第20話:竜骨断ち
「しっかし・・・・・・」
ハイドは、前を行く三人の背を見ながら、特にカノンの装備を見て、ため息を吐く。
「なんでノエルは、お前さんにそいつを渡したかね・・・・・・」
「む? ハイド殿は、これについて知っているでありますか?」
カノンが示したのは、カノンの背につられた、刃渡り一メートルほどの大刀だ。
カノンの細身なら隠れられそうなほどの幅のある刀身。
柄が峰の側に寄っており、峰には握りがある。
刀身は現在、外殻に覆われているが、抜けば外殻が峰の側にずれて刃が外に現れる構造になっている。
「・・・・・・パワーアーマー用迫撃戦術武装、RATBSF―〇〇〇。開発コードは、『デュランダル』」
「え? パワーアーマー用なのかい? それ」
アレイの言葉に、ハイドは頷く。
「元も、パワーアーマー用で、生身で握ることは想定されてない代物だ。おまけに、出力が強すぎて、開発当時のパワーアーマーでは振るうことができず、お蔵入りしていたものをノエルが引っ張り出したって代物だ」
「・・・・・・欠陥品か、ロマンがあるね」
アレイが、ほほう、とため息を吐いているが、ため息を吐きたいのは、ハイドの方である。
「・・・・・・ただし、俗称は、『竜骨断ち』」
「俗称、ですか?」
「ノエルが、クリミナルになる前にそいつをぶん回してな。その時の戦果から、そんな名前がついた」
「戦果って、竜骨って、あれだよね? 船についてる」
「そうだ。『現代』の竜骨断ち」
かつて、船を海に浮かべていた時代、竜骨を中心に船は作られていた。
竜骨があるかないかは、船の機動にも影響を与える重要な部品であり、切替のできない部品だ。
そして、現代の宇宙船においても、竜骨は極めて重要な性質を持っている。
宇宙船の造船において、竜骨を中心に据えることで、宇宙船自体の軸を決定する。
竜骨を軸に、宇宙船全体のアライメントを取るのだ。
そのため、竜骨にはゆがみも破損も許されない。
宇宙船において、もっとも頑丈な部品は、装甲などではなく、竜骨だ。
性質上、竜骨は宇宙船の中心にあり、かつ、一番頑丈で剛性の高い素材で構築される。
たとえ、エンジンの融解による大爆発が起こったとしても、竜骨だけは無傷で残る、というのは、いい船ならあり得る話だ。
「で、ノエルは、その『竜骨断ち』をぶん回して、その竜骨を文字通りぶった切ったわけだ」
「・・・・・・・・・・・・うーん」
アレイは懐疑的な目を向けている。
竜骨は丈夫であれば丈夫であるだけいいとされる部品だ。
それを生身で切断する、というのが信じられないのだろう。
機械系には強いアレイだからこそ、よくわかる話だろう。
「使えるのか?」
カノンに聞けば、カノンはすらりと『竜骨断ち』を抜いて、自信満々に答えた。
「もちろんでありますよ!」
「ほう。じゃあ、見せてみろ。ちょうどよく来たしな」
通路の向こうから、セキュリティモブが近づいてくる。
二足歩行の鉄の塊。
俗にゴーレムと呼ばれるタイプだ。
硬い、強い、遅い、ということで、あしらいやすくも倒しにくいという相手である。
「では! いくであります!!」
カノンは、『竜骨断ち』を振り上げ、飛びかかっていく。
「説明すると」
その後ろ姿を見ながら、ハイドは口を開いた。
「『竜骨断ち』は、固定アーツの武装だ」
「固定アーツ?」
「ガブリエルには説明してなかったけどな。アーツをデバイスに設定する時のスロットは、切替可能な汎用タイプと、デバイスによって固定の固定タイプがある。ガブリエルの杖は汎用。あっちの『竜骨断ち』は固定。・・・・・・固定タイプは、デバイスの形状や機能そのものが、そのアーツの使用に特化してるから、威力は強いが、その分癖が強い」
言っている間に、振り上げられた『竜骨断ち』が振り下ろされた。
振り下ろしの途中から、剣先から光が噴出し、刃の長さが伸びた。
その光の刃が、ゴーレムに叩きつけられ、
「わ」
抵抗なく、切り裂いた。
「ほう。斬ったか。やるね」
「今のは、エネルギーブレード?」
「『竜骨断ち』は、剣を振る速度に合わせて、剣先からエネルギーを放出。ブレード部分を保護する。ついでに、剣を振る速度が速ければ速いほど、そのブレードが伸び、威力も向上する」
「へえ・・・・・・」
「まず、この剣を振る速度が一定以上に達していないと、なまくらもいいところでな。・・・・・・とはいえ、これ自体は、さほど珍しい技術でもない。使い手は少ないが、一流の剣士って呼ばれてるやつの獲物には、この手の機能は珍しくない」
『竜骨断ち』が欠陥品と呼ばれた理由は別にある。
「『竜骨断ち』は、エネルギーブレードを発生させると、そのエネルギーを剣の振りの後方に噴出することで、剣を加速する」
「・・・・・・え?」
ばったばったとゴーレムを切り倒していくカノンを見ていたアレイが、ハイドを振り返った。
アレイには、ハイドの説明で、何が起こるかが分かったからだろう。
「一定以上の速度で『竜骨断ち』を振ると、その機能で加速が始まり、その加速によってブレードが発生し、そのブレードがまた後方にエネルギーを噴出して、とその繰り返しで、理論的には剣の振りが無限に加速する」
「ええ・・・・・・。欠陥品じゃん」
「アレイの言う通りだ。あくまでも理論の話だから、実際に無限に加速することはないにしても、剣を振っている途中で剣の速度に振り回されることになる。『竜骨断ち』を振るうには、一定以上の速度で振る力と、その後の加速を制御する力の二種類の力を要求される。・・・・・・なお、試験段階でパワーアーマーを使って振った時は、腕を引き千切って、腕をぶら下げたまま、数キロほどとんだ挙句、空気摩擦で燃え尽きたらしい」
「・・・・・・・・・・・・欠陥品どころじゃない気がするんだけど」
「利点としては、ブレードの発生も加速も発見されたLメカの技術を流用して作られた、『竜骨断ち』の内臓機能だから、使用者のBリキッドを使用しないこと。欠点は、その利点から、ガス欠を起こさないことか」
「加速を無理やり押しとどめないと、どこまでも飛んでいくってわけだ」
「終わったでありますよー」
アレイが戦慄した表情を浮かべているところへ、カノンがのんきに手を振りながら戻ってきた。
先ほどまで戦ってた場所を見れば、ゴーレムの残骸となるドロップ品と、Qコアがちらほらと落ちている。
「こら、Qコアくらいは回収してこい」
「あ、はいであります」
ハイドに言われて、カノンは慌てて戻っていく。
「・・・・・・うん、アレもアレで人外だな。さすがはノエルの弟子」
その後ろ姿を見ながら、ハイドは呟いた。
危なげなく振り回し、加速を途切れさせることなく、だが決して制御できない速度にはならないように加減しつつ、次々と敵を切り裂く。
「・・・・・・ノエルは、一撃ごとに止めてたから、もしかするとあれより上か?」
かつてハイドが、ノエルが『竜骨断ち』を振るうのを見たのは、五十階層のゲートキーパー戦だ。
ハイドをはじめとした、当時のクルクス派とレディアントの精鋭を含めたパーティで挑んだそれは、当初の予想に反して、わずか二分という短時間で終了した。
その原動力となったものこそ、あの『竜骨断ち』だった。
クリミナルになる前から、ノエルの所有物であった『竜骨断ち』は、本来なら、ノエルがクリミナルとなった時点で押収され、軍なりなんなりの所有物になるはずだった。
だが、ノエルは恩赦を使って、クリミナルになった時点での私物を一つずつ買い戻していった。
そして、『竜骨断ち』を手に入れ、ゲートキーパー戦へと望んだのだ。
その戦いぶりは、もはや伝説である。
一太刀振るえば敵の装甲を切り裂き、一太刀振るえば致命傷と分かる傷を与え、一太刀振るえば両断する。
ゲートキーパーのサイズが巨大であったことも、ノエルにとっては、斬りやすい的となっただけだった。
誰もがある程度、死を覚悟していた戦場で、振りの速さ故に巨大なブレードを発生させるに至った『竜骨断ち』で敵を斬断するノエルにより、死者の数はゼロ。
その巨大な功績は、ノエルに大幅な恩赦をもたらし、彼女がレディアントの代表になる契機ともなった。
ただ、その当時の闘いぶりは、一太刀振るうごとに、剣を止めてブレードを納めていた。
それに比べると、ブレードを出しっぱなしにしたまま、連続して敵を切り伏せたカノンは、ノエルより上なのかもしれない。
「Qコア、回収してきたであります」
「じゃ、アレイ、ドロップも回収しとけ」
「あ、うん」
アレイが戦車を操作する中、荷台へと戻ってきたカノンは、胸を張った。
「これの扱いだけは、師匠から手放しでほめられたであります。なので、これは拙者のものとなったのであります」
「なるほど。・・・・・・大したもんだ」
「おお! 褒められたであります」
「ガブリエル。たぶん、まったく参考にはならんけど、こういうのもいるってのは覚えとけ」
「あ、はい。すごいです」
「ありがとうであります。ガブリエル殿」
へへへ、とカノンは照れくさそうに笑う。
本当に、大したものだ、とハイドはその姿を見て思う。
カノンの装備は、剣だけだ。
足には、移動を助けるための固定アーツ付きの補助デバイス。
『竜骨断ち』以外にも、実体剣を一振りと、エネルギーブレードの柄部分を数本ベルトに挟んでいる。
他は、投擲用の投げナイフくらいか。
アーツを余分にセットするスロットのあるデバイスはなく、唯一、首元にロザリオ型のデバイスがあるのみだ。
このデバイスは、治療用、と言っていたから、アリアが持たせたものだろう。
カノンは、ほとんど自分の肉体性能と、運用のセンスだけで戦っている。
Bリキッドの消費もほとんどないし、疲労などを治療で癒せることを考えると、おそろしく継戦能力が高い。
その上、破壊力は十分だ。
「・・・・・・うーん。アレイには戦車がある。カノンは結構使える」
ちら、とハイドはガブリエルを見た。
「素人だから仕方ないとはいえ、ガブリエルだけちょっと劣るな」
「そこは仕方ないよ。ハイド」
ハイドのつぶやきを聞きつけて、アレイが応えた。
「なんだかんだボクもカノンも、一年以上ここにいるんだ。昨日今日来たばっかりの素人さんが、見劣りするのは当然だって」
「む」
「ダンジョン探索進めていけば、ガブちゃん用の装備も用意できるし、それからが勝負だね」
「確かにな」
アレイとハイドで用意したスーツがあるとはいえ、ガブリエルの装備はほぼ初心者用そのままだ。
「恩赦も、まだまだとれてないのが残ってるしなあ・・・・・・」
「うん。まずは、固有武装の使用許可からだね。一ヶ月くらい?」
「とりあえずはな。・・・・・・ま、焦らずいこう」
「そうそう」
言いながら、アレイが操作を終える。
「よし、ドロップの回収終わり。・・・・・・一応、今日計画してたノルマ分は溜まったけど?」
「余裕はあるな。というか、ほとんどカノンだけでやっちまったし、ガブリエルにもちょっとやらせたいところだ」
「ボクも同意見だね。・・・・・・よし、『サーチ』起動」
戦車の機能を使って、アレイが敵を探す。
「見つけたよ。ちょっと小さい群れだ」
「じゃ、そこへ行こう。・・・・・・ガブリエル、次は、お前がアーツを撃ってみろ」
「は、はい!」
「緊張はいらんぞ。・・・・・・というか、多分びっくりするから、心の準備だけしとけ」
「びっくり?」
きょとん、とガブリエルが首を傾げる。
それに対し、ハイドとアレイは目を合わせて一つ頷く。
「そのスーツの補助機能、結構大きいからな。たぶん、お前が想像しているより威力が出る。びっくりしないようにな」
「はあ・・・・・・」
ガブリエルは、きょとん、とした顔のまま、頷くのであった。
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別作品も連載中です。
『竜殺しの国の異邦人』
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