A3 その一 『片思い』 大
本編最終話である、シンプルシステムからの続きとなります。
X^4シリーズと違い、物語のテンションは本編に近いです。特にオチや山場などは考えず作っています。本編では没になった話や補完の話中心です。
▲大正儀セセラギ▲
「待ってろ! お前、アマネを傷つけたら、ただじゃおかねぇからな!」
俺はキトに一万円札を差出してから言葉を吐き捨て、勢いをつけて教室を飛び出る。キトが「ここで君を止めなかったら貝合わせを拝見出来るのになぁ」と、首を垂れながら呟いていたけど、気にせず……階段を駆け上がった。
屋上への扉には、棒が立てかけられ、向こう側からは開けないようになっていた。
卑劣な!
一体誰が、アマネを閉じ込めたんだ! と思いながら棒を引っこ抜き、全力で扉を開いた。
閃光のように目に染みる夕日と、沈みゆく太陽。
――それを背景にして浮かび上がる、アマネとリンの姿。
「うひっひっひっひっひぃい! 大丈夫だから、なるべく痛くしないから、大人しましょうね!」
「ひぃ苦しいです痛いですぐいぃいぃい……ふぅ……あッあッ
あ
はぁはぁ……
ううううううう
ううううううううう
痛い
痛い
痛い
痛いッ
あッ
あっ
あっ
あっ
あぁ
あっ
あっ
あっ」
「ねぇ、リン、抵抗しないでよ! 一緒に気持ちよくなろう! それにね、抵抗しても、超意味無いから……。諦めて、さ、ほら、私に全てを委ねて……。この誰も居ない世界……であれ?」
そこで、アマネと目が合った。
リンは仰向けに倒れていて、その上に、アマネが馬乗りになっていた。両足でガッチリとマウントポジションを取り、リンを捕食するかのように、襲っている……。
うん、
なんだ、この状況は……。
「セ、セセギくむぅうううううう」
遅れて俺の姿を発見したリンは、何やら呼びかけようとしたが、アマネに口を塞がれ、残りの言葉は聞き取れなかった。
「あは、セセギ、まだ学校に居たんだ」
アマネは、普段のように口を開いたけど、その全身から、ドバっと何かが噴き出て、俺に襲いかかってきた。
「え、はい」威圧感に萎縮し、上手く声が出せない。
「そう。で、何?」
アマネはジタバタともがくリンを器用に押さえつけながら、俺を睨む。何だろう、今まで感じたことの無い、強烈な敵意を感じる。
「その……アマネが、気絶したと、聞きまして」
「はぁ、誰に?」「リンに」「リンちゃんが? じゃあ、それは何か勘違いしちゃったのかな? 私はこの通りぴんぴんしているし、特に問題は無いよ」
「いや、でも、誰かに閉じ込められていたけど……」
「あぁ、それ、私が自分でやった」
「な、何で?」
「気分。あとさ、セセギ、そろそろ、どっかに行っていただけないでしょうか?」
アマネは慇懃に頭を下げると、またじっと俺を睨んできた。
「え、でも」
「この状況観てわかるよね、私達、今、超楽しくセックスしてんの。それをさぁ、邪魔しないでくれない。人の性交に乱入するの、自分の彼女が寝取られていた時くらいにしてよね!」
いや、超楽しくは……違うよね?
そう思いながらリンを見つめると、口を押さえつけられ、号泣しながら首をどうにか振ろうとしていた。が、アマネが口を締め上げるように掴み、強引に上下させていた。「ほら、リンちゃんもそうだって、邪魔だって、消えろだって、さ」
「そ、そうですか……」
「まぁ、学内でヤるのは流石に駄目だけど、今回は若気の至りって奴で、見逃してね! 今度からは、ちゃんとホテルに行くから」
有無を言わせない、強烈な声色だった。
俺は、思わず後ずさりしてしまい、扉の内側へ戻ろうとしてしまう。
だが、
「きゃぁああああああああああああああああああああ!」
と、アマネは腕を持ち上げながら叫んだ。何事かとその掌を見ると、……輝いている。
「セセギ君! アマネの言っていることは嘘です!
もう無理ですッ!
恐いです辛いです苦しいですッ!
助けて。助けて。助けて。助けて。
私をここから出してッッ!
置いていかないでッ!
おいでいがなぁいでぇくだしゃいぃいいいいッ!」
と、リンはこれまた怖い迫力を伴って叫んだ。アマネはギロリとリンを睨む、再度口を塞ごうとしたが、また指を離してしまう。
「うひぁ、くすぐったい! ペロペロしないでよぉ」
「噛まないだけ、マシです」
俺はもうよくわかない情況の中、フラフラと二人に近づいた。アマネはふぅ、と溜息を吐き出すと、すっと腰を上げる。その途端、リンは高速で這い出て、アマネから隠れるように俺の背後で縮こまっている。
「はぁーあ、セセギ、空気読んでー。私達の愛を邪魔しないで」
言いながら、ペロリと自らの掌を舐めた。それは、漫画とかアニメでよくある、刃物を舐める狂人みたいな迫力があったけど、あれは……リンの涎だ……。
目には無数の星があり、オーラが見えるくらい悠然としていた。これがアマネ? と疑ってしまうほど、恐怖を感じる。
「愛は……お前が一方的だったろ」
「えぇ、それはおかしいよ、リンちゃんも、私のこと大好きって言ってくれたし、私もリンちゃんのこと、だーいすきだもの、双方、合意の元、交わっていました」
「そうだったの?」
「違います! アマネは、私を押さえつけて、強引に……」
それ以上言葉が続かないようだった。上着は二人が馬鍬っていた付近に綺麗に畳んで置かれ、リンのシャツはボタンが外され……下着が……見えていた。スカートは、まだ脱がされなかったのか、何も乱れは無いんだけど、何故か片足のソックスが無い。
「セセギ、あまりリンちゃんのおっぱい見ないでよ。私のだから」
「たまたま視界に入っただけ」反発すると、全力で弄られるのはもう経験で知っているから、素直に答えた。
「うわぁ、なんという狼人間! リンちゃん、そんな獣の近くに居たら犯されるよ、妊娠されるよ! こっち来な!」
「お前……どの口が」
「もう、冗談だよ。セセギは、私のこと、好きだもんね。リンちゃんなんか、全く視界に入らないくらい。じゃあ、大丈夫だね、リンちゃんが裸でセセギの前に居ても、セセギは何も感じないんだよぉ」
その言葉は、俺を通り過ぎ、背後に居たリンに浴びせるモノと、わかる。びくっと、大きく体を震わせていた。
「あっはははは、大好きな人から、殺されたいくらい嫌われているのに……。リンちゃんは、馬鹿なの? そんな無意味な純粋過ぎる愛を望んでも、ただの片思いで終わるよ。一つの恋の物語って、安っぽい成長を感じてね。そんなのよりさぁ、私の元へ、来てよ。私なら、リンちゃんを愛するから。さっきはごめんね、怖い思いさせて、今度は、優しく楽しく気持ちよくしてあげるよ」
と、アマネは宣言した。
俺の背後で震えていたリンは、小さく深呼吸をすると、「片思いで、終わらせる気なんて、ゼロです」と答えた。
「え?」
「片思いでも、嫌われていても……それでも、私は……大好きです。いつの日か、私の元へ、振り向いてくれるようにと、一生懸命頑張ります。アマネと、同じです。私を振り向かせるために、一生懸命ですよね。それと同じ……いえ、それ以上の想いで、私は、前へと向かいます。なので、大丈夫です、セセギ君が……私のこと全く興味が無くても」
「あらら、素晴らしいお言葉ですこと。でもさぁ、現実はそう甘くは」「興味くらいあるよ」
俺はアマネの声を遮るように言った。
「え?」「ふぇ?」と、前後から不思議な声が聞こえたけど、無視して続ける。「リンは、可愛いし、料理美味いし、そのバイタリティは底が見えないし、共感できる部分もある。確かに、ゼロとかマイナスとか言ったかもしれないけど、さっき、アマネにフラれてわかったよ、リンがかなり可愛い、と」
「うわ、なんか私の顔が赤くなってる。よくそんな赤裸々な想い、口に出来るね」
「お前に言われたくねぇよ!」
「ふーん、でもさぁ、リンちゃんをよく見てみな!」
アマネはびしっとリンの……胸を指さして叫ぶ。「巨乳だよ! セセギ、巨乳は苦手だなぁ、と以前言っていたじゃん」
ガーン! と音が出るくらいに、リンの顔が崩れた。「ごめん、そんなこと一度も言ったこと無いから……」
「貧乳以外、よくて私の胸くらいが正義! と語っていたじゃん!」
「……大きいほうが、好きだよ」
そう答えた途端、リンの顔に、凄まじいほどの活力が漲っていた。
「あとな、当事者の前で関係無いみたいに語り合うな。俺いらないのかな、って不安になる」
「そういや、トラウマでビクビクする設定だったね、ごめんごめん」
「結構重い話を軽く言うの辞めて」
そこまで言って、やっとアマネの顔が元に戻った。正直、恐かった。逃げ出したいくらいに。
アマネは溜息を連発している。リンはブレザーを着終えたが、右足のソックスだけが無い。
「ア、アマネ、返してください」
「ん? 何を?」
「私の、靴下……」
「さぁ、知らないよ」
アマネの右ポケットは明らかに膨らんでいた。俺とリンが無言で追及すると、観念したかのように、ソックスを取り出した。
「でも返さない」
「何故、ですか?」
「私の……オカズだから」
リンは?マークを浮かべている。「リンちゃん流に例えると、セセギ君の罵倒かなぁ~」
ニヤニヤしながら言われ、リンは顔が爆発したかのように真っ赤になった。
「ア、アマネ!」
「ちなみにセセギは私かなぁ……。たまに私の体操服から変な匂いがする時あったからなぁ」
リンは「え……」と言わんばかりの顔で、俺を見据えた。
「嘘は言うな! 誰がお前のなんか使うか」流石に体操服を使うのは避けていました。
それより、リンは……え、俺の……あの罵倒? 暴言で……。
辞めよう、今は、考えないようにしよう。
「返してやれよ。片方無かったら、帰れないだろ」
「えー、嫌だ嫌だ、無くても大丈夫」
「もう俺も帰りたいから、……それ以上ゴネるんだったら、言うよ」
その言葉で、アマネの顔から、笑顔が消えた。「へぇ、何を?」
「DJ」
と、俺が一言発すると、アマネの顔に、焦りの色が見えた。「な、なななななんで、し、知っているの?」
「ごめん、お前の部屋にあったカセット、何か曲を入れたのかと思って、聞いちゃった」
「え、え、え……嘘……いやぁああ……」
「それを、ここで言うよ」
アマネは恐い目で俺を睨んだが、ずんずんとリンの元まで進み、ソックスの匂いをスンスンと嗅いでから……コイツホントの変態だな……リンへ返した。
「誰にも言わないでよ」
「これ以上、俺とリンに変な言葉と行為を仕掛けないのなら、墓まで持っていく」
そう言葉をかけると、アマネは踵を返し、屋上から消えた。ぎゃあ、と悲鳴を残して。
「セセギ君、DJとは、一体?」
「黒歴史だ、アマネの……」
「くろ、歴史、ですか、それはどういう意味ですか?」
「アマネから、教えてもらいな。俺の口からは……言えない」
恥ずかしくて……。
教室でキトに合う。
「セセギ、やつれているぞ!」
「うん、色々あってね。なんか、疲れて、ちょっとショックだった」
「あぁ、君の罵倒での件か。それで興奮する人間もいるが、君は違うようだな」
「お前何で知っているの? という質問は野暮か。全部知っているのか」
キトは、JKが存在する限り、最強の能力者だった。時空、空間、重力、次元、確率、などなど、全てを操ることが出来る。夏休みには神に勝利し、アカシックレコード介入してこの世を操る立場に居た。
――JKを守るため、それだけのために、キトは強くなっていた。曰く現在進行形だってさ。これ以上って、何かあるの?
「だが、君の気持ちはわかる! 僕も初めて能力が開花し、確率を操作できるようになった時、近くに合った銭湯へ行ったんだよ」
「女湯に入ったの?」
「当たり前だろ。能力を持った人間は、ホモ以外……いや、ホモだって、期待を込めて銭湯へ行くぞ。僕が女湯に入っても絶対に見つからない世界を繰り広げていたんだ。そこでだ。女性達は、僕が思っていた以上に、豪快に体を洗うんだ。もっと、泡で軽く体を撫でるようにお淑やかに洗うと思っていたら、おっさんの如く、力強く……。あれは、ショックだった」
キトは、心底遣る瀬無く言った。
「ごめん、お前は早く警察に捕まってくれ」




