第8話 「残ったもの」
笑い声だけが、残っていた。
「……あは」
さっきより、少しだけ遠い。
でも、消えてはいない。
「……もういい」
ヴァルが、低く言う。
「これ以上は無理だ」
誰も、否定しない。
リクだけが、その場に立っている。
「……ほんとに?」
小さく呟く。
返事はない。
ミナトは、まだ笑っている。
「……あは」
目は、どこも見ていない。
さっきよりも、少しだけ――
“空いていた”。
リクは、手を下ろす。
何も掴めていない。
それでも、指先にだけ違和感が残る。
「……触れたよね」
誰に言うでもなく、呟く。
「でも」
言葉が、続かない。
ユエが、静かに言う。
「戻ってないわけじゃない」
リクが、顔を上げる。
「……え?」
「ほんの少しだけ」
ユエは、ミナトを見ている。
「さっきより、“壊れ方が変わってる”」
沈黙。
「……それ、意味あんのかよ」
ヴァルが、吐き捨てる。
「意味はあるよ」
フィラが言う。
「だから、残ってる」
リクは、もう一度ミナトを見る。
笑っている。
何も変わっていないように見える。
それでも――
完全に同じではない。
「……じゃあ」
リクが、少しだけ前に出る。
「もう一回」
「やめろ」
ヴァルが、すぐに止める。
「今ので分かっただろ」
「戻らねぇんだよ」
リクは、動かない。
少しだけ考えて、
それでも、首を振る。
「……違うよ」
「全部じゃないだけ」
沈黙。
ユエが、わずかに笑う。
「諦めないんだ」
リクは答えない。
ただ、視線を落とす。
自分の手を見る。
何も変わっていない。
それでも、
さっきとは違う気がする。
「……行こう」
小さく言う。
誰も動かない。
その時だった。
「……あは」
笑い声が、少しだけ変わる。
四人の視線が、一斉に向く。
ミナトの口が、わずかに動く。
「……ま……」
音にならない。
それでも、確かに。
「……おい」
ヴァルが、低く言う。
「今の」
「聞こえたね」
ユエが、静かに言う。
フィラは、何も言わない。
ただ、見ている。
リクだけが、一歩踏み出す。
「……まだいる」
今度は、迷いがなかった。
笑い声が、また戻る。
「……あは」
でも、
さっきとは違う。
ほんの少しだけ、
遅れている。
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