第47話:襲撃者たちへの対応
攻撃は続いている。
降り注ぐアーツを利用した、銃撃や爆撃は、雨あられと降り注いでいる。
利用しているBリキッドの総量はどれほどか、と思うが、国家単位ならば用意できない量ではないだろう。
「さて?」
とはいえ、この圧力で殺し切るのは難しいだろう。
敵の狙いは、タイラントやフェベリウスがいる中心部だ。
ハイドやアレイの戦車のある外周に近いところは、それほど攻撃の密度がない。
防御に専念していれば攻撃が突破することはないだろう。
ただ、防御に専念するために、動けなくはなるが。
では、中心部はどうかといえば。
「・・・・・・うん。人間やめてるな。ありえんわ」
ハイドが確認する限り、ノエルが中心にいるタイラント、フェベリウス、それからフェベリウスの従者である二人の騎士の計四人を守っている。
実体剣一本で、どうしてあそこまで捌けるのか。
しかも、アーツの類は一切発動してはいない。
「うーむ・・・・・・」
ああいうのを見ると、やっぱりノエルは強いよなあ、とハイドは思う。
実際、この牢獄惑星で、ハイドがまず勝てないと思う対象は、ノエルとレティクルの二人だけである。
それ以外なら、負けはない、と思っている。
ハイドのアーツである『改変』は、ハイドのオリジナルで、ユニークだ。
デバイスやアーツを改変対象とし、基本はパーティーを組んでいる相手だが、狙えば敵対者が持っているものでも対象とできる。
デバフアーツと絡めた使い方だが、要は、相手のデバイスやアーツの挙動を狂わせることができるのだ。
デバイスやアーツが戦闘の基本となっている現代において、それを操作される、というのは、致命的である。
当然ながら、セキュリティは分厚く、普通は突破できない。
ただ、ハイドはできるようにしている、というだけだ。
だが、ノエルやレティクルは、自前の能力だけで、デバイスやアーツに頼らずに戦闘ができる稀有な能力を有している。
現代ではほぼ絶滅したとも言える、訓練による超絶技能だ。
そこまで極めることなんて普通はしない、と言えるが、ハイドにとっては改変対象がないわけだから、まったく相性の悪い相手、ということだ。
「アレイ。そっちは大丈夫だな?」
【問題なーし。防御アーツは正常に稼働中。・・・・・・保持してるBリキッドの量からして、後三時間くらいはもつよ!】
「ならそのままでいろ。防御に関しては、外にいるこっちで対応する」
【カノンちゃんが、外のノエルさんの剣の振り方に興奮してる。もっと近くで見たいって】
「後でログやるから大人しくしとけって言っとけ」
【了解】
余裕あるなあ、あいつら、と苦笑しつつ、ハイドは戦況の推移を見る。
「とはいえ、いつまでもってのは、ちょっとウザイな」
銃撃も爆撃も、相手のBリキッドが尽きるまでは延々と続く。
ただ、こちらが防御に使うエネルギー量はそれほど多くはないし、ノエルの方に至ってはエネルギーの消耗自体がほぼない。
タイラントは最新鋭のサイボーグ躯体だし、フェベリウスには『大帝』がある。
消耗しているとはいえ、あの二人なら自分の身くらいはなんとか守れる。
正直に言って、時間の無駄である。
「だから、やるならもう一手」
この襲撃を仕掛けてきた相手の狙いは、タイラントを討ち取ることだ。
つまりは、フェベリウスと目的自体は同じである。
ただ、所属している勢力とやり方が違うだけ。
フェベリウスは、正面から堂々とタイラントを打ち破ることで、『大帝』の継承者として認められようとした。
対して、この襲撃者の狙いは、とにかくタイラントを潰し、あわよくばフェベリウスも倒して、『大帝』を回収。
なしくずしにダグラント帝国の支配権を得ることだろう。
だから、狙うならば、タイラントの撃破の証明がいる。
「となると・・・・・・」
ハイドが広げていた探知アーツが、闘技場へと踏み込んできた一団を捉えた。
「・・・・・・おっと」
そちらへとハンドガンで抜き撃ちをしようとして、腕が止まる。
どうやら、入ってきた一団はプレイヤーだ。
「面倒だね」
こちらへと向かってくるものもいるようだし、中央のはともかく、アレイの戦車にこもった三人娘は守らねばならない。
「やれやれ、だ」
ふう、とため息を吐いて、ハイドは一つのLメカを起動した。
Lメカ『コネクトマンモス』
この牢獄惑星で、確率は低いとはいえ、入手方法が確定しているLメカだ。
Lメカはどれも希少な中で、比較的希少性の低い、入手しやすいものだ。
当然ながら、ハイドも持っている。
「・・・・・・改変、起動」
『コネクトマンモス』の能力は、アーツ起動の連続化だ。
この連続化を行うアーツを発動するデバイスは、複数デバイスを指定できる。
通常なら、自分の持つデバイスか、できて同じパーティ内のデバイスまでだ。
だから、改変する。
すなわち、
「近くにある『コネクトマンモス』は、・・・・・・あっちか」
一方向を見据える。
入手方法が確立しているとはいえ、ドロップ率は極めて低いレアな品だ。
さすがに複数個手に入れることはできなかったのだろう。
「改変。接続設定。・・・・・・俺の『コネクトマンモス』を通じて、敵の『コネクトマンモス』へと接続。アクセスポイント確定。ポートオープン。ユーザー、パスワード設定・・・・・・。成功」
ハイドは、接続が完了した『コネクトマンモス』へ、自分の手持ちのアーツの一つを接続する。
「シールド展開、と」
設定範囲は、自分とアレイの戦車を中心だ。
これで、自分たちへの攻撃は、自動でシールドが発生する。
ついでに言うと、シールドのエネルギー源は、敵が用意してくれたBリキッドだ。
相手の攻撃が終わるまで、このシールドが消えることはない。
「ノエルの調子を見ていれば、あちらもこの攻撃が無駄なことはわかるだろうし・・・・・・」
闘技場に入ってきた一団が問題だ。
雨あられと攻撃が降り注ぐ中、一団は二手に分かれて行動を開始した。
「上で攻撃してる連中と、同じパーティってことね」
攻撃が降り注いでいる中でも平然と行動できるのは、同じパーティを組んでいる者同士では、攻撃系アーツは効果を発揮しないことを利用しているのだろう。
おかげで、こちらは防御に手を取られるが、あちらは好き勝手行動できる。
「・・・・・・ノエル」
【何でしょうか?】
攻撃が降り注いでいるせいで、音がひどい。
通信を飛ばすと、ノエルはすぐさま返答があった。
「敵が入ってきてる。プレイヤーだ」
防御に回っているノエルは、今手が離せないだろう。
となると、ノエル自身はともかく、他が危ない。
【私は問題ありません。・・・・・・ただ、面倒ですね】
「こっちで探知した限りでは、この攻撃、あと三十分は続く」
【それはそれは。用意周到ですね】
吐き捨てるような口調だった。
「どうする? 対応できるか?」
【難しいですね。さすがに、正面から相対されると】
ノエルは、アレイ達を助ける時、プレイヤーを気絶させていたが、あれはプレイヤーに対する攻撃ではないものの余波で行ったものだから問題なかった。
だが、正面から敵対した場合、逃走以外はすべて敵対行動扱いとなってしまうため、動くこと自体が難しくなる。
そうなると、さすがのノエルもどうにもならないだろう。
【まあ、その場合は、カノンたちが優先です】
要は、タイラントは見捨てる、という発言だが、本気ではないだろう。
ハイドは、ともあれ、と頷いて、
「了解。なら、そっちは俺が対応しよう」
【・・・・・・・・・・・・】
無言の通信からは、可能なのか、という問いの気配がある。
ハイドはその問いの気配に返答を返すことはせず、いったん通信を閉じた。
「さて」
ふん、と足を前にすすめ、アーツをいくつか起動。
壁型のシールドを生成するタイプのアーツによって、プレイヤーの一団の進みを止める。
「さて、何しに来たんだ? お前ら」
にらみつけてくるプレイヤーの一団に、ハイドは皮肉げな笑みを向けた。
+ * +
壁を作って自分たちの進路を阻害した挙句、無防備にこちらへと進んでくるハイドへ、プレイヤーの一団は敵意を持ちつつも戸惑っていた。
首輪をしたクリミナルである以上、自分たちの邪魔はできないはずだ。
なのに、敵対行動とも言える動きをしている。
「さて?」
皮肉を口に浮かべたような、あるいは、挑発的ともとれる笑みを浮かべるハイドに対し、プレイヤーの一団が取った行動は排除だった。
「殺せ」
ダンジョンの中で、プレイヤーがクリミナルを殺す。
推奨はされないものの、違法なことではない。
すぐさま、強化外骨格を着込んだ騎士が前へと踏み込み、ブレードを一閃した。
「おや」
ハイドののんきな声が響いた後、ハイドの首が胴を離れて飛んだ。
その様を見て、他の者たちが改めて進行しようとしたところに、声が届く。
「・・・・・・まったく、せっかちなことだ」
ハイドの体は、はねられた首を受け止めており、その首から、声が聞こえてくる。
「サイボーグ、いや、アンドロイドか?」
「サイボーグだよ」
サイボーグならば、頭が胴から切り離されても生きている存在は珍しくない。
性能の低下は避けられないにしても、一時的に生きていけるようにするぐらいはわけない。
だから、そういうものだ、と一団は納得しようとして、次の行動に目を疑う。
「さて、わざわざ外しやすくしてくれてありがとう」
言いながら、ハイドは首をはねられたことで外せるようになった首輪を上へと引き抜いた。
「ばかな! クリミナルじゃないのか!?」
クリミナルは、首輪を外せない。
そもそも、首を斬られたから、と言って、首輪は外せるようにはできていない。
プレイヤーへの敵対行動の禁止と同じく、首輪に関する干渉は一切できないようになっているのだ。
それを、何でもないように引っこ抜いたハイドは、クリミナルとしては異常だ。
何せ、クリミナルとしての行動干渉を受けていないことになる。
「さて、それじゃ、悪いがお前ら。行動不能になってもらうか」
相手の疑問には応えないまま、ハイドは戦闘態勢に入った。
評価などいただけると励みになります。
よろしくお願いします。
別作品も連載中です。
『竜殺しの国の異邦人』
https://ncode.syosetu.com/n0793he/




