十話 「隣国の噂」
10話目です
俺は今、嫌々ながらハンティングに付き合わされている。ハンティングとは、貴族のお坊ちゃま奥様方と言う暇を持余している方々が、スリルを味わう為に牙や爪を剥された魔物を、安全な場所で狩りをするゲーム。言わば、レクリエーションだ。その大変詰らないゲームに、町の領主ソウナン男爵から是非にと誘われた次第だ。
同行者に隣国の伯爵家のご令嬢『カトリーヌ嬢』と伯爵夫人『シャルロット夫人』が居るとは思いもしなかった。
「すまんエイジス殿。『バランドール伯爵』より、夫人とご息女の相手を頼まれてな断りきれなんだ。ご存知の様に私は独り身だ。ご婦人方の接し方がよく判らん。っで、同行者を探していたら、先方も貴殿の話を聞きたいと言うのでな…許せ!この埋め合わせは何時かするので、今日は付き合ってくれ」
仮にも相手は貴族。頭を下げられれば俺も無下には断れない。と言う事で、付き合ってみたのだが…どうやらこれは、独り身の男爵と伯爵令嬢とのお見合いの席の様だ。何かと伯爵夫人が男爵と娘とを、くっ付かそうと画策している。こうなると…出張ってきた俺は正直お邪魔虫以外何者でも無い。当たらず触らずで、時を過ぎるのを待つしかなかった。
「中々にソウナン様は博識なのですね」
「ええ、お母様、私もお話を聞いて驚きました」
「いえいえ、私の知識等、町の冒険者から聞いただけの話です。我が町は優秀な冒険者や職人が多く、自慢の民ばかりです。特にこのエイジス殿は、冒険者でありながら、鍛冶師・錬金術師と幅広く、この町に色々と富を与える良き隣人ですよ。正直、資産だけで言えば我が国でもトップクラスの大商人に匹敵するでしょう」
「なんでも、凄い剣を御造りに成られて、王様に御献上成されたとか!?」
「はい。あの剣は私も拝見しましたが、あれ程素晴らしいモノは無いでしょう。王様も大変お気に入りされ、常に身に着けていらっしゃると聞き及んでおります」
「まぁ~そうなの。お見掛けする限りでは、お若い方に見えますけど」
『へぇ~そんな話初めて聞いたぜ。只の鉄の剣なのにな。貴族っちゃ~何が自慢の種なのかイマイチ判らん。って、おいおい、男爵様よ~今日はアンタが主役なんだ。イチイチ話を俺に振るんじゃね~よ』などと心に思いながら、
「嫌々私など男爵様のお力添え在っての話で御座います」
と心にも無いオベンチャラを一応口にしておく。なんたってお見合いの席だ。俺の所為で破談とかなったら、洒落にならねぇ。
◇ ◇ ◇ ◇
キャーとご息女様が叫びながら、槍を振るった所、獲物の足へヒット。偶然にも、ソウナン男爵の剣が刺さり見事討ち取った。コレを切っ掛けに、当事者二人の間は急速に縮まる。いよいよ持って、俺は邪魔者へと確定した。
一向と俺は、茶屋でお茶をした所で伯爵夫人が切り出した。
「夫から、是非エイジス殿の工房を見学しろと言われているの。隙を見て家宝になる剣でもオーダーしてコイ!だなんて云うものですから…ソウナン様、娘を暫く預かって頂けますか?私は、これからエイジス殿の工房にお伺いしたいと思います。よろしくて!?」
例え隣国と言っても、我国の友好国それも伯爵夫人のお願いといえば…男爵と俺は逆らえない。こうして後半は二手に分かれて行動することになった。
「伯爵夫人…今回、ご息女様と男爵様のお見合いとは露知らず、同席いたしました事平にご容赦下さいませ」
「フフフッ流石に貴方には、今回の目的がお判りでしたか、コチラこそ当家の問題に巻き込みましてお許し下さい。ですが、貴方様をご指名したのは私です。貴方の噂は我国にも届いておりますのよ」
「あっ…えっと…でわ、本当に剣の一振りでもご注文なさるおつもりですか?」
「そうですね…貴方の噂は、例え王の命でも姿を現さない。本来ならば、その不貞で打ち首死罪。所が、剣と鎧の献上だ余の出来の凄さに王が逆に褒美を与えるって話と素晴らしい作品の法外な請求額の二つが、殿方の間で広く浸透していますわ…そして、私達女の間ではもう一つの噂が実しやかに届いております…さて、どうしましょう!?私貴方様に、ご依頼するに致しましても、手持ちが有りませんの、他に支払い方法はございますか?」
伯爵夫人の目は虚ろに妖しく輝いている。さっきまで、俺に興味を全く抱いていない処か、俺の存在すら見えない素振りをしていたのに…さて、このご夫人は娘の見合いと火遊びと…どっちが本命で来たんだ?と俺は考えた。
結局、考えるのを辞めた俺は、伯爵夫人を工房にお連れした。レナ達は流石に貴族の奥方の登場で少々驚いていたが、彼女の目的を感ずくとそれなりの対応に出る。
最終的に伯爵夫人は俺達家族と影を含んだ5人に新たな扉を開かされる体験を得た
「ふぅ~噂なんて当に成らないわね…今日の出来事は私の創造を超えるものでした。
貴方は…貴方方ファミリーは、とても素晴らしい…素晴らしい一時でした。主人に爪の垢を飲ませたい気分です」
その言葉を残し、夫人は帰って行く。
…えっ!?男爵はどうなった?かだって?巧く行ってるようだぜ、この夏から首都にご息女は留学に来るらしい。ついでに、週末はこの町で過す日々も増えるだろうって、先日男爵が俺ン所に挨拶がてら遊びに来て言ってたよ。
伯爵夫人は、どうなたかって?さぁ~そこまでは知らないな。大体俺はコブ付とは関係を持たない主義だったんだ。これでも一応、国家間でトラブルに成らない為に働いたと思ってるぜぇ。まぁ~旦那の伯爵にバレたら俺の首も飛ぶかもしれんが…
って事で、さっき伯爵家に『ミスリル製の鎧一式と剣』を送っておいた。ランク5だ。アレで俺の首も皮一枚で繋がると思う。
今回の件で思ったね…やっぱり火遊びは危険だと思う。遊びは、尻をテメェで拭ける程度で押さえるのが一番だ。まぁ~あの、伯爵夫人なら、巧い具合に旦那を手玉に取るだろうが…隣国で俺の噂が広まらない事を祈りるばかりだ。
今日も今日とて変わらず、俺は飄々と暮らして居る。
十話 「隣国の噂」 完




