悪魔狩人の誓い㈡
傲慢な悪魔の嘘、天秤で丸裸にしますわ!元・奪衣婆令嬢の華麗なる無双劇
サークルでのささやかなクリスマスパーティーが終わり、新子とマウトは夜の帳が下りたキャンパスを後にした。
迎えにきていた菱倉家の黒塗りベンツに乗り込むと、運転手の河上が静かにアクセルを踏み込む。車窓からは、煌びやかなイルミネーションに彩られた横浜の街並みが流れていく。恋人たちや家族連れが、明日に迫ったクリスマスイブを楽しみにしながら、笑顔で行き交っていた。
「……平和ですわね。この光の一つ一つに、誰かのささやかな願いや愛おしい日常が詰まっていますのよ」
新子は窓の景色を見つめたまま、独り言のように呟いた。
彼女の脳裏には、昨夜バルコニーで対峙したルシファーの冷酷な嘲笑が、今も鮮明に焼き付いている。
『あの程度の影武者を、本物のサマエルやアザゼルだと思っていたのか? あれは私が現世にばら撒いた、ほんの余興の駒に過ぎない』
その言葉が真実であることを裏付けるかのように、新子の胸の奥にある奪衣婆の天秤は、いまだかつてないほど巨大で重い「悪意の気配」を、この現世の裏側に感じ取っていた。
「お嬢様。セトとサラから暗号通信が入りました」
対座シートに座るマウトが、無機質な声で報告した。
「――横浜港湾部および、近隣の廃工場地帯において、未確認の霊的波長を複数検知。これまでに遭遇した影武者たちとは異なり、明確な統率を持った『アザゼルの直属たる上級悪魔の部隊』が、現世への物理的干渉(ゲートの構築)を開始した模様です」
「……やはり、始まりましたわね。ルシファーの用意した、悪趣味な遊戯が」
新子はトートバッグから天冥石の触媒を取り出し、その冷たい感触を手のひらで確かめるように強く握りしめた。
ルシファーは今すぐこの世界を滅ぼす気などない。彼はただ、神に反逆した暇を持て余す絶対者として、現世で最も強く輝くエバという「おもちゃ」を見つけたのだ。
彼女の心がどこまで折れずに抗えるか。本物の堕天使たちが放つ圧倒的な暴力と絶望の前に、現世の人間たちがどう足掻くのか。特等席からそれを見物し、愉しむために。
「マウト。これからの闘いは、これまでのような一過性の事件ではありませんわ。アザゼルが従える無数の上級悪魔どもが、この愛おしい街を、そして現世を少しずつ侵食しにやって来ます」
新子が静かに問いかけると、漆黒の死神は一切の迷いなく、氷のような瞳で真っ直ぐに見つめ返してきた。
「私の霊子循環回路は、すでにお嬢様の魂の波長と完全に同期しています。相手が本物の堕天使であろうと、その軍団であろうと、お嬢様が天秤を掲げる場所に、私の絶対防衛圏は必ず展開されます。……一切の憂いなく、裁きを下してください」
「……ふふっ。本当に、最高に生意気で頼もしい盾ですこと」
新子は令嬢としての完璧な微笑みを浮かべ、天冥石をそっとバッグにしまった。
恐れは、もうない。
ルシファーがどれほど現世を侮り、ゲーム盤として扱おうとも関係ない。
「運転手さん、車を港湾部へ向けてちょうだい。……セト、サラ。聞こえまして?」
新子がインカムのスイッチを入れると、即座に頼もしい二人の声が返ってきた。
『ええ、聞こえています。いつでもサポートの準備はできていますよ、エバさん』
『先陣を切ってきた生意気な悪魔どもに、きっちり挨拶してやろうじゃないか、お姫様!』
車が煌びやかな市街地を抜け、冷たい潮風が吹く暗い港へと向かって加速していく。
その先には、人間界を蹂躙しようと目論む本物の上級悪魔たちが待ち構えている。
「相手が神話の化け物だろうと、ただの影武者だろうと、わたくしたちのやることは一つですわ」
反逆の令嬢は、冬の夜闇に向かって、これまでで最も気高く、華麗な笑みを浮かべて宣言した。
「現世の美しさを脅かす高慢な塵芥は、一枚残らず丸裸にして差し上げますわ!」
煌めくクリスマスイブの裏側で、真の悪魔狩りが幕を開ける。
すべての悪魔の王ルシファーの視線を感じながら、元・奪衣婆エバと漆黒の死神は、新たなる絶望の軍団へと向かって、誇り高く足を踏み入れたのである。
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魅力的なキャラクターたちが躍動する物語をお楽しみください。




