深夜、幼女を拾う 9
自宅の最寄り駅に着くと、そこからもまっすぐ帰らず、駅前のスーパーに立ち寄る。
これまでは独り暮らしだったから、食生活は適当でよかった。本当はよくないだろうが。しかししばらくはタマと暮らすことになる。食事に気を配らなければいけない。
「こんなことになるなら、きちんと料理の勉強をしておけば良かった」
バイト先でフードメニューの調理をしたことはあるが、あれはほとんどが冷凍食品だ。一から作っているわけではない。
あんなことで料理の腕が上達するはずなかった。どうせなら図書館で料理の本も借りてくればよかったと思う。
この時間のスーパーが混んでいるということも知らなかった。仕事終わりに買い物をしていく人が大勢いる。周囲の客と比べると、蛍太郎が買い物に慣れていないことが丸分かりだ。やや恥ずかしい気分になる。
とりあえず、レトルト食品やあらかじめ材料がセットになっているものを中心にカゴに入れていく。タマの詳しい好みはわからないので、なるべく色々な種類を選んだ。
このくらいでいいか、と思ったところでレジへ向かい、しばらく並んで会計を済ませる。
帰り道は、雨模様だった昨日とは打って変わり、雲一つない快晴である。住宅街の灯りにかすみながらも、星の光が見えた。
アパートの前に着くと、蛍太郎は背筋がひやりとした。
自分の部屋に灯りが点いていないのだ。まだ日が落ちきっていないとは言え、流石に無灯火で過ごすには暗い時間だ。
嫌な想像が頭をよぎる。
「(タマ、いなくなったんじゃ……?)」
慌てて階段を駆け上がり、玄関を開ける。
部屋はもちろん、風呂もトイレも電気は点いていない。
「タマ!」
思わず声を張り上げる。返事はない。
靴を脱ぎ捨て、暗い中電気のリモコンを探した。するとその最中。
「痛いっ!?」
何かにつまずいたと思ったら、悲鳴がした。恐る恐る足元を見ると、タマが寝ている。
胸をなでおろす蛍太郎。よかった、ちゃんといた。
リモコンで点灯すると、その明るさと、足が当たった痛みでタマは目を覚ました。
「んん……。けーたろー? お帰りぃ……」
まだ寝ぼけている。
「ただいま、メシにするか」
カーテンを閉めながら、帰宅の挨拶をする。