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GREAT HISTORY〜大史伝〜  作者: アイラル
第四部 ミケ将軍バラムーユンタニア決戦編

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198/212

第百九十話 絶望の合唱

――泥濘に沈む嘆き、あるいは「天常」の耳に届いた不敬なる福音。

バツネの街が「天常大将軍」の誕生に沸き、偽りの黄金時代を夢見て踊っているその足下で。日の光さえ届かない奴隷居住区には、湿った絶望の毒霧が立ち込めていましたにゃ。

「俺たちの身分は、これで一生……奴隷のまんまだ」

その呟きは、ミケという暴虐の権化が勝利したことで、彼らから「人間としての明日」が永久に剥奪されたことを意味していました。かつてクラウス地方官が灯し、スタン国王が繋ごうとした微かな光。それが今、ミケの軍靴によって無残に踏み消され、残ったのは泥水をすする音と、音を立てて砕ける心の本音だけ。

しかし、その「文句を言う自由」さえも、この残酷な世界は許してはくれませんでしたにゃ。影に潜む密偵たちの耳は、彼らの涙声さえも「反逆の証拠」として積み上げ、勝利に酔いしれるミケの元へと運んでいく。

奴隷たちが流した「ちょん切れそうな涙」は、乾く暇もなく、次なる惨劇の火種へと変えられようとしています。希望が死に絶えた場所で、さらにその屍を蹂躙するかのような「地獄の第二幕」。ミケ……いえ、天常大将軍は、この弱者たちの怨嗟を、一体どんな「愉悦」の材料に仕立て上げるのでしょうか……。

 タズドット陥落の号外が町に踊り、

 「天常大将軍」なる新たな災厄の名が囁かれ始めたその裏で――


 陽の光さえ差し込まぬ奴隷居住区の奥底では、逆の意味で“歴史的な声”が上げられていた。


 それは歓喜ではない。

 それは興奮でもない。


 それは――

 希望の死を確認するためだけの嘆きの合唱

だった。



◆ 絶望という名の泥水の中で


「……もう、お終いだ」


 ひとりが呟いた。

 それは諦めではなく、

 “世界が本当に終わったと確信する者の声”だった。


「俺たちの身分は、これで一生……一生ずっと、奴隷のまんまだ……

 なんて、なんてことだ……

 男として生まれたからには、野望も、希望も、夢のひとつも持ちたいものだったが……

 この結果じゃ、何も……何も変わりはしないんだな……」


 その声は震えていた。

 震えは悲しみではなく、

 絶望の底に沈む時の痙攣だった。


 隣の男が、暗闇の中で首を振る。


「そんなこと……言うんじゃない……

 悲しくなるだけだろうが……

 聞いてる俺まで胸が締め付けられるんだよ……」


「悲しいもんは悲しいだろうが!

 この社会は……なんて、なんて残酷なんだよ!

 どうしてこうなっちまった……

 何が間違って……

 どこで転げ落ちて……

 どうして俺たちは、こうして泥水をすすって生きなきゃならん……」


 周囲からすすり泣きが漏れる。


「やめろ、やめとけ……

 それ以上文句を言うと、ミケ将軍の配下からまた鞭が飛んでくる……

 あいつらは、反射神経で人を殴るんだ……

 文句を言う前に痛みが来る……

 そんな世界なんだよ、ここは……」


「それでも……それでも言いたい!

 言わずにいられるか!

 この悔しさ、悲しさ、胸の奥が焼けるようなこの痛みを……

 黙れと言われて黙れるわけがないだろうが……!」


「わかってる……わかってるさ……

 だがな……俺たちに残された自由は“文句をこっそり言う自由”くらいなんだ……

 それだって奪われたら、もう、俺たちは……ただの道具だ……」


「もう既に道具じゃないか……!」


 沈黙。

 涙が、誰かの膝に落ちる音さえ聞こえそうな沈黙があった。



◆ 悲しみの連鎖、胸を抉る無数の「なんで」


「悲しみが……悲しみで覆い尽くされて……

 絶望が……絶望を呼び寄せる……

 変わらないって、こういうことなんだな……

 なんで……なんでこんなに悲しいんだ……?」


「はぁ……全くもってその通りだ……

 絶望的だ……

この社会は……何でこんなに厳しいんだ……

 息を吸うだけで苦しい……

 立ち上がる理由なんて、どこにも落ちてない……

 そして……この社会には……希望なんてもの、最初から存在しなかったんじゃないか……

 そう……思えてしまうんだ……」


「その通りだ……

 本当に悲しいし……

 本当に落胆させられるよ……

 この社会は……一体、どうなってしまうんだろうな……

 実に……おかしいじゃないか……

 努力が報われない世界なんて……

 もう壊れてるんだよ……」


「全くだ……」


 また沈黙。


 息をするだけで胸が締め付けられるような沈黙。


「はぁ……天は一体、何をしておいでなのだろうか……

 俺たちを助ける気なんて、最初から無かったんじゃないか……

 スタン殿も、スタン殿だ……

 一体、今ごろ何をしているのだろうか……

 遊び歩いているのか……

 それとも別の戦場で死にかけているのか……

 実に……残念だな……

 あの人ぐらいしか希望を感じられなかったのに……」


「全くもってその通りだ……

 スタン殿ぐらいしか希望は見られなかった……

 クラウス地方官たちの時は……まだ……まだ光があった……

 あの時は……最高だった……

 人間に戻れるかもしれない……そう思えた……」


「なのに……なのに……!」


 誰かが地面を殴った。

 弱々しい拳で。

 血が出るほど弱い拳で。


「敗北したのでは、どうしようもあるまい……

 勝ったほうが世界を形作る……

 負けたほうは泥水を飲む……

 世の中というのは……実に……残酷だな……」


「全くもってその通りだ……

 悲しくて……

 涙が……ちょん切れそうだ……」


 涙はとっくに落ちていた。

 頬を伝い、床に落ち、土に吸い込まれ……

 そして跡形もなく消えていく。


 まるで奴隷たちの希望と同じように。



◆ その会話は――“聞かれた”


 この絶望の連鎖は、

 皮肉にも、

 奴隷たちがもっとも知られたくない相手へと伝わった。


 部下の密偵たちが奴隷区を巡回していた。

 彼らはすべてを聞いていた。

 涙声も、愚痴も、嗚咽も、嘆きも。

 そして――ミケ天常大将軍への怨嗟さえも。


 その報告が、

 まるで“献上品”のように整えられ、

 ミケ将軍の元へ丁寧に届けられる。


 それは、

 奴隷たちにとって

 地獄の第二幕の始まり

 に等しい報告だった。

はい、というわけでお届けしました第百九十話、「絶望の合唱、あるいは密告者の影」!

皆さん、今回の奴隷区の皆さん……。

「脳が震えるほど『報われない』にゃぁぁあああ! せっかくスタンさんやクラウスさんが積み上げた希望が、ミケさんの勝利一つで全部パーだにゃ。」

今回は、嘆きさえもミケさんの「耳」に届いてしまった……これ、絶対にただじゃ済まないフラグだにゃ!!

「ミケ将軍……じゃなかった天常大将軍! 勝利の余興に、弱者たちの涙を肴にするつもりかにゃ!? どこまで性格がねじ曲がれば気が済むんだにゃ!!」(笑)

次回、「天常の裁き、あるいは不敬なる涙への返答」。

密告を受けたミケがレイ将軍と話し合い、涙さえも許されない、真の暗黒が始まります!


お楽しみに!

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