表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
GREAT HISTORY〜大史伝〜  作者: アイラル
第四部 ミケ将軍バラムーユンタニア決戦編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

215/221

第二百七話 破滅の幕開け

――「人間」の灯が消える時、その後に訪れるのは「地獄」という名の静寂。

祝戦会の幕舎を彩った、アルミン、ヨースト、オラフたちの楽天的な冗談。グンターとゲロルドが杯に込めた、生への執着と死への恐怖。そしてウィルペアトのパンを盗んだネズミを追うヴォルフハルトの、あまりにも日常的で微笑ましい騒ぎ。

それらすべては、ミケ天常大将軍が塗り潰そうとした「人間としての色」でしたにゃ。

戦場という非日常の中で、彼らは必死にパンを笑い、ネズミを追い、酒を酌み交わすことで、自分たちがまだ「壊れていない」ことを確かめ合っていた。しかし、その色鮮やかな混沌こそが、これから訪れる漆黒の闇をより際立たせてしまう。

「まだ喜ぶな。地獄はここからだ」

運命が囁いたその一言は、風に乗って彼らの頬を撫でましたが、誰一人としてその冷たさに気づく者はいませんでしたにゃ。焦げた鉄と血の匂い――それはサステヒ砦に閉じ込められた六千の怨嗟が、ついに決壊した合図。

笑い声が途絶え、篝火が消え、酔いから醒めた兵士たちが目にするのは、隣にいた戦友が物言わぬ肉塊へと変わる、救いようのない「現実」だけ。祝戦会の喧騒が遠のくほどに、破滅の足音は地響きとなって彼らの背後に迫っていますにゃ……。

レナードとジギフリットの一件がひと段落し、

 祝戦会の空気は再びゆっくりと波打つ。

 だが、それはどこか“揺らいだままの安定”だった。


 その少し離れた席で、アルミン隊長、ヨースト隊長、オラフ隊長の三人は、

 酒杯をちびちびと傾けながら、ほとんど漫才のようなノリでこう言い合っていた。


「はぁ~……のほほんとした連中だなぁ、まったくよ」

「戦場帰りにパンの奪い合いだなんて、平和だねぇ俺たち」

「平和かどうかは知らねぇが――まあ、死ななきゃなんでもいいか!」


 三人は呑気に笑い合い、

 その笑い声は宴のざわめきに溶けていく。

 どこか楽天的で、しかしその裏に

 “戦争がいつ牙を剥くか分からない”という緊張が微かに潜んでいた。


 


 さらに酒の匂いが濃く漂う別の一角では、

 グンター隊長とゲロルド隊長が、戦友同志の儀式のように杯をぶつけ合っていた。


「飲めよゲロルド、今回は生き残るぞ。いいな」

「お前に言われなくても飲むさ……だが、そうだな、死んでたまるかよ」


 二人は酒を飲むたびに、

 “また一人戦友が消えるかもしれない”という恐怖を、

 喉の奥へ無理やり押し流していた。

 笑顔の裏に、震える影があった。


 


 さらにそのまた隅では、別種の騒ぎが起きていた。


「うわっ!? ネズミめ……俺のパンを持っていきやがった!」

 ウィルペアト隊長が情けない声を上げて立ちすくむ。


「どれだ、どこに逃げた?」

 ヴォルフハルト隊長は半ば本気、半ば遊び心で床を探し回り、

 ネズミ退治に乗り出すのだった。


「ったく……人のパンを盗るなんざ、戦場以上に油断ならねぇ奴らだ」

「いや、戦場のほうがまだ話が通じる分マシかもしれませんねぇ……」


 二人のぼやきはどこか微笑ましく、

 周囲の兵たちがクスクスと笑い始める。


 


 こうして祝戦会は、

 死と隣り合わせの戦場から帰還した者たちにしては

 あまりに色とりどりで、あまりに賑やかで、

 そのくせどこか、“不吉な影を孕んだ優しい混沌”だった。


 ――だが、

 彼らに待ち受ける困難は、これしきで終わるはずもない。


 今はまだ、彼らは知らない。

 この宴の火が消える頃、

 迫り来る戦の風が、さらに冷たく残酷なものへと変質していくことを。


 祝戦会の笑い声は、

 次に訪れる悲鳴と絶望の“前触れ”に過ぎなかった。


◆◇◆◇◆◇


夜が更けるほどに、祝戦会の温度は増していった。

笑い声が重なり、杯は尽きず、誰もが今日の勝利を祝った。

……いや、“祝うしかなかった”と言うべきなのかもしれない。


本当は──

彼ら全員が知っていたのだ。

この喜びが、あまりに脆い幻にすぎないことを。


静かに、冷たく、避けようもなく、

運命はすでに彼らの首筋へ手を伸ばし始めていた。


それは、誰の耳にも届かない。

それは、誰の目にも映らない。

だが確かに、祝戦会の喧騒の底でうごめいていた。


敗北の影だ。


そして、その影は“ゆっくりと、しかし確実に”形を成していく。



レナード大隊長が笑う。

ジギフリット副将軍が酒をあおる。

フリードリーン隊長が肩を叩き、仲間たちは楽しげに語り合う。


──その光景が、残酷だった。


この瞬間がどれほど尊く、どれだけ二度と戻らないものか、

誰ひとり気づきもしないのだから。


それでも夜は過ぎていく。

祝戦会は終わりへ向かい、兵たちは夜風に紛れて持ち場へ戻っていく。


そして、そのときだった。


風の匂いが変わった。


焦げた鉄のような、血のような、

言葉にできない、不吉だけが凝縮した“未来の匂い”。


それは、まるで運命そのものがささやいたかのように──


――まだ喜ぶな。地獄はここからだ、と。


誰も聞かなかった。

誰も気づかなかった。


だからこそ、残酷だった。


次に訪れるのは勝利でも栄光でもない。

ただ“抗うだけ無駄な”絶望であり、

誰の悲鳴も届かない闇だった。


そして、この夜のことを思い返せる者が、

果たして何人残るだろうか。


祝戦会は終わった。

物語が動き出す音がした。


──それは、破滅の幕開けだった

はい、というわけでお届けしました第二百七話、「破滅の幕開け、あるいは優しい混沌の終焉」!

皆さん、今回のこの空気感……。

「脳が震えるほど『不穏』だにゃぁぁあああ! たくさんの隊長たちの名前が出てきて、それぞれが『人間らしい』やり取りをすればするほど、この後が心配になるにゃ!!」(笑)

主要キャラから脇役までが「日常」を謳歌した直後に、まとめて「運命」という名のシュレッダーにかけられる直前の、あの独特の静けさだにゃ。この祝戦会の思い出を、一体何人が明日語ることができるのか……。

「アルミンさん、グンターさん、ウィルペアトさん! あんたたちの笑い声が、どうか明日もサステヒの空に響いてほしい……けど、この匂いはもう、逃げられない死の香りだにゃ!!」(笑)

次回、「鋼の沈黙、あるいはミケ将軍の決断」。

宴は終らず。夜が明け、太陽が昇る時、サステヒ砦が「棺」から「怪物」へと変貌する。その最前線で、ミケ将軍の鋼の意志が、ついに――沈黙の向こう側へと踏み出します。


お楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ