A3 その七 『カオス』 ド
※注意※
グロテスクな描写があります。
▲ド非導天詩▲
背中に、無数の虫――超気持ち悪い奴が這っているみたいなグロい気分に、私は浸っていた。
ぞわり、
ぞわりぞわり、と脈とは別の振動が、私の内側から轟いた。うるさい。
あぁ、リンちゃんは、本当に……本当に、あの柔い髪と丸っこい童顔に大きな垂れ目と小さなと口がもこもこと可愛くピクピクとしていてあぁあぁ「あぁッ」私の中で逃げ惑う姿が愛おしくて涙を浮かべる姿は……もう、格別。もちろん、笑顔も好きだよ。
もしも、親を殺さない限り、もう二度とリンちゃんと出会えない、という物語に私が組み込まれたとしても、そんなの瞬時に実行してしまうほど、私は……リンちゃんを好……いや、“好き”とか“愛している”なんて安っぽくて浅い言葉じゃ表せないほど、リンちゃんを、私は想っている。
「はぁはぁはぁ……。吐きそう」
でも、私はリンちゃんにフラれたのだ。
正面から、真っ向から、一刀両断、スパンッ! と切り裂かれた。
リンちゃんは、私ではなく、セセギを愛しているんだってさ。
そっか。
そうだよね。
それを、私自身の中で、納得させなきゃいけないのに、本能と理性が全力で私を追い立てる。
――リンを襲っちゃえ、と。
それも、失敗してしまった。きっと、リンはスタンガンや催涙スプレーをつねに手元に持ち、私が本気で仕掛けても、反撃を喰らう可能性が高い。
もう、終わったんだ。
最初から、負けた話だったんだ。
女同士だから、という壁以前に、リンは、セセギを愛していた。私なんか、見向きもせずに。
だったら、そのまま私を無視してよ……というのは駄目です。リンと離ればなれの生活なんて、もう考えられない。
たった数ヶ月、私はリンの隣に居ただけで、もう、リンは、私の体の一部みたいに、意識を持たずに接することが出来る。
うわぁ、ホント、何で、私は、リンを、好きになったんだろう。
どうしてッッ!
憎い。
憎いよ。
セセギが、本当に、憎い。
幼馴染の思い出とか、そんなものぶっ壊したくなる。
リンが私でなく、セセギ選んだとか、わかっている、その理由も知った、はい、全て、納得……出来ない出来ない出来ない。
私が、ずっと、必死に、リンを、私の手の中で抱きしめていたはずなのに、それをセセギは、嘲笑しながら、馬鹿にして、適当な返事をしていただけで……。
あぁ、でも、それは、仕方ない。私が悪い。私が、セセギを唆して、リンを、攻撃しようとしていたから。だから、セセギがやる気無い態度を取る理由は、わかる。
理解出来る。
頭で、心で、その他もろもろ全てでね。
だから、何?
私から、リンを取りやがって……。
私の、リンだよ。
リンちゃんはね、超弩級に可愛いの。そこらへんの人間が束になっても一瞬で消し飛ぶくらい、可愛くて小さくてころころちんちくりんで……。
私の妄想の中で、何度も犯しているよ。
最初は普通にラブラブなエッチの妄想だったけど、マーキングと称しておしっこをぶっかける話や、リンを地下室に閉じ込めて餓死寸前まで追い込んでボロボロの体を犯したり、腹割いて内臓を引っこ抜いて食べたり、脳みそ食べたり、目玉をペロペロしたり、リンを殺して死姦したり……もう何百回犯したことか。殺してしまったことか。
そんな妄想をするだけで、また体が熱くなる。
頭の中で、歯車が一斉に回り出したみたいな絶叫が響き渡っていく。
……私は、リンを、屈服させたいのだろうか?
私は、リンを、従姉である、アカネさんと重ねていた部分がある。リンとアカネさんは、正反対の生物のはずなのに、どこか似ている部分があった。
私は、リンを、額縁として、アカネさんを見据えていたのか?
負けたくない、
とは、相手を殺すことなのか?
違うよね。
私は、アカネさんよりも、カッコイイ人間となる、と願っていた。
でも、リンは……最初はリンをアカネさんと重ねていたかもしれない。全く別の世界を持つ人間だけど、同じ何かを持っていた。
それは、ただのキッカケで、私は、今はリンを一人の人間として愛していて、上記のようなちょっと行き過ぎた行為を妄想していた。
セセギに、奪われる。
捕られる。
いやだぁ、返してよぉ。
私の元から、リンちゃんを、捕らないで……。
ふと、眼が覚めた。
……どうやら、私は眠っていたらしい。窓から外を眺めると、真っ暗に染まっている。ケータイを取ると、リンからメールが何通も届いていた。この時間帯は、いつもリンとメールをしていたから、リンは心配しているかもしれない。
『セセギ君とお話が、したいです』
という件名を見て、私はケータイを折ってしまった。……ストレート型のスマフォで、セセギ曰く一番新しい機種だったけど……これ保障でどうにかなるの?
ポイっとケータイは投げ捨て、私は机の前に座る。
一息つく。
そういえば、あのリンが好みそうなヒラヒラ可愛いパフェ喫茶で大量のパフェを食べたんだった。頭に糖分が行き過ぎたのか、妙に元気がある。
――私は、机の下に隠すように置いてある……原稿用紙を取り出した。何も文字は記されていない。
何故この原稿用紙を持っているのか……。確か中学の頃、色々と使っていたんだ。
「DJ」
という、セセギの声が脳内で蘇る。まさか、セセギに聞かれていたとはぁ。
私の中でも一、二を争うレベルの黒歴史。私は、中学生の頃、ラジオをよく聞き、密かにDJに憧れていたんだ。
結構ハガキを送ったり、それを読んでもらって一喜一憂したりしていた。誰にも言わない、私だけの楽しみだった。
で、DJに憧れるだけならよかったんだけど、私は、そのDJのマネをよくしていたんだ。
もうお父さんが使ってないラジカセを貰い、カセットテープを廻しながら……私は、一人DJになりきって、……自分で書いた手紙や、コーナーを作り、遊んでいた。
結構本気だった。
ぶっちゃけ、その当時は、めちゃくちゃ楽しかった。
しかし、その遊びにも飽きて数年が経ち、高校生になって、ふとラジカセを起動してしまい、……私の全力でDJになりきった声が響き渡り、もう少しで自殺するところだった。
そんくらい、恥ずかしい想い出だったんだ。
この原稿用紙は、その時の台本や、手紙を作る時に使用したんだ。まだ、結構な枚数がある。
で、私は、ペンを持った。
「極立ぴかリ、通称――リンを、私から……奪いやがって」
私は泣いていた。
ボタボタと、雫が原稿用紙に落ちていく。
「本当に、本当に、好きだったんだぞ。将来、カナダへ行って、結婚するつもりだったんだ。子供は、作れないけど、でも、そんなの関係無しに、私とリンは幸せを掴むはずだったんだ」
……わかっている。
誰が悪いのでもなく、リンがセセギを愛するという結末は、初めから決まったものだったんだ。だから、私はただのピエロで、適当に動いていただけの、つまらないキャラクターなんだ。
セセギに対して、逆恨みしているだけ。
あぁ、私は、本当にグロテスクな人間だなぁ。
「リンちゃん……好き……。セックスフレンドとか、本当は……嘘だよ。私を、好きになって……。愛してよぉ……。体とか、そういう本能とか、違うの……理性で、私を好きと、言ってよ」
――だったら、壊そう。「セセギは、いいよね」まぁ、妄想の中だけだけど。全部ぶっ壊してやる。「寝取られた、そんな気分」仕返しだ。もちろん、この妄想は、私の中だけで、私の中だけで響き渡る、落ちていくだけの物語。
「リンちゃんだって、容赦はしないよ」
好きだからこそ、愛しているからこそ、その全てを壊したくなる。完成したプラモデルとか、不意に壊したくなる衝動みたいな、そんな感じかな。
すらすらと、文字が浮かび上がっていく。
私達の未来。
誰もが、幸せから離れていく……くっくっく、とても現実味のある素敵な素敵なバッドエンド。
混沌×混沌×混沌×混沌くらい、ぐちゃごちゃにしよう、そうしよう。
書いたって、どうせ私の頭がすっきりするだけだ。
意味は無い。
わかっている。
わかっているから、さっきからうるさいな私の頭。私の声を、小説を読むみたいに復唱するんじゃねぇよ。黙ってろ。
これ書いたら、もうリンへの想いは、止めよう。
諦めよう。
留学へ、準備しなきゃ。まだ日数はあるけど、もう私の時間は残されていない。ロスタイムは、最初から存在してはいなかった。




