第48話:ハイドの手札
原則として、クリミナルにとって、プレイヤーという存在は脅威だ。
何せ、クリミナルからプレイヤーに攻撃はできない。
これは、正当防衛も範囲に含まれる。
クリミナルがプレイヤーに攻撃された場合、取りうる選択肢は、諦めるか、防御するか、逃走である。
諦めるのは、それで終わりだ。
防御の場合は、防御手段が尽きるまでに救助が来る可能性に賭けることはできる。
一応、クリミナルには管理公社に対して、救助を要請する手段が用意されているし、そうでなくておも派閥のクリミナルに助けを求めることは可能だ。
もっとも、基本は逃走一択である。
ゲートからポート内に逃げ込んでしまえば、ポート内では戦闘行為は不可能。
そうでなかったとしても、逃げている途中で接触したセキュリティモブを追跡者に押し付けてしまえば、逃走が成功する確率は上がる。
ただ、どの手段を選ぶにせよ、クリミナルにはプレイヤーに対抗手段がないことには変わりない。
そして、そのままでは、やられっぱなしになってしまう。
それは、クリミナルにとっては本当に致命的だ。
単純に、寿命を縮める。
だから、それなりに長い期間をクリミナルとして過ごしていると、ある程度のプレイヤー対策を身につけることになる。
もっとも、ノエルのような隔絶した技量による対策は、さすがに稀ではある。
ただ、ハイドだって、そういう手段は持っている。
+ * +
首から首輪を引っこ抜いて、横で手を放すと、そこで首輪が浮いた。
「バカな?!」
その様子を見た剣士が、ハイドを見て驚いている。
当然だ。
まず、クリミナルは、自分で首輪を外すことができない。
その行動は、プレイヤーへの攻撃と同じように行動から制限される。
これは、他者の首輪を外そうとする行動も同様に制限される。
首輪への攻撃は最優先でガードするし、解除をしようとするものに対して、反抗、または妨害する。
それなのに、ハイドは首へと攻撃を受け、さらに首から首輪を抜いて見せた。
「外してないぞ?」
もちろん、種も仕掛けもある。
ハイドも、そこまで説明する気はないが。
「では、やるか」
ともあれ、首輪は外れた。
ハイドの行動を抑制するものは、もうない。
「対象限定」
アーツを起動し、ハイドはにやりと笑う。
「悪いな。お前ら全員、とりあえずつぶれてくれ」
利用するのは、ハイドの手持ちの『コネクトマンモス』だ。
先ほどから、敵方の『コネクトマンモス』と接続して、防御用のアーツを連続発動し、敵の攻撃を無効化しているLメカである。
ここに、干渉する。
「権限書換」
ハイドが、自分用に作成した、固有アーツ『改変』。
接続できたアーツやデバイスの機能や権限を、好き勝手に改変する、ハッキングアーツだ。
ただのアーツではなく、起動の根幹にLメカを使用しているため、そのロジックの大部分はブラックボックスの中にあり、仕組みの把握は不可能だ。
ハイドのように、Lメカを利用したアーツを用意していない限り、対抗手段はほぼない。
つまりは、
「な?!」
唐突に、闘技場から戦闘音が消えた。
続いて、ばたばたと人が崩れ落ちる音が続く。
闘技場へと降り注いでいた射撃が停止し、闘技場へ駈け込んで来ていたプレイヤーの団体が躓いたのだ。
「・・・・・・なんていうか、無様だなあ、おい」
さすがに、その結果にはハイドも呆れた声を漏らす。
プレイヤーの一団が転んで行動不能になってるのは、一団が全員サイボーグだったからだ。
サイボーグの躯体を動かすOSと、デバイスに使われるシステムは、リンクができる。
そうできなければ、デバイスでサイボーグの状態の管理ができないわけだから、当然の機能だ。
そして、リンクができる、ということは、デバイスを通してハッキングが可能、ということである。
「何をした?!」
そう問われるが、ハイドは肩をすくめるに留め、闘技場の中央にいるノエルたちへと視線を送る。
「おい。大体終わったけど、そっち、大丈夫か?」
それに対する返答は、ノエルの呆れたような視線だけであった。
+ * +
「あら、終わったみたい」
「おや? ずいぶんと早いね」
『クルクス』の店内で、レティクルが首を傾げた。
バーに座っていた『商人』を名乗る男は、首を傾げた。
「あらまあ、ハイド。久しぶりに軽く全力出したのねえ・・・・・・」
「軽くなのに全力とは・・・・・・?」
カウンターに座って状況を聞いた男が、顔を引きつらせつつ、首を傾げた。
レティクルの方は、いろいろ現場にいる者に仕込んでいた種やら植物やらから送られてくる情報を受け取り、あらあら、と頬に手を当てている。
ちなみに、このレティクルの技能は、アーツでも何でもない、レティクルの種族由来の能力である。
「ハイドだから」
「まあ、あいつの手管の多さは、ちょっと引くぐらいだけどさ」
客としてカウンターに座りながら、レティクルが供する紅茶に蒸留酒を一滴垂らしたものを、『商人』は口にする。
クリミナルであった時は、『詐欺師』と呼ばれていた彼は、クリミナルから恩赦を勝ち取って自由になってからは、かたくなに『商人』と名乗り続けている。
「ふふ。あなたは、ハイドの手管の多さ。どこから来るか知っているの?」
「さっぱり? 根っこのところが分からないんだよねえ。あいつ」
『商人』は、顔をしかめた。
『詐欺師』として、この惑星に送られた後、その手練手管でプレイヤーをだまくらかしてキャッシュを稼いでいた彼を、物理的にのしに来たのがハイドだった。
プレイヤーを盾にして逃げようとしたところで、そのプレイヤーをことごとく戦闘不能にされて追いかけられたのは、嫌な思い出である。
それを縁にして、クルクス派に誘われ、恩赦を獲得するまで馬車馬のごとく働かされることとなったのだが。
「面倒だぜ? あいつ」
そもそもの話だが、ハイドはこの惑星の中で、いくつかのLメカを保有している、と思われる。
思われる、というのは、どこから持ち込んだか分からない上に、どこに隠しているかも分からないからだ。
まあ、隠し場所が見つかったら、管理公社に取り上げられるだろうが。
ハイドの持ついくつかの固有アーツは、それらのLメカをベースにしている。
「訳が分からねえんだよな。首輪がそもそも働いてねえんじゃねえのか? あいつ」
「それはないと思うんだけどね」
カウンターに頬杖をついて、『商人』は愚痴っているのに、ふふふ、とレティクルは笑う。
「というか、あなた、いつまでここにいるの?」
「あのね、姐さん。僕がここいいるのは、一応『大帝』関連の品を運ぶのもあるんだけど、そもそもハイドから注文があったからだから」
「あら。何を?」
「いつもの」
「ああ、あれ」
品を直接手渡すため、わざわざ店で待っているのだろう。
「やばいの?」
「いや? 普通に合法。外からの持ち込みも、OK。ハイドなら、恩赦の許可も通ってる」
とはいえ、
「軍用宇宙艦の対反応装甲とか最新鋭のブラスター砲とか、何に使うつもりだ? あいつ」
「・・・・・・それって」
「今一番硬いヤツ。サイズこそ小さいけど、基本的にダンジョンで使うようなもんじゃないと思うんだけどね」
そういう『商人』の言葉を聞きつつも、レティクルの脳裏には、最近ハイドが連れまわし、戦車を乗り回す三人娘が浮かぶ。
「まさかね・・・・・・」
さすがに、それは過剰だろう。
「ていうか、あなたの持ち込んだ『大帝』の対抗策。・・・・・・なんか使われなかったみたいだけど」
「うん? いや、あれは『大帝』を殺す装置だから。戦闘中に使うようなもんじゃないよ」
「え?」
+ * +
ハイドが、戦闘を終了させた。
その終了のさせ方が、あまりにもあっけなかった。
だからこその、気のゆるみが生まれた。
その隙を突かれた。
転がり、倒れ込んでいた一団の中に、一人、ひょろりと背の高い人間がいた。
「・・・・・・ん?」
その存在にハイドが気づいた時、その人間は、何かを掲げた。
眩い光が、一瞬その人間の掲げた何かに収束し、発射された。
「お?」
感知できないことから、あれはLメカかとハイドが当たりをつける。
発射された何かは、真っすぐにノエル、いや、タイラントとフェベリウスへと向かっている。
ハイドの位置からは届かない。
「ノエル!」
ハイドが警告を発したが、ノエルの剣は、その発射物をすり抜けた。
「?!」
それが、タイラントとフェベリウスを巻き込むかと思えた瞬間、
「おらああ!!」
タイラントが、フェベリウスを強く突き飛ばした。
そして、タイラントが光に飲まれた。
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別作品も連載中です。
『竜殺しの国の異邦人』
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