終章 気に食わない女
不機嫌さを隠す事もなく、むしろそれを知らしめるように顔を顰め、私は宛がわれた執務室へ帰った。
あんなお嬢様に、初めての敗戦を喫するとはな……。
「くそ……っ!」
ドアへ手をかけ、思わず悪態が口から漏れ出る。
「淑女らしからぬ言葉遣いだ」
まさか、指摘の言葉が返ってくると思わず、驚いて声のした方を見る。
すると、そこには一人の男がいた。
執務机の角に腰掛け、男は視線をこちらに向けていた。
「久しぶりだね。アリシア」
「何でいるんだ? てめぇ……」
「君らしからぬ言葉だ」
「これが今の私だよ」
男は机から腰を上げる。
「実は知っていた」
その態度が、癪に障る。
「その上で気になる事があるんだが……。君の筋書きは、真犯人の可能性を指摘された時点で破綻していたはずだ。それでも、食い下がったのはどうしてだい?」
「……負けたくなかった。それ以外にあるか?」
「それにしても、機嫌が悪そうだ」
機嫌が悪い、か。
その通りだ。
この不機嫌の理由は、負けた事だけじゃない。
負けた相手が、一番の理由だ。
『真実が隠され、罪のない人間が罰を受ける事が私には許せません』
あの言葉が、頭から離れない。
鼻につく。
気に食わない女だ。
アリシャ・プローヴァ。
次の機会があれば、潰してやる。
これで絶体絶命下町少女は完結です。
またいずれ、お会いしましょう。




