第42話:闘技場で
ノエルは、三人娘を保護した後、その三人娘を説教していた。
「そもそも、貴女達は、ハイドのところにたどり着いたところでどうするつもりだったのですか?」
その問いに対し、
「とりあえず、行かなきゃ、と」
「放っておかれて暇だった」
「お二方がいかれるならば、パーティメンバーとして同行するであります」
それぞれの答えを聞いて、ノエルは、はあ、とため息を吐いた。
「できることなど、ありませんよ?」
「それでも、です」
ガブリエル再度答えた。
その顔を見て、ノエルは肩をすくめ、
「まあ、よいでしょう。ここまで来てしまったのです。このまま、ハイドのところに向かいましょうか」
ノエルの言葉を聞いて、ガブリエルは喜色を浮かべた。
「ありがとうございます」
「いいんですよ。貴女達だけでは危険ですしね」
感謝を述べるガブリエルに、ノエルは微笑みを返す。
「師匠。あの方々はどうするでありますか?」
カノンが指さした先には、ノエルが気絶させたプレイヤーの一団がある。
十人程度の人数だが、
「彼らが、なぜわざわざクリミナルを狙うのか、気になりはしますが、今確かめている余裕はないですね」
ノエルは、彼らのデバイスを外から操作して、強制帰還を発動させる。
余談ではあるが、これらの強制帰還は、デバイスの着用者であるプレイヤーが気絶していないと発動しない。
「これでいいでしょう。・・・・・・では、急ぎましょうか。今、この階層で活動しているプレイヤーは、どうやら彼らだけではないようですから」
この階層の構造は、中央に円形の闘技場があり、それを囲むように回廊がある、という形状だ。
プレイヤー達は、その回廊にある程度広く布陣していた。
今、その一角がノエルによって崩されている状況である。
「ハイドの居場所は?」
「中央の闘技場にいるみたい」
アレイは、戦車のレーダーを起動させ、パーティーメンバーであるハイドの居場所を探る。
「では、おそらくタイラントもそこでしょう。・・・・・・いいですか? そこは今回の事件の中心です。正直、危険地帯ですよ?」
「うーん。そう聞くと怖いけどね」
アレイは苦笑するが、
「最悪、戦車にこもって籠城かな? 戦車の防御力と、ガブちゃんの『ハイロゥ』のシールドアーツを利用できれば、かなり硬いし」
「なるほど。では、いざとなれば私が脅威を潰しますから、防御優先で」
「はーい」
アレイとノエルが方針を打ち合わせている。
その間も、アレイの操作で戦車は走っている。
「・・・・・・ハイドさん。何をしているんでしょうか?」
「たぶん、興味に従って首を突っ込んでいるんでしょう。あれは基本的に暇人で退屈していますからね」
「師匠。わざわざ拙者たちのために、ここに来たでありますか?」
「そうですよ。今、レディアントのメンバーには、ダンジョンに侵入しないように通達を出しています。そんなタイミングで、貴女達が入った、というから追いかけてきたんですよ」
「ご迷惑をおかけします」
「いえ、文句は止めなかったらレティクルに言いますから」
ノエルが言っている間に、手に持った剣が掻き消えるように煌いた。
瞬間、明らかに数十メートル先にいるセキュリティモブが真っ二つになって落ちる。
「・・・・・・師匠、それ、どうやっているでありますか?」
「技術です」
「・・・・・・・・・・・・どうやって、習得するでありますか?」
「気合と根性と努力です」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・今度教えてほしいであります」
「そう言える貴女は、立派ですね」
ふふふ、とノエルは笑うのだった。
+ * +
ノエルを含めた三人が、戦車に乗り込んで闘技場にたどり着くころ、タイラントとフェベリウスの戦闘は、近づいての殴り合いとなっていた。
「・・・・・・おや」
「うん? ノエルか。・・・・・・それに、三人も、よく来たな」
ハイドを見つけて、ガブリエルたちはそちらへと近寄る。
「貴女方は・・・・・・」
ハイドと話していたロドナーは、近づいてくる戦車に目を瞠る。
「状況は?」
「見ての通り、ちょっと面白いことになってる」
ノエルの問いに、ハイドが闘技場の中央を示す。
そこで、タイラントとフェベリウスの二人が殴り合いをしていた。
タイラントが攻撃をすればフェベリウスはそれをかわし、逆にフェベリウスが攻撃をすればそれをタイラントは弾く。
一見すれば、一進一退の攻防に見えるが、
「・・・・・・タイラントがわずかに押されていますね」
「だろう? 面白いことになってる」
ノエルが、眉をひそめて戦況を分析し、その結果にハイドも同意した。
「そうなのですか?」
ガブリエルやアレイの目には、一進一退の攻防にしか見えない。
二人の実力は拮抗しているように見えるが、
「実際には、タイラントが少し押されてるな。タイラントの攻撃は少し外し気味。だが、フェベリウスの方はある程度当たりが出てる」
「ふむ・・・・・・?」
ノエルは、その二人の戦闘を見て、首を傾げた。
「おかしいですね。タイラントの動きが悪いように見せますが・・・・・・」
「ふむ。・・・・・・おーい、タイラント。調子悪いのかー?!」
ノエルの疑問を受け、ハイドが大声を上げた。
それに対して、タイラントは、
「ああ?! うるっせえな! むさくるしい観客ばっかで盛り上がりがかけてんだよ。やる気出ねえだけだ!!」
「ほう? じゃあ、朗報があるぞー? こっち見て見ろ」
ハイドが言った瞬間、タイラントは一撃を大きく打って距離を開け、ハイド達の方を見た。
「ほれ、美人の観客だぞ?」
ハイドが、ノエルや三人娘を示すと、タイラントは一瞬ノエルに目を留めてから、
「け、ババアとガキばっかじゃねえか」
「あ?」
ノエルの顔が引きつり、キシ、とノエルの剣の柄がきしんだ。
「どうどう。落ち着けノエル。まだ切れるのは早い」
そのノエルをハイドが押さえている間に、タイラントは再び殴り合いに戻っていた。
「・・・・・・あのフェベリウスって方、なんか妙だな?」
「ふん。あれには覚えがあります。おそらくは『大帝』でしょう」
「知ってるのか?」
「ええ。以前、タイラントがあれを使っていた時に、打ち合ったことがありますから」
「・・・・・・やはり、貴女は・・・・・・」
ノエルの言葉を聞いて、ロドナーがノエルに向かって跪いた。
「失礼ながら、『竜骨断ち』とお見受けいたします」
「・・・・・・」
ノエルは、ちら、とロドナーを見て、タイラントに視線を戻す。
「有名なの?」
「ダグラント帝国では有名です。特に、『大帝』と『竜骨断ち』の間で行われた一騎打ちなどは、近接戦闘の研究対象となっているほどで」
「・・・・・・何やってんの?」
「若気の至りです」
ノエルは、顔を押さえ首を振る。
「なぜわざわざあれとやり合うようなことを選んだのか。今となっては当時の心境が分からないんですよ」
「ははは。若気の至りか」
「・・・・・・ちょっと、いらっとしたことがあったのは事実ですが」
ともあれ、
「で? 『大帝』ってのはなんだ?」
「Lメカです。タイラントが、自分の星にあったダンジョンから発見したものです」
「効果は?」
「適合に厳しい条件がある代わり、適合者に対してその能力の大幅な向上、並びに運勢制御」
「運勢制御?」
「わずかに幸運が起こりやすくなる、という程度のものですが、銃撃の嵐の中で流れ弾が一切当たらなくなったり、まぐれ当たりが出やすくなったり、と」
「ほう?」
「ド素人が使う範囲では大したものではありませんが、私やタイラントクラスの使い手が使うと、その程度の幸運が一瞬の明暗を分けますね」
少なくとも、同じ装備の相手に負けることはほぼなくなる。
「それを、フェベリウスは装備している、と」
それで、フェベリウスの方が押している、ということなのだろう。
「『大帝』に適合したこと。それこそ、あの方が後継者と目される最大の理由でもあります」
ロドナーは、胸を張って言った。
「それに、あの青年は使っていないようですが、『大帝』には、もう一つ切り札とも言える特殊能力があります。一応代償がありますが、使うタイミングさえ間違えなければ、勝負はそれで決まるでしょう」
「ほうほう・・・・・・。大したLメカだなあ、おい」
ハイドは苦笑したあと、聞いた。
「・・・・・・タイラントに勝ち目はあると思うか?」
「あります」
ハイドの質問に、ノエルは間髪入れずに答えた。
「というか、一度は自分で使っていた道具を使う相手に押し負けるなど、無様もいいところですね」
「おーおー。言うね?」
「私は、Lメカなど一切使わず、『大帝』を使ったタイラントと一騎打ちをしましたが?」
「勝ったのか?」
「・・・・・・引き分けです」
ノエルは、む、と顔をしかめた。
「・・・・・・なるほど、つまり対抗方法はあるのか」
「大した方法はありませんよ。純粋に相手より強ければ勝てますしね」
「それで見ると、ひょっとしてあの二人の実力ってマジに拮抗してるのか?」
「そう見るべきでしょう。だとすれば、装備の差でタイラントが負けます」
ノエルの断言に、ロドナーは顔を明るくした。
「ハイドさん?」
「うん? どうしたガブリエル?」
「どうするんですか?」
「どうもしないぞ? あの戦いは、タイラントの因縁だから、他のやつが邪魔しちゃいけない。分かるか?」
「あ、はい・・・・・・」
「・・・・・・何を気にしてるんだ?」
「いえ、ハイドさんなら、ただ観戦のためだけにここにまでくるのか、と思って・・・・・・」
「うーん・・・・・・」
ガブリエルの疑問を聞いて、ハイドは唸る。
「ノエル。この階層の状況、どうなってる?
「・・・・・・あなたが想像している通りですよ」
その答えを聞いて、ハイドは肩をすくめた。
「まあ、あれだ。もしコトが起こったら、お前らは戦車の中に入れよ?」
「何か、起こるんですか?」
「たぶん、な」
「あなたがここにいるのは・・・・・・」
「俺が懸念しているのは、後にも先にも一つ。・・・・・・この件に対して、公社が介入しないかどうか、だ」
ハイドが目を細め、決闘の成り行きを見つめる。
今のままなら、順当にタイラントの敗北で、決着がつきそうである。
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別作品も連載中です。
『竜殺しの国の異邦人』
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