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魔族

 俺達が声のした方、つまり訓練場の上空に視線を向けると、紫色の髪に紺の瞳、浅黒い肌を持った魔族(フィンド)が黒い蝙蝠(コウモリ)の様な翼を生やして飛んでいた。


「オマエ、魔族《フィンド》か!?」

「何故この城へ入れた!?」


 オルガとルイさんが叫んでいる。


「黙れ。脆弱にして下等な人間風情が」


 うわ。面倒臭いこの人。特に言い回しとか。


「ここには貴様等を排除しに来たのだ。無駄に抵抗されても面倒だ。一度で片付ける」


 そう言うと同時に壮絶な殺気が訓練場を覆う。あのオルガでさえ冷や汗を掻く程だ。


 男は右手を頭上に向かって掲げると、詠唱を始めた。


「昏き星 堕ちては全てを飲み込み その闇にて破壊せん 『堕昏星《スタラ・フォンセ・フォール》』」


 男の掲げた右腕の上に、半径二メートルの黒い球が現れた。


「なんて、魔力っ!」

「私じゃ、止めきれないっ!」


 リンが男の込めた魔力量に驚愕し、サヤが悔しげな顔をして呟いた。


「これで終わりだ」


 男が呟きながら右腕を振り下ろすと、その頭上にあった黒球(こくきゅう)が降って、違うか、堕ちてきた。


「させっかよ!!」


 そこにカイトが飛び出し、〈狼魁(ろうかい)〉を構えて魔法陣を発動させる。


「『火炎壁(フレイム・ウォール)』!! 『岩石壁(ロック・ウォール)』!!」


 すると、黒球の前に火炎の壁が出現し、更にその火炎の壁の後ろに岩石の壁が出現した。


 黒球は火炎の壁にぶつかるが、火炎の壁が黒球を止められたのは一瞬。


 直ぐに岩石の壁に衝突した。岩石の壁は火炎の壁よりほんの少し耐えた。


 だがそれも誤差の範囲内。


 殆ど威力の落ちていない黒球はカイトへと迫る。


「魔よ 乱れろ 『魔乱(マジック・レヴォルト)』!! 我 魔を求める 『魔吸《マジック・ソープション》』!!」


 リンが咄嗟に魔法を発動させ、黒球に込められた魔力を減らす。


「うおぉぉおおぉぉおお!! 『魔力切断《マジック・アブレイシャン》』!!」


 カイトが〈狼魁(ろうかい)〉の能力を発動させながら黒球に斬り掛かった。


 『魔力切断《マジック・アブレイシャン》』は〈狼魁(ろうかい)〉に込めた魔力の二倍まで上の魔力を斬れるようになる能力だ。


 まあ、剣士として腕を上げて行ったらこんな能力なくても魔力を斬る事は出来るけど。


 黒球とカイトの力は拮抗(きっこう)していたが、先に打ち破ったのはカイトだった。


「こっんのおおぉぉおおおぉおおぉ!!」


 カイトが黒球を真っ二つに切り裂くと、黒球は黒い粒子となって散った。


「何? これを破るか......」

「オレの事、忘れんなよ!!」


 男が驚いていると、男の背後に跳び上がっていたオルガが右腕に紫炎(しえん)を纏わせながら言い放った。


 男が振り向こうとするより先に、オルガがその右腕を振り抜いた。


――ドゴオオォォォオン!!


 凄まじい音を立てて訓練場の地面に叩きつけられた。


 砂塵に包まれて見えない男の姿。


 オルガとカイトは俺の近くに来て、ルイさんとエレスさん、リン、サヤ、シンドウは怯えてる生徒の前に守るようにして立っている。


「人間風情がああぁぁあぁああぁ!!」


 砂塵が吹き飛ぶと同時に、中から血だらけの男が出てきた。


 所々に重度の火傷が見えるから、あの紫炎(しえん)に相当焼かれたようだ。


 目を血走らせながら此方を睨んでくる。


「貴様等なぞ、この私がっ!!」


 俺は男の目の前に瞬時に移動して、魔法を発動させた。


 男の両手首には虚空から伸びてきた銀色の鎖が巻き付いている。


 あれだ、[創始魔法]の劣化魔法にあたる魔法、[鉄鎖封縛]だ。一応[創始魔法]にも似た様なのがあるからな。


「な、なんだこれは!?」


 ジャラジャラと音を立てる鎖だが、壊れる事は無い。


「一つ、聞く」

「誰が貴様なぞにっ!!」


 一瞬、こいつだけに殺気を浴びせた。


「もう一度、聞く。どうやって、この王都を囲んだ?」

「......フッ。そ、そんな事か。簡単な話だ。事前に仕掛けていたのだ。何故か一か所だけその仕掛けが無くなっていたが、支障は無い。それより何故貴様がそんな事を聞く」


 オカシイ。俺が潰したアレ以外一か所も無かった。


 地面にも埋まってなかったし、[世界眼]でも[真理眼]でも視えなかった。


 なのに、仕掛けていた? まさか、いや、だが、どうやって?


「まさか、貴様が潰したのか。あの『スタリウム』とかいう場所に居た者も、貴様が!?」

「......ッ!!」


 俺が男の言葉に反応するより、空に視線を向けた。


 そこには、黒く分厚い雲が渦を巻いていた。


 そこに、膨大な魔力が集まっている事も。


 この周囲の奴らの魔力が、目の前の男の魔力が高まっている事も。


 気付いた。いや、気付かされた。


「あ、あのお方の力っ!!」


 男は魔力を全開で放ちながら俺の[鉄鎖封縛]を壊し、翼を使い上昇した。


「貴様がもし、≪黒乃滅者《シュヴァルツ・ディシース》≫だとするならば、あの方に報告しなければ」


 そう言いながら飛び去ろうとする男の背を見ながら、俺は呟いた。


「『咲き散れ 雹華(ひょうか)』」


 その瞬間、男が氷の華に包まれ、砕け散った。


 だが、空中に赤い光が浮いており、それが飛び去ろうとしているのを見つけた俺は、[無限収納(インベントリ)]から大弓を取り出した。


 全長二メートル近くの、赤と黒の混ざった弓。


 名を〈滅弓(めっきゅう)・龍穿(りゅうせん)〉。


 俺はその弓を構え、黒雷の矢を作り出し番える。


 そして、赤い光の球に向かって射る。


 雷速を超えた速度で飛んでいった黒雷の矢はそのまま赤い光の球を貫き、四散させた。


 俺は[無限収納(インベントリ)]に大弓を仕舞い、転移(テレポート)結晶(クリスタル)を取り出し魔力を込める。


 そして皆の方へ走りながら、元クラスメイト達の上空に向かって緩く投げる。


「おい! ネオ! どうしたってんだ!」

「ネオ! オレたちに説明しろ!」


 何かを騒いでいるカイトとオルガの二人の手を取り、皆の下へ近づく。


 そして、皆の頭上に浮いているクリスタルの範囲内に入って、呟いた。


「転移結晶(テレポートクリスタル)、発動」


 その瞬間、その場に居た全員が光に包まれた。


 光が晴れた後は誰も居なかった。


 この日、クライヒ王国王都『トイフェル』が魔族(フィンド)によって、滅ぼされた。







≪黒乃滅者《シュヴァルツ・ディシース》≫は二つ名ではありません。ご了承下さい。

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