X^4 12 この平和な世界
グラリ、と世界が暗転したかのように、暗くなる。次に、俺の視界に、彼女と別れた駅のホームが映る。
最後……あの電車で、彼女が人生を吐露し終えた瞬間、彼女は、謝った。その時の、彼女の瞳に映るのは、俺の姿だった。
俺は……彼女を、拒否していた。腐った汚物を蔑むような瞳で、彼女を、見据えていた。
友人の言った通りだ。
俺は、彼女を、最後の最後、極限を越えたところまで追い詰められた彼女の精神を真っ向から否定し、眼を背けるどころか、嘲っていた。一人、不幸な人生でのたうち、俺に助けを懇願してきた姿を、心の底から見下していた。ザマアミロとも思っていたかもしれない。
……あぁ、
そうだ……。
彼女は、自殺ではない。
俺が、殺した。彼女を死まで追い込んだのは、俺だ。
その罪悪感から逃れるために、俺は、彼女の死を確認しようとしたんだ。
「パパー」
という声が足元から聞こえてみると、子供が居た。
――俺は、友人の捨て台詞が怖くなり……妻にはバレナイように、俺と息子と妻のDNA鑑定をしてもらった。
結果、この足元でじゃれつくこの子供が、
俺の子という確率は、
極めて低いらしい。
わかりやすく言えば、俺の子じゃないってことだ。
嘘だろ……。
子供のためだったら、どんな地獄も乗り越えてやる、と俺は思っていたはずなのに、この足元で蠢く肉の塊が、俺の子供ではないと理解した途端、何かが壊れた。音が耳からボトボトと落ちていく。何も聞こえない。視界に映る世界の色が消えてしまった。依然は美しいと思った夕日は、漆黒に染まっている。俺の瞳に映る世界はぐちゃぐちゃの泥に塗れ、汚かった。
気持ち悪かった。
だが、俺は、この平和な世界を壊したくないので、全てを俺だけの秘密にすることにした。
彼女の遺書とDNA鑑定の結果を燃やしながら、そう思う。
そう自分に刻み込む。
煙の匂いが鼻をつき、音も立てずに消えた用紙を眺めるたびに、俺の中で何かが消えていく。
もう疲れた。
X^4 シリーズはこれにて終了です。
本編から出来る限り抜いた黒い部分が濃縮されているので、このような物語となりました。
これは一つの終わり方でして、本編の続きとも、それとも本編の方々とはあまり関係の無い世界、と思って頂いて構いません。キャラクターの名前をぼかしたのも、そのためです。
バッドエンドです。




