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二十二話 閃光ヲ壊ス紅キ雷

 △△△


 ぐちょ


 という音が振動として響いた。

 鋭い蹴りが、ジャージを着た男性の右膝裏にめり込んだことで、発生した。

 突然の衝撃に、体が軋む。

 その動きに合わせ、ハイキックがこめかみに突き刺さった。

 完璧な蹴りである。速度、タイミング、威力、それぞれが高いレベルで一致し、巨大なハンマーを撃ち込んだかのような衝撃が、広がった。

 ジャージを着た男性の脳から、意識や思考を弾き飛ばし、悲鳴を上げる間も無く倒れ込む。

「よし!」


 リンの瞳に、それは一瞬の出来事として映る。小さなピンク色の影が、その影より頭半分以上も大きなジャージを着た男性を蹴り倒したのである。

「ぎゃああああ!」

 今度は、バチチッ! と鋭い音と光が迸り、汚れた上着を着た男性は崩れ落ちるように倒れる。その背後には、学生服を纏う長身の男子高校生が、右手にスタンガンを握りしめ、静かに佇んでいた。

「おーい、大丈夫?」

 小さな赤い影は、女性であった。リンに近づくと、しゃがみ、馴れ馴れしく声をかけてきた。

「え、あ……あのぉ」リンは更なる恐怖の到来したのかと、ガクガクと震え、涙を零し、怯えながら後ずさりして、壁に背をぶつけた。

「ちょっとー、そんなに怖がんないでよくね? 同じクラスでしょ、パニクってわかんなくなった?」

 と、リンを蔑むように睨む女子高校生、閃光ヲ壊ス紅キ雷ライトニング・クレナイ

 通称――クレナが語りかけた。

 クレナはピンク色のカーディガンに短いスカートにルーズソックス。ピアスが小さく光り、二重の両目は研ぎ澄まされた刃の如く鋭い眼光を飛ばし、薄い唇が捲れて笑みを模っていた。リンよりもわずかに背が高い程度の小柄ではあるが、幼少より習っている空手で、その細い体にはしなやかな筋肉が纏わりついていた。アマネやリンとはまた違うベクトルを極めた美少女である。


「え? え? ……あ! ク、クレナ……しゃん……ずぅ……です、か? ど、どうしぃて、ここにぃ? ひぐ」

「あ、やっとわかった。で、質問の前に先に私に言わせて。ぴかリンちゃんさ、一人でカラスミをうろつくのは危ねぇよ。このグロテスク一直線な奴らみたいに頭ン中までピカピカして無いよね? もしたまたま私達がこっちの道に入らなかったら、最悪和姦……じゃなくて、強姦されて、一生性奴隷になって、死ぬまでズコバコお尻を振る運命だったんだよー。あは、今日は運よく助かったけど、次はわかんないから」

「はい……ごめんなさい、それと、ありがとうございますぅ、助けて頂いて」

「礼はいいよ。私も何だか最近本気で人を蹴りたいなーってイラついてたんだ。この世界って糞平和じゃん? 良いストレス発散になって、逆に私がお礼したいくらいかも。でもホント、よかったね、私達が少年漫画の主人公みたいに登場して。一歩間違えたら、……死んでたよー! って、あらら、泣いちゃった」

「あらら、泣いちゃった、はおかしい。クレナが泣かした」

 クレナの背後に立つ男子高校生は、スタンガンをクレナに渡しながら呟く。リンは、クレナに先ほどの光景を刺激されたことで、再び恐怖と対面し、あの二人の下劣な笑みが浮かび、絶望が体を擦ることで、泣いていた。

「だって、ぴかリンちゃんって、何だか虐めたくなるじゃん。ん、今はいつもと違ってまるで変装したみたいにツインテールにしてメガネまでかけて可愛さ演じてるけど、内から染み出るように弄りたくなるオーラが溢れているんだもの。はぁ、なんか……アイアンメイデンとかで拷問してぇ。中に入れてさ、針が突き刺さる寸前で何度も扉を開き閉めするの。精神崩壊するところで、……いや、最終的には、精神はもちろん、肉体もぐちょぐちょにぶち壊してぇ」

「ぶち壊してぇ、じゃないよ、クレナの口から聞くと、冗談に聞こえない」

「ありゃ、何故?」

 あははは、とクレナは笑いながら問う。

「何故、じゃない。それは、自分がクレナに……虐められていた記憶が、蘇るから」

「ちょっと、変なこと言わないで、私は虐めをしたことなんか無い。ただ弄っていただけよ?」

「弄っていた、程度に収まらない……」

 男子高校生は身震いするのを抑えるかのように、肩を掴んだ。その姿を、クレナは心底嬉しそう眺めていた。

 その時、クレナの背後から足音が響く。さっと身を翻すと、腰を落とし、半身になり、右手を頬の横へ置いた。正面からナイフを持った暴漢が襲いかかってきても、カウンターを叩き込む覚悟を決めて。

 だが、「果たせるかな、やっと王子様の登場か。やれやれ、ぴかリンちゃんは運がよろしくて」




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