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業火紅蓮少女ブラフ/Hybrid Bland Blue  作者: 枕木悠
B-SIDE 龍が空華と契り(Phantasy Fade Away)
16/35

ファンタシィ・フェイダ・ウェイ/三

「え、ユウリ、内藤君に告白されたの?」

「うん、告白されたの」

 家に帰り、リビングでテレビを見ながら珈琲を飲みひとしきりくつろいだ後、ユウリはコナツにマサヤに告白されたことを話した。「告白されて、恋文までもらってしまった、コレがそれ」

 ユウリはコナツにマサヤの恋文を渡した。

「え、見ちゃっていいの?」

「いいよ、別に」ユウリは埃っぽい髪に指を入れて言った。

「駄目だよぉ、プライベートでしょ、人様の恋文を勝手に見るなんて駄目だよぉ」

「口と手が違う」

 コナツの手はしっかりと封筒から恋文を取り出し広げていた。コナツの目は少女漫画に夢中、という具合に煌めいていた。「えっと、何々、國丸ユウリさんへ」

「こらこら、声に出して読むんじゃないよ」

 コナツは口を真一文字に閉じて、恋文に目を走らせている。

 正直な評価を言おう。

 マサヤの恋文はちょっと詩的で。

 ユウリの心にぐっと来た。

 最初は破り捨ててやろうと思った手紙だったけど。

 読んでしまったから考えが変わってしまった。

 読まずに破り捨ててやればよかった。

 あいつ、才能あるな。

 ユウリには珍しく男の才能を認めてしまっている。

 なんか。

 ムカつく。

「俺、國丸のことが好きなんだ」 

 言って手紙をユウリに渡したマサヤの顔は真っ赤だった。

 勇気を出して告白したんだろうな、とユウリは客観的に分析する。

 でも莫迦な男よね。

 ユウリのことをレズビアンだとも知らないで。

 叶わぬ恋と知らずに告白した。

 衝突してきた。

 鬱陶しい。

 でも。

 でもね。

 不思議となぜか。

 それほど嫌だとは思ってない。

 変なの。

 マサヤがユウリのことが好きだというのを聞いたときは嫌だと思ったのに。

 愛を告白されて恋文を渡された後は気持ちが違う。

 変なの。

 それほど大きな違いなのかな。

 とりあえず今は。

「うわぁ、内藤君って結構ロマンチックなんだね、っていうか、字が可愛いー」

 マサヤの恋文を読んではしゃぐコナツに、なんだかムカついているユウリだった。

 マサヤの方が今のコナツよりもずっと誠実だと思った。

「もうこの話はお終い!」ユウリは怒った顔でコナツからマサヤの手紙を取り上げてゴミ箱に捨てた。

 しかしコナツが帰った後、ユウリはゴミ箱に捨てた手紙を回収してもう一度読んだ。

 こんなに詩的に。

 愛していると書くのなら。

 まあ、友達にしてやってもいいか。

 なんて少しだけ思って、いや、男の友達なんていらないわ、と心の中で声を出しながら机の引き出しに恋文をしまった。

 心が迷走しているな。

「それでなんて返事をしたの?」

 ベッドの中でアオは聞いた。アオはコナツと入れ替わるような素晴らしいタイミングでユウリの家にやって来ていた。ユウリはマサヤの恋文のことは黙っていようと思ったんだけど、ベッドの中、ひとしきりの興奮の後、ついしゃべってしまった。別に隠す必要もないんだけれど。

「返事はまだしてない」

「そうなの?」

「体育館の裏で私たちの他に誰もいなかったから、ほら、断って、逆上されて犯されたりでもしたらって思って、右足がこんな風だから、いざってとき逃げられないじゃない?」

「内藤君ってそんなことをするような血の気が多い男なの?」

「いやね、私って結構心配性なの」

「彼が可哀想ね、」アオは微笑む。「だって返事を待たされてる間、ユウリと恋人になれるって期待してるんだから、今頃彼、んふふっ、ユウリでオナニーしてるんじゃない?」

「やめてよ、キモいこと考えちゃったじゃない」

 マサヤがユウリでオナニーしているなんて気持ち悪い。

 そしてそんなことを考えるなんて不誠実だと思う。

 ああ。

 なんて言って断ろう。

 ごめんなさい。私、他に好きな人がいるんです。

 声に出して謝りたくはない。

 手紙を書く?

 いや、手紙を書くなんて優し過ぎるでしょ。

 でもなんだかんだ、面と向かって返事をしたら優しさを見せてしまうと思う。

 いつもみたいに通常運転で罵倒することは、今回のケースに限っては出来なさそうだ。

 なんで?

 どうして今回は例外なの?

 特殊なの?

 どうしよう。

 ああ。

 すっごく面倒臭い。

「この番号に電話して断ってあげようか?」アオはマサヤの恋文を見ながら言った。それには電話番号とメールアドレス、それから住所まで書いてあった。

「いいよ、そんなことしなくて、」ユウリはアオの唇にキスをした。「自分でなんとかする」

 そしてユウリはスマートフォンに手を伸ばし手紙に書いてあった番号に電話を掛けた。

「もしもし?」マサヤはすぐに出た。

「もしもし、國丸だけど」

「あ、は、はいっ、」マサヤの声は裏返っている。「あの、手紙は、読んでいただけましたか?」

「どうして敬語なんだよ、」ユウリは可笑しくて笑ってしまう。「うん、読んだよ」

「あの、それで、返事は?」

「ごめん、悪いけど、あんたとは付き合えない」

 でも友達くらいにだったらなってもあげてもいいよ。

 そう続けようとした。

 しかしそのとき。

 アオが急にユウリの手からスマートフォンを引ったくった。

 そして驚くほどの大声で電話口の向こうのマサヤに怒鳴った。

「もう二度とユウリに近づくな、クソ男!」

 そしてアオは通話を切ってスマートフォンをユウリに返した。

「な、」ユウリはきょとんとなってアオを真っ直ぐに見る。「何してんの?」

「さ、もう一回しよ」

 何事もなかったかのようにいつも通りの笑顔でアオは、強い力でユウリのことを抱き締めた。

 すぐにユウリは快楽の渦に巻き込まれる。

 その渦の中でユウリは思う。

 日に日にアオの乱暴さ加減が増している。

 特に今日は、ちょっと激し過ぎる。

 まさかマサヤに嫉妬してるの?

 そう感じるのは気のせいでしょうか。


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