線。(スキルなしの)演算の上でやってみた。
結果、答える気は無いと理解してもらえた。
なんかポカンとした表情のまま固まってるけど無視でいいか。
隠蔽して本に視線を戻す。
今本に書いてあるのは[世界秘宝庫]の中身だね。
相当な量が入ってるからね。
武器だけで十数ページはあるよ。
「......わたしは......ペトラ?」
「あ、アウラさん。大丈夫ッスか? 痛いところとかないッスか?」
どうやらアウラも起きたみたい。
皿を見たら結構クッキー減ってたから補充した。
俺もちょっとずつ食べてるけどね。
偶にクッキーを摘まんだ指先に熱を集めて温めてから食べたりもしてみた。美味しい。
それは良いとして。
「イグニス......大丈夫かしらぁ?」
「大丈夫ってネオさんが言ってたッス」
「ネオ?」
「そっちの人ッス」
俺を示すペトラ。
アウラの方は俺を見て思考が一瞬で疑問に埋め尽くされてた。
そう言えば俺、本気出した事ないな。全力で戦った事はあるけど。
まあいいや。
「貴方は、一体何者なのよぉ?」
「それはウチも気になったッス」
俺か? まあ、うん。
「何でもないさ」
「そんなはずないッス!」
「あり得ないわよぉ。あの白髪の姿だってそうじゃない?」
「......君は、人間なの? それとも龍なの?」
あ、ワーテルも口出してきた。
起きてたのは気付いてたけど。
「ワーテル。起きたのねぇ」
「ワーテルさん」
「僕は何とも無いよ。大丈夫」
う~ん。本当に女だったらかなり健気な子になるのに。
残念な事に男の娘なんだよね。
俺? 俺は無性別なので。男でもあり女でもあるのだよ。どっちでもない人形とも言えるけど。
「それで君は何なの?」
「何でもないよ」
「そんな筈無い。君程の実力者を僕達が知らない事も、ヴェルデ様が君に敬意を払う理由も」
............《情報の開示。存在構成の安定化を図ります......成功しました》
「何でもないんだって。俺は何でもないの。お前等が気にすることは何も無いさ」
視線を外して外を視る。
右肘を立てて頭を乗せた俺に何か見たのか、それとも何も見えなかったか、今の俺には判らない。解らない。
あれから何分経ったか。多分十分程しか経ってないと思う。
隠蔽はしたからもうなんともなってない筈。
「ぅ......ぐぅ......」
「イグニス!」
「イグニスさん!」
「イグニス。大丈夫かしらぁ?」
イグニス意識を取り戻したみたい。
「俺は......」
「お前は俺に負けたの」
「オマエ......」
苦痛に顔を歪めてるけど仕方ないでしょ。
「俺は、負けたのか......」
「負けたくなかったの?」
「......別に、お前には関係ないっ」
「......じゃあ、一つ助言。守る事に力を使え。己が身を滅ぼしてまで、等とほざくな。貴様は愛されているのだからな」
一時的に白神龍王になったが、喋り方はこっちの方が威圧的だと思った。
まあいいや。
「オマエ......まさか......」
「何時迄もしんみりするのもいいけどね。イグニス。その傷、治す?」
「いや、いい。ぐっ」
「イグニス! まだ起きちゃダメだよ!」
「そうよぉ。まだ安静にしてないとダメよぉ」
「そうッス! 動いたら傷に障るッス!」
苦痛に顔を歪めながら体を起こしたイグニス。
「取り敢えずその包帯変えてあげるよ」
「どうやってだよ」
「まあまあ」
俺は何か不満そうなイグニスを無視して[世界秘宝庫]と[万象召喚]の並列発動。
すると、一瞬にしてイグニスの包帯が変わった。
まあ、空間魔法中級『交換』を疑似的に再現したと思ってくれたらいいよ。
「どうやったんだ?」
「気にしないで、さ。ヴェルデ達の所に行こうか」
「あ、ちょっと待ちなよ!」
「ちょっとぉ!」
「え、えっと、えっと、イグニスさん! ネオさん!」
まあ、無視して部屋を出る。
その後を慌てて四人が出て来た。当然イグニスは支えられてる。
さ、今から本格的に動き出そうか! って言っても、今日は俺の案を伝えるだけだけどね。




