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十三話 JKJKJK

 ▲大正儀セセラギ▲


 夏休みの最終日。

 アマネが、久しぶりに俺の家に遊びに来た。そして、語り始める。……何かから、助けを求めるように――。

「唇は……駄目だと思って、ほっぺた、だけ」

「ホントに?」

「うぅ、胸もいいかな、って……」

「ホントに?」

 俺が問うと、アマネは唇を噛んで答えた。

「信じてよ! 胸までだから。それ以外は、……大丈夫」


「出会ってその場で襲った人間の言葉なんて信じられない」

「ホントだよ、そのままぐっすり眠っちゃって、なんか気が削がれちゃって……。お尻モミモミしていたら朝になってた」

「寝ろよ。それに触ってる……」

「リンちゃんの体、柔らかくて……。はぁ、【酔わせて襲う作戦】は失敗だったよ」

「俺も一緒になって考えた、みたいな言い方やめて。しかも、お前未成年だろ」

「大丈夫、お母さんのジュースみたいなお酒を一つ借りただけだから」

 ぐっと親指を立てるアマネは、清らかな笑顔だった。


 アマネは、夏休みの前半に、リンの親戚が経営する旅館に、リンと一緒に泊まりに行った。俺には内緒で密かに計画を立てたアマネは、その旅館で、リンと一線を超えるはずだったんだと。しかし、ジュースと偽って酒を飲ませた途端、リンはゴロゴロと布団の上で転がり始め、一分も経たないうちに、眠ってしまいましたとさ。

 ……その顛末を聞かされるまで、俺の心臓はドクンドクンではなく、どぐちゃがしゃ、と奇妙な音で唸り続け、危うく心臓発作で死にかけた。

「一緒に大きな露天風呂に入って、背中を流した――はずみで胸をモミモミしたら怒られた。でね、綺麗な旅館で、美味しい料理食べて! しかも、リンのお友達だから、料金はタダ!」

「へぇ、それは羨ましい」俺とリンを取り換えたい。

「四泊五日も、リンちゃんと時間を共有したんだー」

 満面の笑みだったアマネの表情はそこで終わった。萎んだ花のように、笑顔は消えた。「でも……リンちゃんは、私を、親友だと思っている」

「それを、こっちに引き込むんじゃなかったの?」

「もちろん。でも、本当にこれでいいのかな、って思い始めてさ。親友と恋人って、全くの別物なんだね。どちらを一定まで高めれば、ちょっとしたはずみで別の道へ乗り換えられるかと思っていたけど、ベクトルの向きが全く違う……」

「そう、かな?」

「男女の友情は絶対にありえないでしょ、その逆。同性の恋愛は、相手が同性愛者じゃない限り、……駄目なの。例えば、セセギがさ、キト君に恋愛感情は抱けないでしょ」

「冗談でもやめて、気持ち悪いから」

「もし、キト君から、セセギ、君は男に、興味があるか? って迫られたら?」

「超恐い……」一瞬でも想像していまい、冷や汗が噴き出た。

「でしょ。……それは、リンちゃんにも当てはまる。本能で、拒んでいる。私みたいに、それが初めからズレているならともかく、普通の人間は、子孫を残すため、性別の違う人間と惹かれあうように設定されている。だから、同性を拒むような設定もまた施されている。それは、理性でどうこう出来る壁じゃ、ないんだよね……」

「だったら、もう打つ手無しなのか?」そのまま諦めろーい。

「そのために、本能を直接めちゃくちゃにするための作戦が、旅館での一晩だったのにぃ……。このままじゃ、親友のままで、終わっちゃうよ」

 本当のところ、千歩譲って親友で終了、を切に願っていた。

「そう悲観するなよ。まだ二ヶ月くらいしか経っていないんだしさ、これからだよ」

「二ヶ月も一緒に居る。トイレと次の日が学校以外、ずっと一緒に私達は生活している。でもね、リンちゃんと時間を過ごせば過ごすほど、私はリンちゃんを好きになって、リンちゃんが私の気持ちに答えてくれないと、わかるの」

「そんな、自分の気持ちを伝えてもいないのに、悲観するな」

「もしコクってさ、『私、アマネを友達だと思っているので、恋人にはなれません。何故なら、私達女の子ですから』って返されたら、うぅ、どうしよう。きっと、その後の友情関係にも支障が出るし、もう気軽にボディタッチ出来ないよぉ!」

「ボディタッチは控えろ……」

「最初は嫌がっていたけどね、今では胸触っても睨まれるだけになったよ。しかもその睨む顔が、チワワが頑張って威嚇しているみたいで、逆に超可愛いの!」

「で、そのスキンシップは全て性欲に塗れていました、って答えたら、お前、もう近づけないぞ」

「だよね! あぁ、それを乗り越える最大のチャンスが、この前の旅行だったのに!」

 そこでアマネは、……俺を睨みつけてきた。ギリギリと歯ぎしりをする、ふざけた表情を装いながら、その仮面を貫いてくる刃のような視線を放っている。それにはあからさまな殺気が紛れていて、俺の全身が緊張した。

「な、何?」

「別に。ナンデモナイヨ」

 なんだ、その言い方は。ワザとらし過ぎる。まるで、俺に何かを気づかせようと暗号を送りつけているみたいだ。

「……リンが、何か言ったの?」

「どうしたのセセギ、突然?」

「いや、そう思っただけだよ。お前、旅行に行くって俺に散々自慢した時、計画のことは言わなかったけど、ずっと自分の世界にリンを招き入れる、って叫んでいただろ。それが寝ただけで、本当に諦めたの?」

「何か別の問題が起きたから、私は実行できなかった、とでも言いたいの?」

 いつものアマネの表情、口調、声のはずなのに、今、コイツは明らかに俺に牙を向いていた。気を抜けば、喉を噛みちぎられるんじゃないか、と俺は恐怖した。

「違った?」

「どうして私がそんな嘘をつかないといけないの?」

「違うなら、もういいよ」

「ふーん、あ、そう。……まぁセセギにはわからないもんね」

「何が?」

「私の気持ち」

「……俺はお前じゃないんだから」

「私がどれだけリンちゃんを愛しているか、その想いを吊ら得られなくて胸が潰されそうな気持ちなんか、絶対にわからないよね。だから、私がいつもセセギに真剣に相談しているのに、そうやって、のらりくらりと適当な返事をして、他人事だもんね」

 ……あらら、やっぱり気づかれていたか。「ごめんな、俺は真面目に返していたつもりだったんだけど、そう思われているのなら、謝るよ」

「別にいいよ、所詮セセギにとって、他人ごとだものね」


 他人。


 その言葉が槍となって俺の中に食い込み、ガラガラと崩壊していく何かがあった。この夏を越えて、アマネには、変化がある。見た感じは何も変わっていないはずなのに、コイツの内側から、得体の知れない生物が潜んでいた。

 俺の目の前で笑うコイツは、本当にアマネなのか? リンへの対処だけで、もう神経をすり減らしているってのに……。 

 アマネは、パタパタと手で自分を仰ぐと、ため息交じりに、口を開く。


「で、今日は夏休みの最終日。まだまだ暑いや」

「これからいっきに涼しくなるよ」アマネは一瞬で元に戻った。今までの会話が、全て俺の夢だと思うくらいに……。

「この暑さ、知恵熱でも起こしたらどうする?」

「……はぁ?」

 と、俺が声を出した瞬間、アマネは鞄をテーブルの上に振り下ろす。ずがん、と重々しい音が響いた。

「何、これ?」「セセギ、頑張ろう!」「いや、だから、え?」もの凄く嫌な予感を受けた。

「もちろん…………を」「途中急に声が小さくなったんだけど、もう一度はっきり言……いや、言わなくてそのまま帰って欲しいかも」

「宿題を、手伝ってください」

「嘘……だろ? お前、今日は最後の日で、今、お、お昼を過ぎたところ……」

「大丈夫、三分の一は終わらせてあるから」

「全然大丈夫じゃない! 待って、え、マジで?」

「二人で立ち向かえば、きっと時間も二分の一になる。今年の夏は色々と予定が詰まっていて、後でやろう、後でやろう……と先のばした結果が、これです」

 颯爽とアマネはテーブルの上に宿題のテキストやプリントや等を広げていく。うちの学校は、私立で変なプライドがあるのか、長期休暇の宿題が異常だ。俺だって、昨日やっと終えたのに、それをまた繰り返すの? 

 俺は一瞬で様々な逃げ道を考えたけど、どうせ、アマネに潰されてしまう。それを、経験で俺は導き出してしまう……。

「……はぁ、文句言っても、この宿題が俺の目の前から消えることは無いんだろ?」

「おぉ、よくわかっていますね!」

 睨みつけると、「えへへ、ごめんねー」とアマネは舌を出して笑う。その顔で、何でも許してしまう俺が許せない。

「……明日、弁当居るっけ?」

「うん、だって初っ端から授業詰まってるじゃん。お昼は必須だよ」

「はぁ、マジか……。パン買わなきゃ。これが地味に小遣いに響くんだよなー」

 これ以上この話題を広げる意味が無いので、俺はため息をつきながらテキストに手を伸ばす。俺の答えを写せばいいんだけど、それでも量が多い。数学とか、計算式から全部写さないとならないし……。

 まだ元気な蝉の鳴き声の中、扇風機じゃどうにもならない暑さが、辛い。

「喉乾いた……」

「私も。ジュース無いの?」

「冷蔵庫に、カルピスがあったはずだけど」

「夏はカルピスに限るよね。氷たくさんいれて、カララ! ってなると、夏だーって感じる」

「もう夏終わる寸前。はぁ、飲みたい。……誰が誰のために宿題手伝ってやってんのかな?」

「セセギが、私のために」「そうだね」「そうだよ」

「……セセギ君のためにジュースを作ってきてあげよう、とは思えないんですか?」

「あ! それはもちろん考えた。けどね、ここは人んちだし、勝手に冷蔵庫開けるのも気が引けるし、それにそれに」

 アマネの口ぶりから、絶対に動かない! という意志が伝わってきた。

「……わかりました、俺が、作ってきます」

「え、ありがとー! セセギ!」

 ……冷蔵庫にはカルピスの影すら存在しなく、その他ジュースはおろか、お茶すら無い。

「何も無かった」

「それは非道い、直ちに買ってきてください」

「お前が行け!」

「無理無理! 暑いよ、溶ける死ぬ。ほらぁ、お金出すから」

 アマネは財布を鞄から取り出した。以前と違い、真新しい財布で、ブランドの文字が光を反射していた。

「財布変えたんだ」

「うん、可愛いでしょ。えへへ、偽物じゃないよ、本物だから」

「よく買えたな」財布は、偽物を買っている俺には、羨ましく思えた。だって、これ……十万は軽く超える。

「頑張る自分にご褒美、かな。それじゃあ、よろしくね」

 アマネはその財布から、十円玉を、まるで碁石を打つかのように、テーブルに置いた。

「アマネさん?」

「今、これしか無いの。あとは、つけで……」

「お前、ホント何なの?」

 これ以上怒ると俺の頭が熱でやられる……。その時、ふと名案を思い付いた。

「キトに、頼もう」

「でも宿題をお願い、って言ったら、絶対に来ないよ。……絶対君だけに!」流す。

「暇だから遊びにおいで、と誘えば来るよ。……最近会っていないけど、もう流石に家に居るだろう」

「うわ、極悪だよ、セセギ」「お前には負けるよ」

 電話をかけると、キトは出た。宿題の件は伝えず、アマネが居ると伝えたら速攻で了承した。ジュースとお菓子を頼み、電話を切った。

 そして、俺はアマネを見つめながら、口を開く。

「リンも、呼べば?」

「リンちゃんも?」

「四人で挑めば、余裕で終わるからさ」

 アマネは少し考えた後に、ケータイを取り出す。髪をかき分け、耳に当て、俺から視線を外してリンと会話を始めた。

「あ、リンちゃん? 今日暇? 最後に遊ぼうと思って、うん大丈夫? そう、今ねセセギの家に居るの。うん、私の家の前にあるから、すぐにわかると思う……え? あ、そう、わかった、じゃあねー」

 ケータイを切ると、アマネは俺を見て笑った。「用事があるから、無理だって」

「そう。じゃあ、三人で頑張るしかないのか……」

「よし、セセギは数学を終わらせたら次は美術と生物と科学をお願いね!」

「お前は?」「私は現代文を終わらせるから!」「明らかに配分を間違えているよな」

「そう? これがベストだと思うよ」

「俺が美術の宿題を終わらせたら、確実にバレるだろ」


 ピーンポン――

 と、チャイムが鳴った。早い、奴の家からうちまで二十分はかかるはずなのに、五分も経たずに来たよ。向かい入れると、はぁはぁと息を漏らしながら笑みを浮かべていた。……恐い。ってか、それより、

「うわ、お前、どうしたのその傷?」

 何故かキトはボロボロだった。左腕は三角ギブスを着用し、右目は眼帯をしていた。足や手には無数の切り傷があり、頬も、普段よりこけている。

「色々あってね」

「お前、事故でもあったの?」

「闘っていたんだよ」

「……JKと?」またいつものアレか、と呆れた俺だったけど、キトは亜空の返しを放つ。


「宇宙人と、だ」


「……は?」

「だから、宇宙人だよ。エイリアン。虫みたいな恰好をした、生物だったな」

「えぇと、映画の話?」

 キトはやれやれと首を振って語り出す。

「海で、僕が新しい力に目覚めただろう。時間を操る力だ。あれがどこかの情報網に漏れたらしく、その力を欲しがる宇宙人を中心とした奴らに襲われていたんだよ」

「そ、そうですか」

「様々な能力を備えた奴らが僕を狙ってね、最後には、凄まじい技術力を備えた、宇宙人に、正面から挑まれたよ」

「よく、平気だったね」

「確率を操作できるからな。闘いに巻き込まれたのは……まず、腸辺に、告白して、フラれたんだが」

「え、フラれたの?」

「あぁ、強い男が好きなんだとさ。あの海で、僕に勝利したタケシに惚れたらしい」

「あ、あぁ、あれ……。ドンマイ」

「そして、一人落ち込んでいると、僕は見知らぬ場所に迷い込んでいた。以前に能力を得た、公園に似た雰囲気の場所だった。そこで、奴らは襲いかかってきた。幸いにも、僕には能力があり、全て撃退し、すると能力が増えていったんだ。この通り」


 

キト

① システムJK 

② システムJK ver.16-18 

③ 絶対★JK至上主義! 

④ 絶対領域アフター・モードJK 

⑤ リンク→JK 

⑥ 【J】運命グラフ【K】

⑦ めたもるJKふぉうぜ

⑧ インフォメーションJK

X JKJKJK



 この前より、圧倒的に文字が増えていた。そして安定のJK率!。

「へ、へぇ……」

「最後に、全ての黒幕である宇宙人と闘ったよ。奴らは、平行世界を操り、こちらの攻撃を全て別の世界に流し、ダメージを軽減してしまう。確率を操作しようにも、それに対抗する手段を備えていて、一筋縄ではいかなかった」

「よく勝てたね」

「あぁ、奴らがこの地球の人類、……JKを狙っていると理解して、……僕は覚醒したんだ。この攻撃で、なんとか勝てたよ」


 JKJKJK

 奥義

 タイプ――JK

 この世に存在するJKを全て愛する者が発動する。対象の能力を無効化し、使用者を勝利へと導く。その際に対象の能力との間で矛盾が起きた場合、その矛盾を勝利で上書きする。

『――JKが存在するから僕が存在している。僕が存在するからJKも存在している。なるほど、世界は一見複雑に組み合わさっているかに思えたが、真実はこうもシンプルだったのか。――覚醒する直前のキト』



「どこの僕の考えた最強の能力、だよ……」

「現在の僕は、君がこれまで見たことのあるどの二次元キャラよりも強いぞ」

「……大きく出たな」

「【JKJKJK】があれば、絶対に勝利するからな。それに、現在は時間、次元、空間などを制御できるまでになってね、僕を襲った奴らを全員未来の地球――八十億、とんで三日と十秒先の延々と砂漠が続く世界に引き入れ、全員に正座させて長時間説教したよ。今後二度と僕を襲わないと誓わせ、それとJKの素晴らしさを教え込み、最後には皆改心してくれた」

「もうなんか、話が飛躍しすぎてついていけないんだけど。あの、冗談はそのくらいにしてさ……」

「嘘は一つも言っていない。その宇宙人も、最後には泣きに泣いて、僕と友情を誓ってくれた。そういえば、今日、全人類に向かって、謝罪をすると言っていたな」

「……じゃあ、今テレビを付けたら、そういう番組が流れているとでも?」

 チャンネルを押した。


『ご、ご覧ください……、ひ、人が浮いています。空から人が浮いています!』……えっと、変える。ピッ

『上空から、一つの光に照らされて……』ピッ

『あの人物は?』ピッ

『いえ、これはトリックではない、ということで』ピッ

『好きな人 JKJC あとJS キュァ・ロレックス!』ピッ

『あぁ、今連絡が入りました。謝罪のようです。空に浮かぶ人物は、実は地球人ではなく、な、なんと宇宙人で……あ、あぁれは……土下座です!』


「……」

「……な?」

「はい。疑ってもうしわけございませんでした……」

 この緊急事態でアニメを放送している一つのテレビ局以外は宇宙人が空中で土下座している姿を生中継していた。

「でも人の姿をしているんだ」

「流石に元の姿では、驚かせてしまうと、危惧したらしい」

 いや、十分驚いているよ。あと、キトは説教を終えた後の写真を見せてくれた。真っ白に聳える太陽? をバッグに、どこまでも続く砂漠の上で、キトを中心とした数人が笑顔で皆、ピースをしている。その内の一人はセミを巨大化させたような姿をしていた。コイツも、元気にピースしている……。

「その怪我は、戦いで?」

「いや、腕は昨日、自宅でJKを眺めていると、妹に覗かれそうになり、必死に体を傾けたら階段から転げ落ちて脱臼した。眼はものもらい。体中の傷は、山里離れた旅館に合宿に来ていたテニス部のJKを追いかけて野山を駆けまわっていた時に切り傷を負った」

「うん、まぁ、アホだね。少しでも心配した俺の記憶を消したい。だけど……右手が残っているんだから、大丈夫だよな」

「ここで一句、『汗ぬぐい かすかに浮かぶ 下着かな』アマネさんの姿を元に、歌を作った」

「そういうのいいから、ほら、二階に来い」

 世界を救ったキトなら、夏休みの宿題なんて苦に感じないだろう。俺はそう信じ、招き入れた。


 さて、キトの物語はこれくらいにして、本題に戻ろう。俺は、弁当の件からアマネを注意深く観察していた。少しでもボロを出したら、それを覚えておこうと思って。

 弁当に、アマネは何も反応を示さなかった。俺の、リンに対する仕打ちやその後の展開については何も知らないらしいな。

 次に、リンをうちに誘う時に、アマネは動揺した。俺から視線を自然と外す行為は、俺に嘘をついている時に出る、アマネの素の行動だった。昔、俺が大切に飼っていた小鳥が逃げ、その後、アマネが自宅に帰るフリして外で何かをしていた。アマネがいなくなった後、その場所を調べると、泥に塗れたボルが埋まっていた。アマネが俺に、鳥が逃げた、と言った時、同じく俺からさっと視線を外した。

 この二つのことから、アマネは弁当の件は知らないが、俺とリンの何かしらの繋がりを理解している。だから、俺の家に居るとわざわざ伝えたんだ。自分の家に遊びに来たら? と伝えても良いはずだ。電話先のリンは、俺と出会うから、用事を思い出して断ったんだろう。

 アマネは、何を隠し、そして何を知っているんだ。

心が張り裂けそうな不安が俺を襲う。もう時間が無い。このままだと、アマネが、俺の目の前から去ってしまうような、そんな気がして、恐かった。



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