武闘大会予選 肆
ネオが去った後も闘技場内は暫くの間全員が呆けていた。
実況者が一番最初に我を取り戻し、そのままどうにかこうにか観客を含めた全員の意識を取り戻させ、予選試合、フィーアの試合が開始された。
その試合では、凱斗による無双であった。それも当然である、敵との戦闘は常に全力で、特訓は文字通り必死になって取り組んできたのだ。並の者では相手として務まるはずもない。
英雄に、勇者に憧れた少年が手にした“守る力"。大切を守りたいと誓った時、既に彼の者が手に入れることは決まっていたのだろう。
今、凱斗は自分の力が何処まで通用するのか確かめるためにこの大会に出場した。この“守る力"はどれだけの強さが相手なら守り通せるのか、そして大きくなっていく力に慢心しないためにも予選は何としてでも勝ち抜こうと思ったのだが。
如何せん、出場している選手たちが弱かった。先程のツヴァイやドライでは、特にドライでは度肝を抜く様な選手が出場していたというのに。
それでも、予選を勝ち抜き本選に出場すれば強者と闘えるのだ。
ならば、この選手達には悪いが弱い事を感謝するべきだろう。
試合はニ十分弱で終了した。最後に残っていたのは当然の如く凱斗唯一人だった。凱斗は明日始まる本選に闘志を燃やしながら、優勝を狙う。
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やっぱり、カイトが勝ったか。
そりゃそうだよね。【守護者】と認められた奴相手に、あの程度じゃカイトの相手になるわけないし。
それにしても明日が本選か......俺に、全力全開の本気を見せてくれるか? あの時からどれだけ強くなったか、見せてくれ。
さてと、明日まで何して時間を潰そうかな。
俺は『スタリウム』全体を見渡せる丘で立ち上がる。きっと、今の俺の顔は薄くでも笑っているはずだ。
確かめたりはしない。自分を第三者視点から視るのは意外に不思議な感じがするしね。
ふう。
「出てきて」
相変わらず無機質な、機械的な声音で俺は言う。背後にいる男に言う。いや、俺が言ったら脅しになるのかな?
彼方さんは俺が完全に気付いている事を悟ったのか、素直に出てきた。
「何時から気付いていた?」
警戒と僅かな困惑を滲ませながらも冷静に問い返してくる男。
浅紫色の髪と同じ色の瞳に浅黒い肌を持ったその男。俺が知らないとでも思ったら大間違いだぞ?
「魔族」
俺が種族名を口に出すが、動揺はさせられなかった。まあ、当たり前か。
「貴様が何時から気付いていたか気になるところではあるが、知られた以上は消えてもらう」
中々物騒な事言うね。目を細めながら殺気をぶつけて来るけど無駄だよ? だってお前は既に、
囚われているんだから。
「ッ!! なんだ!! 何をしたっ!!」
急に周囲の風景が昏い空に赤い荒野に変わったら、そりゃ驚くよね。
けど、それよりも驚いたのは何より、俺の背後に浮かぶ巨大な蒼い月。ブルームーンだろうけどね。
ブルームーン。稀に起こる、満月が蒼く見える現象。その多くは火山の噴火や隕石の落下時に起こるガスや塵などの影響だ。
そして、俺の背後にはブルームーンがある。それが何を意味するか。
「なんだ......あれは......」
魔族の視線は俺ではなく、そのさらに上の上空に向いていた。
いや、違う。魔族が見ているのは轟音を立てながら落下してくる、炎を纏った巨大な岩。隕石に向いていた。
隕石の直径は十メートル程ではあるが、人を殺すのならその程度でも十分なのだ。
言い方を変えたら、魔物なら耐える奴がいるって事だけど。と言うか、人によっては直径十メートルの隕石ならどうにかする奴もいるけどね。
けど、目の前の魔族にはどうにもできないらしく、焦燥感に満ちた表情をしながら背中から黒い蝙蝠みたいな翼を生やして逃げようとした。
ま、無駄だけど。
此処は[夜之神]の固有結界内部、いわば敵の腹の中ってやつなんだから。
魔族の必死に逃走を隕石が許す訳もなく、努力虚しく隕石は無慈悲に男を飲み込みながら爆発した。
無慈悲って言っても俺がやった事なんだけどさ。
周囲の景色が元の丘に戻る。
俺の目の前には一切外傷が無く、しかし確実に命の灯が消えた魔族の男の屍があった。
見つかっても不味いし、消しとくか。
[森羅万象]を使って、地面を盛り上げさせる。そのまま屍を飲み込むと、元の形に戻る地面。
因みに、地面の中では既に屍が土壌になっていたりする。
まあ、暗黒魔法に有った無機物・有機物問わず腐らせる魔法を[森羅万象]で再現しただけだけどね。
はあ。本当、明日まで何しようかな?
「むう......」
おっと、思わず声が出た。ま、いいか。いつも通り、適当に過ごしていよう。




