表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
AIアシスタントと行こう!異世界テンプレ記  作者: tomo
☆第2章 冒険の幕開け
40/40

第35話 信頼

引き続き、領都ハーバス、ライカ・カドモンド伯爵別邸の応接室。


室内には、『情報共有』を終えたばかりの、重く沈殿したような空気が漂っていた。


「……坂本、殿……」


「あ、無理に喋らなくていいですよ。ハーブティー、淹れ直しましたから」


坂本昇が、そっとカップを差し出す。

アレン・ハーバスは震える手でそれを受け取り、眼鏡の位置を直した。その顔は、王都の官僚としての優秀な仮面が剥がれ落ち、ひどく憔悴している。


「……感謝する。それにしても、これほどの情報を瞬時に流し込まれるとは 」


「アイは効率派ですからね。僕も最初は、しょっちゅう倒れて意識を失いましたよ 」


坂本が苦笑いしながら隣に座る。

部屋の隅では、ライカ伯爵とユタル老師が、アイの提示した【自由奔放ルート】を基に、王都への報告書の最終構成を練っていた。


(坂本昇という少年。使徒という強大な力を傍に置きながら、なぜこうも自然体でいられるのだ)


アレンは、隣に座る少年を横目で観察した。


(強すぎる力を持つ者は、多かれ少なかれ傲慢か孤独に染まるものだ。だが、坂本にはそれがない。むしろ、どこか達観した穏やかさがあるものだ…)


「―ねぇエリスちゃん、さっきの広場の屋台! あれはやっぱり、蜂蜜をかけすぎだったと思うの。でもあの食感、癖になりそうじゃない?」


「ええ、真鍋様。仰る通りですわね。ですが、次はもう少し落ち着いた場所で――」


楽しげな女子トークと共に、応接室の重厚な扉が開かれた。

入ってきたのは、二人の若い女性だった。

一人は、真鍋咲希。

異世界に来て吹っ切れたのか、その足取りは軽く、元気な声を響かせている。


もう一人は、この屋敷の主であるライカの一人娘、エリス・カドモンド。

茶色の髪、日焼けのない透き通るような肌。黙って立っていれば、亡き母の面影を残す儚げな美女。


真鍋は、坂本の姿を見つけるなり、先ほどまでのテンションのまま駆け寄る。


「ちょっと坂本君、聞いてよ! あのね、激辛パイがさぁ…… 」


真鍋の言葉が、物理的に止まった。

視線の先には、伯爵、老師。そして、死にそうな顔をしながらも、自分を凝視している見知らぬ端正な貴公子。


「あ……。えっと、あ、の……。会議中、でしたか?」


一瞬で顔を赤くし、カニのように後退しようとする真鍋。


だが、その時。

背後にいたエリスは、流れるような動作でカーテシーを披露し、


「皆様、ごきげんよう。……父上、老師。そして、アレン様。騒々しく戻りまして、失礼いたしましたわ」


凛とした声。

一切の無駄がない完璧な淑女の礼。

さっきまで「激辛パイがね!」と笑い合っていたはずの少女はどこにもいない。

そこにいるのは、”完璧な伯爵令嬢”だった。


(えっ、待ってエリス! 私だけ置いてけぼり? それってズルくない!?)


真鍋は、隣のエリスを強烈なジト目で見つめた。


「はぁ、……エリス。お前は相変わらずだなぁ 」


ライカが苦笑を漏らす。

エリスは澄ました顔で、「淑女として当然の嗜みですわ」と微笑んだ。


アレンは、その様子を呆然と眺めていたが、真鍋が自分に意識を向けたことで、背筋を伸ばした。


「……あ。すみません、私は真鍋咲希です。坂本君と一緒に……あー、使徒っやってます 」


「アレン・ハーバスだ。真鍋殿、お噂は伺っている」


アレンは官僚らしい微笑みを返すが、真鍋は持ち前の、少し落ち着いたがそれでも親しみやすい距離感で詰め寄る。


「アレンさん、エリスちゃんの知り合い? なんだか、お疲れみたいだけど、坂本君が何か失礼なことしました?

たまに天然で人を振り回すから」


「……いえ、坂本殿には感謝している。ただ、少々、情報の奔流に酔っただけで」


「あー、アイちゃんですよね。あれ、頭痛くなるよねー。

坂本君なんて、意識失って、よく倒れてますよ。

それで、どれだけ私が心配したことか… 」


「いや、僕の場合は仕方が無かったというか…… 」


「へぇ、仕方がないんだぁ… 」


「で、でも、アレンさん、アイは慣れればとても便利ですよ!」


坂本がタジタジになりながら話を変えようとするが、

目の前の真鍋に詰め寄られ

結局、

「はい、すいません、今度は気をつけます」


と力なく頷く坂本の横顔。

それは、精霊を操る英雄でも、異世界の使徒でもなかった。

ただの、”勢いのある女性に抗えない被害者” の顔だった。


その姿に、アレンの中で、ある光景がフラッシュバックした。

王都の自宅。馬車の中。

自分の意見を一切聞かずの一人の女性。

「はい、姉上」と答え続けてきた己の半生…。

アレンは気づかぬうちに、口の中でその名を呟いていた。


「……ジーナ……」


その微かな呟きを、真鍋の地獄耳が逃さなかった。


「え? ジーナ?」


真鍋がパッと顔を輝かせ、アレンの顔を覗き込む。


「アレンさん、今、ジーナって言った? もしかして……そのジーナさんって、アレンさんの彼女さんですか?」


「………………」


アレンは、石のように固まった。


「え? だって、あんなに切なそうな、遠い目をして名前を呼ぶなんて。きっと王都に残してきた、大事な恋人なんだよね! 素敵じゃない、アレンさん!」


真鍋の妄想は加速する。


対するアレンは、あまりの正解とギャップに、脳が停止した。

恋人? あの、戦車のような勢いで自分を轢き潰していく実の姉が?


「……違う。彼女ではない……」


「照れなくていいですよ! あ、もしかして、訳あり? 身分の差とか?」


「……姉だ」


アレンは、絞り出すような声で言った。


「私の上には、ジーナ・ハーバスという、王立魔法学校の教官をしている姉がいる。……君が今、坂本殿に詰め寄っていたその姿が、あまりにも姉の……その、重なる部分が多かったというか…… 」


今度は坂本が、アレンの肩にそっと手を置いた。


その掌からは、「わかります。言葉にしなくても、すべてわかりますよ、アレン殿」という無言のメッセージが伝わってくる。


「えーっ! お姉さん 魔法学校の先生ですか! 凄いですね!」


真鍋はアレンの絶望をよそに、ますますテンションを上げる

「ねぇエリスちゃん、ジーナさんって知ってる? 会ってみたいよね。ね、エリスちゃんも一緒にどうかな?」


「……ジーナ様は、その、非常にパワフルな方ですわ。真鍋様となら、きっと意気投合なさるでしょう……色々な意味で」


アレンは、遠い目をして夕暮れの窓を眺めた。


魔法学校の教師、ジーナ。

剣の腕を隠し持つ策士、エリス。

そして、この世界を物理的に壊しかねない、真鍋。


(……もし、王都でこの三人が合流することになれば。……それはもはや、『天災』ではないか?、それとも、【使徒】力の制御につながる!? )


アレンは、隣に座る坂本の手を、がっしりと握り返した。


「……坂本殿。王都までの一カ月間、お互い、頑張りましょう」


「……ええ、…というか、アレンさんも大変だったんですね……」


共通の敵――いや、共通の【災難】を予感した二人の男の間に、情報の共有では決して得られない、強固な友情の鉄鎖が結ばれた瞬間だった。


部屋の隅で、真鍋とエリスが ”王都のスイーツ店”について談義を広げ始める。


後にアルサーク王国の歴史家は、この日のことを「使徒と王都の融和が始まった日」と記したが、その当事者たちの心境が、単なる【女難の同志】であったことを知る者は、誰もいない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ