42章 訳あり女子強化策 10
青奥寺たちの強化も兼ねて訪れた『魔王城ダンジョン』。
1階のザコモンスターを蹴散らしながら進み、今目の前にボス部屋への扉がある。
その大きな両開きの黒い扉を、今回のゲスト、明智校長が見上げる。
「ところでこの扉の奥にダンジョンボスというものがいるのですね?」
「ええ。確か『カオスブロブ』でしたか。巨大なスライム、と言ってわかりますか?」
「ええ。ゼリー状の不定形のモンスター、ですね」
「よくご存じで」
どうやら明智校長はそちらの勉強もよくなさっているようだ。
さて、青奥寺たちの疲れが取れたようなので、俺を先頭にしてボス部屋へと突入する。
アホみたいに広い部屋、その真ん中にはやっぱりアホみたいに巨大な不定形のモンスター、『カオスブロブ』が小さな山みたいに鎮座していた。一応Aランク、『特Ⅱ型』相当のモンスターだが、その中では一番与しやすいものだろう。Aランクスレイヤーの入り口みたいな奴である。
見た目はまんま超巨大スライムだが、本体は不透明な極彩色をしていて、時折触手のようなものが突き出したり引っ込んだりしている。
悪趣味の塊みたいな存在を前にして、青奥寺が真剣な面持ちで口を開いた。
「先生、これはどうやって戦うべきでしょうか」
「触手と巨体に注意しながらひたすら本体を削っていく感じだな。あの身体に取り込まれたら終わりだから、基本的には遠距離攻撃を撃ち込みまくった方がいい」
「わかりました」
カオスブロブがズズズ……と動き出したので、戦闘開始となる。
俺のアドバイスに従って、魔導銃を構えた双党、新良、レア、リーララ、カーミラら後衛陣が一斉に射撃を始める。
『ジャッジメントレイ』の太い光線が次々と極彩色のブヨブヨに吸い込まれていき、大きな穴をあけるようにしてゼリー状の身体を削っていく。
一方で無数の触手がニョキニョキと全方位に伸びながら、回り込むようにしてこちらに迫ってくる。捕まれば猛毒に冒され麻痺させられて、そのままカオスブロブの本体に取り込まれてて一巻の終わりである。
その触手は射撃をしている双党たちだけでなく、オブザーバーである俺や校長や九神、清音ちゃんといった非戦闘員にまで無差別で伸びてくる。
護衛のアンドロイド兵が魔導銃の『ライトアロー』連射で触手を次々と粉砕していくが、こちらは逆にそれで手一杯になってしまう。
見ると青奥寺たち前衛陣が左右に分かれ、触手を切り払う防御役に回っていた。こちらも正しい判断だろう。
しばらく一進一退の攻防が続く……と言いたいところだが、カオスブロブは巨体を削られつつも、じわじわとこちらににじり寄るのを止める様子はない。
そんな様子を見て、今まで腕を組んで見ていたルカラスが、
「じれったいの。我がブレスをひと吐きすれば終わるものを」
などと言い出した。
「そう言うな。カオスブロブはAランクだからな。あれを倒せば皆自信になるだろう。それにそろそろだ」
「そろそろ?」
見ていると、体積が半分くらいになったところで、カオスブロブが急に萎れはじめた。ゼリー状の身体がしなびて縮んでいくと、直径3メートルはありそうな、いびつな半透明の球体が顔を出した。
「弱点の核だぞ」
と声を掛けると魔導銃の射線が集中し、カオスブロブの核を貫いた。
ブシュウウウ……
と変な音を立てて核が崩れていき、それでカオスブロブ討伐となった。
「なるほど、身体を保てなくなったか」
「あいつはブヨブヨの身体に魔力を貯め込んでるからな。それが足りなくなると一気に身体が崩れるんだよ」
などと言っていると、カオスブロブの死骸は床に染みこむように消えていき、巨大な魔石と宝箱が残された。
いつもの通り双党とレアと、そして明智校長が走っていって箱を開いた。
出てきたのはミスリル製と思われる、四角い小型盾だ。ただ表面に複数の水晶球が並んでいるのでただの盾ではないだろう。
「先生先生っ! これって普通の盾じゃないですよね!?」
双党がその小型盾を両手で掲げながら俺のところに持ってくる。
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六一式魔導盾
携帯型の魔力障壁発生装置
使用者の魔力を注入することにより、最大で縦横3メートルまでの魔力障壁を張ることができる
展開面積が狭い代わりに、魔力障壁の強度は高い
かなりの高出力まで耐えられる最高級品
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「それは魔力を通すと魔力の盾を張る『魔導盾』だそうだ。多分それは最上位に近い性能があるやつだな」
「最上位ですかっ!? さすが『魔王城』ダンジョンですね」
以前ブレスレット形状のものが別のダンジョンで出たが、それよりも上位のもののようだ。
これはダンジョン攻略用の装備品として有用な気がするから、イグナ嬢たちに渡して量産してもらおう。
小休止をして、上の階に進む。
2階のザコは『グレーターデーモン』『ロイヤルガード』に加えて『ミスリルハイゴーレム』という超絶防御力の高い巨大なミスリル製人形が出現する。
魔法耐性が高く力も強いが動きはそこまで速くはないので、青奥寺たちがよく切り結んで、関節を集中攻撃することで倒していた。
ボスは以前他のダンジョンで出てきた、亀の甲羅を背負った六本足のドラゴン『タラスク』で、もちろんAランクモンスターである。
『カオスブロブ』を超える怪獣並みの大きさの亀型ドラゴンに、当然ながら九神や明智校長、レアなどの初見メンバー全員息を呑んだ。
一方で清音ちゃんなどは、
「あれって前に一度お兄ちゃんが倒したやつですよね?」
と、かなり冷静な対応で、スマホの撮影準備も万端な様子である。
さらに青奥寺がやってきて、
「先生、私たちで戦えると思いますか?」
と真面目な顔で聞いて来るので、俺は少し感動というか、心がわずかに熱くなるのを感じてしまった。
「アレを前にしてそういう質問をしてくるのは大したもんだ」
「そう、でしょうか。でも、先生に着いていくにはああいったモンスターとも戦えないとなりませんから」
「まあそうかもな。タラスクは空も飛ばないし、動きもそこまでは速くはないから戦えるだろう。ただあの毒ブレスだけはまだ直撃したらヤバいからな。毒はアクセサリで防げるけど」
「ならどうしたらいいでしょう」
「誰かがタラスクの注意を引いてブレスを引き付ければいい。空を飛べば楽にできるんだが、まだ皆はそこまでの技術はないからここはルカラスに頼もう。ルカラス、悪いが頼めるか?」
「む? 我ならあのようなドラゴンの恥さらしなど一撃で倒せるが」
そう言って胸を張るルカラスだが、
「まあその女子たちの心意気に免じて、我が囮を買ってでてやろう」
とうなずいた。さすが圧倒的最年長、この辺りは大人なヤツである。
「頼んだ。じゃあ皆はルカラスが注意を引き付けてる間に自由に攻撃。当然ながら末端から攻撃していけ」
なにしろ甲羅だけで30メートルくらいある化物だ。甲羅の左右に三本ずつ出ているリクガメのそれに似た足も太さが5メートル以上ある。それを斬り裂くだけで相当な魔力が必要だ。
俺の指示に、青奥寺たちは「はい!」と元気よく答えて、タラスクの方へ走っていった。




