第10話 ボス戦
『レベルアップしました。【武器強化】の効果時間が十秒になりました』
お、ついにレベルアップ。
シルバーウルフの群れを相手にしたかいがあった。
出現率が低い分、経験値も多いのだろうか。
さて、今回のレベルアップで“武器強化”の時間が伸びた。
クールダウンが減少した時に効果時間が伸びたらなーって思ってたから凄く嬉しい。
ワープナイフのぶん投げ戦術がより効果的になりそう。
俺も成長してきたなぁ。
「……そういえば」
“武器強化”のクールダウンっていつから発動するんだろう?
効果時間中? 効果が終わった時?
戦闘中にいちいち発動タイミングなんて確認できないから、その辺の仕組みについて把握できていない。
今のうちに確認しておくか。
「“武器強化”……」
右下にアイコンを表示させた状態でワープナイフに“武器強化”を使用。
さて、クールダウンはいつから発動……
「えっ」
もうカウントが始まってる。
ワープナイフはまだ光ったまま。
つまり“武器強化”のクールダウンは発動直後から適用される?
今のクールダウンが十七秒で、効果時間が十秒。
ということは実質七秒?
え、ヤバくね。
七秒待てばもう一回“武器強化”が使えるのか?
ナイフ投げもワープナイフで試行回数が増えたし、そもそも“武器強化”自体が汎用性の塊。
こういう抜け穴を見つけるのって案外楽しい。
面白いな“クールダウン”って。
「あれは……」
ダンジョン内を歩いていると、目の前に巨大な扉が出現した。
絶対ボス部屋だ。こんなわかりやすく現れるなんて。
この先にいるボスを倒したら、俺も晴れてシルバーランクへ昇格ってことか。
(ボス……ボス……)
生唾を飲み込み、少しだけ呼吸のテンポが速くなる。
ナイフを握る手も無意識に強くなる。
頭の中に成功と破滅の未来、両方が浮かぶ。
だが、俺は深呼吸をした後、今はやめておこうと決断した。
(色々調べてからでも遅くないな)
慌てる事はない。ボスは逃げたりしないのだから。
俺はダンジョンに潜り始めて一週間も経っていない。
調子に乗って突撃して大惨事に巻き込まれたらどうするんだ。
危ない危ない。
散々、自分に言い聞かせてたのに、目の前にするとすぐ手を伸ばそうとする。
このタイミングで冷静になれてよかった。
さっさと帰って美味しいご飯を食べよう。
扉に手を置きながら、俺は深呼吸をした後、その場を離れようと……
ゴゴゴ……
「ん?」
振り向くと、扉が勝手に動き出していた。
なんで? 俺、そんなに力を入れてないぞ?
巻き込まれる前に逃げようとしたのだが……
身体が宙を浮いている。
というか扉の奥に吸い込まれる。
待て、まだ戦うつもりはない。
俺はただもたれただけで……
ゴォオオオオオオッ!!
「いてっ」
強風に巻き込まれ、俺は扉の奥へと運ばれてしまった。
……まさか扉に触れるだけでアウトとは。
押してもないぞ? そんな理不尽アリかよ。
ワープナイフが置いてあった部屋よりもトラップじゃないか……
ボン!! ボン!! ボン!!
「っ!!」
文句を言っても遅い。
壁面近くの灯篭に火がつき、部屋内がより一層明るくなる。
……覚悟を決めるしかないか。
ボスに勝つしかない。正直、いつかは倒さないといけなかった。
その予定が少し早まっただけと思う事にする。
灯篭が全て点火されるのと同時に覚悟を決め、戦闘態勢に入る。
そして中央に魔法陣が展開され、中から一体のモンスターが出現する。
「シャアアアアアアア!!」
トカゲのような外見の人型モンスター。
剣と盾を構えながら、俺へと鋭い目で威嚇する姿。
リザードマン。
ファンタジー作品だとお馴染みのモンスターだ。
(迫力が違う……)
ゴブリンやシルバーウルフとは比較にならない。
俺に対する視線に明らかな“殺意”が込められていた。
ダンジョンは過酷でサバイバルに満ち溢れた世界。
そう強く実感させてくれた。
(ま、なんとかするか)
緊迫した状況なのに、俺は意外と落ち着いていた。
ネガティブになったって仕方ない。
生き残ればオールオッケー。
考える事はただ一つ。
リザードマンを倒す事だけだ。
「シャアアアアアッ!!」
「っ……来るか」
早速、リザードマンが剣を振り上げながら襲い掛かる。
トカゲのような足なのに、シルバーウルフよりも速い。
俺も咄嗟に反応してワープナイフを突き出したのだが、
「盾……!!」
左手の盾によって防がれる。
攻防一体というわけか。このリザードマン、相当やるぞ。
「っ……てぇ」
振り下ろされた剣が頬をかすめる。
「はぁっ!!」
屈むのと同時にリザードマンの足元を半円描くように蹴り飛ばす。
リザードマンはバランスを崩し、地面に手をつく。
生み出した隙を逃さず、俺は再びナイフを振り下ろそうとしたのだが、
「えっ」
リザードマンの口が大きく開かれたと思えば、中から炎が放射状に吐き出された。
攻撃を中断し、すぐさま地面を蹴って後方へ回避。
剣と盾に加えて遠距離攻撃もあるなんて。バランスがよすぎる。
「このっ……!!」
一旦リザードマンから距離を離して“ファイアボール”を顔面へと投げる。
しかし、それすらも盾で防がれてしまった。
防いだ後、リザードマンの頬が若干上がったように見えた。
「キシャア……」
そして再び炎を吐いたかと思えば、その炎が向かった先にあったのは、なんと剣。
刃に炎が点火され、燃え盛る剣が完成。
威嚇するように炎の剣をぶんぶん振り回しながら、俺の方へにじり寄る姿。
喰らったらひとたまりもないな……
「シャアアアアアア!!」
そして炎の剣と共にリザードマンが突撃してくる。
相変わらずの素早さ。体勢を崩してるから回避は難しい。
俺は斬撃を防ごうと、二本のナイフを十字にクロスして前に出す。
ギィン!!
「ぐっ!!」
が、あっさり力負けしてそのまま壁まで吹き飛ばされる。
「あっつ……」
当たってないのにこの熱さか。
喰らったら火傷どころか溶けそうだ。
さて……どうやって勝とうか。
“武器強化”も“ファイアボール”もクールダウン中。
再使用できるまでの時間は……両方八秒か。
スキルなしでリザードマンに勝つ事は不可能。
なら、俺にできることは一つ。
全力で時間を稼ぐこと。
「はぁっ!!」
立ち上がるのと同時に二本のナイフを投げる。
リザードマンは二本のナイフを盾で防いだ後、剣を掲げて再び振り下ろす。
が、今回は避ける事に成功。
リザードマンの動きにも慣れてきた。
残り六秒。
「せーのっ!!」
「キシャッ!!」
俺はリザードマンの盾に向かって全身を使った体当たりをしかける。
バランスを崩し、盾を手放して地面に背中を打ちつけるリザードマン。
剣を振り下ろしたことで重心がズレていたからか、スキルなしの体当たりでも十分な威力があった。
残り三秒。
「キシャアアアア!!」
だが、リザードマンもただでは倒れない。
倒れるのと同時に炎の剣を俺の元へ投げてきたのだ。
慌てて回避を試みるが……少し遅かった。
ズバッ!!
「いっ……!!」
その場でしゃがんだ俺の肩をリザードマンの剣がかする。
僅かな傷に塩を塗られたような激痛が走る。
あぶねぇ。
痛みで冷静な思考が飛びそうになる。
けど、これで二秒稼いだ……
「キシャアアアア……」
残り一秒。
武器を失ったリザードマンの口が大きく開いたのと同時に、俺は息を大きく吸う。
「わぁあああああああああああっ!!」
「っ!?」
ボス部屋に響き渡るくらいの大声を張り上げた。
ひるんだのか、リザードマンの動きが一瞬だけ遅れる。
「“ファイアボール”」
クールダウン完了。
アイコンが再び点灯するのを合図に、俺はファイアボールをリザードマンへぶん投げた。
「キシャアアア!!」
迫りくる炎の弾をリザードマンはなんと正面から受け止めた。
炎を吐くだけあってある程度耐性があるってことか。
全身を黒焦げにしながら、リザードマンのゴツゴツとした腕が迫る。
同時に俺も右手を突き出す。
俺も、リザードマンも、武器は持っていない。
己の肉体のみの戦い。
単純な殴り合いなら、モンスターであるリザードマンが圧倒的に有利。
「かかった……」
だが、予想外は存在する。
うまくいきそうな流れを前に俺は思わず頬を緩ませた。
グサァッ!!
「キシャッ!?」
知らなかったろ?
俺のナイフがワープするって。
手元にワープしてきたナイフに“武器強化”をかけ、そのままリザードマンの腕を突き刺した。
「キシャアアアアアアッ!!」
「終わりだ」
ズバッ!!
リザードマンの全身を真っ二つに斬り裂く。
身体が再び地面へ倒れ、光の粒子となって消えていく。
「はぁ……」
ようやく倒せた……流石はボスだ。
今まで以上に傷を負ったし、こうして生き残れたことが奇跡かもしれない。
あと、クールダウン中の動きをもう少し増やした方がいい。
先に進めばスキル一発で倒すのも難しいだろうし。
予定より早くなったが……これで俺もシルバーランクか?
面白かったら、ブクマ、★ポイントをして頂けるとモチベになります。
m(_ _)m




