第21話:迎撃戦
ダンジョン探索の基本。
それすなわち探索である。
索敵から、戦利品となるドロップの回収、あるいは、ダンジョンから出土するLメカ等の異物の発見。
そういった、モノを見つける力。
それこそ、ダンジョン探索では最重要だ。
「お前らのパーティだと、アレイの戦車がその担当になるな」
「なるほど。アレイ殿は最重要でありますな」
カノンがもっともらしく頷いているが、
「カノンは、目に見える範囲でいいから、よく見る癖をつけろ」
「む?」
「サーチ系のアーツみたいに、見えない範囲まで感じ取れとはいわん。ノエルがそれ系のアーツをお前に持たせてないのは、単純に向いてないからだろ」
「ははは! 情報が多すぎると、頭がぱーん、となってしまうであります」
「だから、目に見える範囲でいい。敵がいないか、味方が危険な目にあっていないか。まずはそこからだな。視野を広く、目の前の相手に集中しすぎないこと」
「むむ。師匠と同じことを言うであります」
「なんだ、ノエルからも言われてんのか。だったら、いいや。ちゃんと守れ」
「はいであります」
そして、ガブリエル。
「ガブリエルは、まだどういうスタイルが向いているのかが定かじゃない。そういう意味じゃ、いろいろ試せ」
「はい」
「ただし、サーチアーツとかの使い方は最優先な。どんなやり方をするにしろ、覚えておいて損はない」
「はい」
しかし、と、ハイドは三人を見る。
すでに、三人は戦車からは下りている。
アレイの戦車は、アレイのデバイスから遠隔操縦することもできるため、常に乗っている必要はないからだ。
現在は、ドロップ品を回収するためのカーゴ部分と、アレイ本人の戦闘能力に直結するアーマー部分に分かれている。
ガブリエルは戦車とアレイの間を歩いて、時折サーチ系のアーツを使う。
カノンは、一番前を歩いていて、アレイの戦車から飛ばした小型ドローンのサポートを受けながら、先頭の索敵を担当していた。
「戦車が壁になるから、意外とお前ら安定するんだよな」
「ふふん。ボクの戦車は万能なのさ!」
どん、と胸を張るアレイの言う通り、後方の壁として、戦車が良い動きをしている。
ダンジョン探索と言うのは、基本的に一方向へと進むため、進行方向と接敵することが多いが、決して背後からの攻撃がないわけではない。
むしろ、ガードボットなどのセキュリティモブなどは、積極的に背後へと回り込んでくることもある。
そう言う意味では、マップも重要だ。
どこに分かれ道があったのか、袋小路の位置や、回廊となる場所、とっさの場合の隠れ場所。
事前にマップを手に入れられれば、そういう計画も立てやすい。
「マッパーも重要だ。ここだと、アレイの戦車で勝手にやってるし、そこらのデータはパーティ内で共有される」
「勝手にじゃないやい。自動でやるように設定しているんだい!」
アレイがふふん、と胸を張ってどや顔をする。
「パーティメンバーの位置は、いつでもきちんと確認を・・・・・・」
そこでハイドは言葉を切って、周囲を見回す。
「・・・・・・ふむ」
「おや?」
マップを見たアレイも唸った。
「これ、囲まれてないかい?」
「確かに、ちょっと包囲されつつあるな」
通路の前後から、挟むようにいくつかの反応が来ている。
特に、大きいのが混じっているのが気にかかる。
このままここにいるのはまずいか、と少々先行しているカノンを呼んだ。
「カノン、戻って・・・・・・」
「ハイド殿。こちらに小部屋があるでありますー」
「うん?」
カノンがこちらに向かって手を振っているのを見て、首を傾げる。
マップに、そういう記載はない。
このフロアはすでにある程度探索済みの領域だし、この辺りに未確認の部屋なんてなかったはずだ。
駆け寄って確認すると、
「ほら、ここに切れ目があるであります。向こう、空間があるようでありますよ?」
カノンの指先が示す先、確かに壁に切れ目がある。
攻撃などで切れたというわけではなく、向こうが少し見えるスリット、という感じだ。
「どれ?」
ハイドがサーチを発動させて確認すると、確かに割れ目の向こうに、それなりの空間があるように見える。
前後を挟まれているこの状況で、逃げ込めれば多少楽になる。
とはいえ、この状況で、未確認の小部屋に入る、というのも、それはそれでリスクがある。
「アレイ、どうする?」
「たぶん大丈夫じゃない?」
命にかかわるのに軽いな、とは思うが、その理由はさて何か。
まあ、ガブリエルの方も特に否定するつもりはないようだし、
「・・・・・・開くか?」
「ここでありますな」
開いていない部屋の開け方など、初見で分かるものではないのだが、カノンがすっと手を差し入れると、それで扉が開いた。
「お前すごいな・・・・・・」
「いやあ、お褒めにあずかり、光栄であります」
へへへ、とカノンは頭をかきながら照れている。
何気なくやっているが、発見も開錠も、そうそう簡単にできることではない。
ハイドは、クリミナルになる以前は、それを専門にやっていたこともあるから、難度は分かっている。
「ううむ・・・・・・」
脳筋、と思っていたカノンが、意外な才能を見せている。
「ハイド殿?」
カノンを見て唸るハイドを見て、カノンが首を傾げた。
それを見て、ハイドは首を振って、
「いや、今はいい」
それよりも、小部屋だ。
幸い、入り口は十分に広いし、アレイの戦車も入れる。
「アレイ、こっちに。この小部屋に退避するぞ、と」
「袋小路になったりしないかい?」
「挟み撃ちにされたらどうしようもないが、袋小路ならまだ何とかなる。マップ見る限り、対応できない戦力じゃないさ」
ハイドが全力を出せばどうにでもなるし、最悪、ハイドが緊急用に用意している脱出手段を使用すれば、命は無事に脱出できる。
アレイの戦車とかは持ち帰れないだろうが。
ともあれ、小部屋だ。
それなりの広さを持つこの部屋で、迎撃を行うことが決まった。
+ * +
ありきたりな話ではあるが、ダンジョンの探索において迎撃戦というのは、発生しづらい。
セキュリティモブは、ダンジョンを守るための存在だ。
守るため、であるため、巡回はしているが、主に小部屋やその入り口などを警備していることが多い。
そのため、探索者側が先に発見し、奇襲から殲滅する、という流れの方が、ダンジョンの戦闘では多い。
あるいは、巡回している敵とかちあった時の遭遇戦などだ。
どちらにせよ、
「ここで迎撃。ガブリエルとアレイは戦車を盾に後方支援。カノンは、近づいてくるのをぶっ飛ばせ」
「ハイドは?」
「遊撃するさ」
作戦らしい作戦はない。
あとは、簡単な準備だ。
「ちょっと特殊なアーツを使う」
ハイドが、デバイスからいくつかのアーツを操作する。
そうすると、いくつかの隆起物が発生した。
「障害物を作るアーツな。防御力なんかたかが知れているが、うまく配置すると、敵に囲まれる危険を大幅に減らせる」
「なるほど」
本当のことを言うと、部屋の入口を閉じてしまって、敵をやり過ごす方が楽だ。
しかし、一度開いた扉は、閉じ直すことはできなかった。
部屋の中に閉じる仕掛けがあるのかもしれないが、危険なトラップがないことを確認する以上のことはできていない。
「さて、くるぞ、と」
部屋の入口へ、セキュリティモブが姿を現す。
ガードボットが多いが、クリーチャータイプも姿が見える。
「ふむ。さすがに数が多いか」
「というかちょっと大きいのがいるね」
ゴーレムタイプ、と呼ばれるガードボットは、先ほどカノンがぶった切っていた。
あれについては、カノンに任せておけば問題ない。
問題は、
「・・・・・・クリーチャーの大型タイプか」
ガードボットは、どちらかというと装甲頼りに力任せに突貫してくるか、パターンに沿った動きをする。
クリーチャータイプは、それに比べると動きに不規則性が大きい。
なにより、キメラタイプが混じっている。
すなわち、機械の部品を持つクリーチャータイプだ。
ハイブリッドであるが故に、硬くて早くて頭がいい。
「カノン。ガードボットのデカブツは任せる。やられないことを優先して、確実に行け」
「了解であります」
言っている間に、敵が全身を開始した。
「ガブリエルは、小さいのを優先して、カノンから離れているやつから順番に撃て」
「はい!」
「アレイ。ターゲットをつけろ。端から進撃してくるやつを優先。あと、載せといたライフル寄越せ」
「はいはい」
ハイドがアレイから受け取ったのは、銃身を短くしたバトルライフルである。
本来なら、もっと銃身が長く、貫通力が高いライフルなのだが、ハイドはそれを短く切り詰めて軽量化して取り回しがよくなるように改造している。
バランスを崩してまともな使い物にならないはずの代物だが、ハイドはいろいろなカスタムを施して、十分に使いやすくしている。
とはいえ、普通に携行して持ち歩くには、大きくなってしまったのだが。
「カノン、行け。援護する」
「行くであります!」
カノンが走り出し、『竜骨断ち』を振り上げて、一閃。
ゴーレムの一体を切り裂いた。
そのまま、流れるように他へと斬りかかっていく。
大型メインだが、決して小型も漏らさないあたり、やはりなかなかやる。
カノンの背後から飛びかかろうとするクリーチャーを、ハイドは撃つ。
「助かるであります!」
「礼はいいから、さっさと動け!」
「はいであります!」
声を飛ばしてはいるが、カノンの動きには余裕がある。
援護は最低限でいい。
ハイドの視界には、デバイスを通して、照準が出ている。
照準を見ながら、
「アレイは右」
「了解」
アレイの戦車に搭載された数少ない砲塔が火を噴く。
その度、小型のセキュリティモブが撃ち抜かれていく。
その反対の左端は、ハイドがライフルで敵を打ち抜いていく。
「ガブリエル。指示が出ているターゲットに、ショットでいい。撃て」
「はい!」
ガブリエルは、丁寧にアーツを使っている。
倒している数こそ少ないが、貢献としては十分だ。
「・・・・・・・・・・・・」
ハイドは、射撃を続けながら、戦場の状態を見て、このままなら問題ない、と考える。
だが、マップを見る限りだと、さらなる大型が寄ってきているようにも見える。
この辺り一帯を釣ったかもしれない。
「弾、足りるかなあ・・・・・・」
「ハイド! 不安になるからそういうこと言うのやめてよ!」
ふと、ハイドがこぼしたつぶやきに、アレイが大声で反論してきた。
実際には、Bリキッドを使ったエネルギー攻撃もあるので、弾が足りなくなる、ということはないだろうが。
「カノンは危なげなし。一応、敵の増援に対しても、十分に殲滅力は足りている」
ライフルの弾倉を切り替えて、ハイドは少し前に出る。
敵の攻撃も飛んでくるが、ステップで回避しつつ、的確に射撃を叩き込んでいく。
こういう訓練が必要そうなことも、アーツ任せである程度できてしまうのは、現代の戦場の特徴だ。
熟練兵士のような立ち回りも、アーツやMテク任せでどうにでもなる。
こういうのが、パワーアーマーの動きを補助したりもするため、ごくごく基本的な技術なのである。
そうやって、ある程度敵を倒し、床にQコアが落ちて光を放つようになったころ、それは入り口から現れた。
「うわあ・・・・・・。面倒なのが出てきた」
大型の二足歩行。
一見すればゴーレムに見えるが、実際にはキメラ。
オーガタイプと言われる、厄介なタイプだ。
機械の鎧を身に着け、武器を備えている。
単純に強い敵であり、かつ、初見殺しでもある。
「次、行くでありますよ!」
その相手に、カノンが吶喊していく。
「なんというカマセムーブ」
「言ってる場合か!」
アレイのツッコミを受けて、仕方ないなあ、とハイドはライフルを撃つ。
その援護を受けて、カノンはオーガに接近、剣を振り上げて、
「ぐわー!」
正面から飛びかかった結果、何かに吹き飛ばされて敵のど真ん中に落ちていく。
「なんて綺麗に典型的なやられ方をしてるんだよ。あいつは」
「助けに行けー! ハリー! ハリー!」
「へいへい」
アレイに急かされ、ハイドは駆け出す。
走りながらライフルを撃って道を開け、カノンのところまで最短で駆け込む。
「うぐぐ。今のは一体なんでありますか?」
たどり着いてみれば、カノンは頭を振りながら立ち上がった。
「元気だな」
「うう。頭がぐらぐらするであります」
立ち上がったはいいものの、頭を振る動きに、体もどこかふらふらとしている。
「ハウリングだ。あの系統のデカブツが持っている初見殺し。正面に対して短射程広範囲の衝撃を放つ。弱い射撃なら無効化されるし、下手に飛びかかれば、まあ、お前の有様だ」
死ぬほどではないが、下手をするとマヒして動けなくなる。
自分で立ち上がるだけ、カノンは軽傷な方だ。
「ちょっと下がって回復。あれは俺がやる」
「申し訳ないであります」
カノンを後方に下げて、周囲を囲む敵にライフルを撃って遠ざけると、ライフルをその場に落とす。
「さて、やるか」
ハイドは自分もアーツを発動待機状態にして、前へ出た。
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別作品も連載中です。
『竜殺しの国の異邦人』
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