邂逅の二人
◇◇◇
勇者が不在の王都へ、魔物の大群が現れた。
その数や1000を越え、更には龍もいるほどだった。
人々は皆逃げ惑ったが、しかし逃げる所など無かった。
誰もが人類滅亡を覚悟した。
その時であった。
目も眩むほどの光が、二つ目の太陽が王都上空に現れた。
それは、一瞬であたかも何も起き無かったように消えた。
だが変化は確実にあった。
あれほど大量にいた魔物が、綺麗さっぱり消え去ったのだ。
女神は人類を見捨てなかった。
最後の最後で、女神は光の球を遣わし、我々人間を御救い下さったのだ。
ヤラキの手記より抜粋
◇◇◇
一週間後。
「勇者よ、よくぞ世界を救ってくれた! 世界を代表して朕から礼を申そうぞ! これで狭められた人類の生存圏は奪還され、再繁栄することであろう!」
リーナ、キール、ナタージャ、アチェリー、ビトレイの五人はセントラルの王から表彰を受けていた。
観客の中にはサリアの姿も見える。
しかし、シスの姿はどこにも見えなかった。
セントラルの復興は着々と進んで行った。
魔王が封印ではなく完全に倒されたという知らせは、即座にセントラル中を駆け巡り、『関の守護者』や『迷宮の王』等の特別強い魔物も倒されたということで冒険者ギルドにはT種の討伐依頼が出されるようになった。
それに伴い、生存範囲の拡大も行われて行った。
魔物の一掃が行われたユルド森から村が作られ、劣悪な食料事情を解消すべく農業が行われはじめた。
しばらくは農業中心の生活が続き、その後来るであろう爆発的な人口増加に備えるそうだ。
ラザベイ・ラボトリーは解体の流れとなった。
ラザベイが倒れたことで情報管理が杜撰になり、その結果中で行われていた非人道的な実験の数々が明らかになったのだ。
魔王が討伐されたことに伴い、王室からの資金援助も打ち切られる事になったので、もし非人道的な実験を行っていなくても縮小は免れなかっただろう。
だが、こんな学術的な事を研究するのではなく、もっと生活に影響する小さな研究を行う研究所が新しく設立されるらしい。今度はオープンな制度の上で成り立つようだ。
魔王の正体について、また魔物の改造法について、主にワン(形式上はキールと名乗っていた)がセントラル上層部に報告した。
魔物を星術的手法で強化する技術については術者死亡でそのまま封印、魔王の正体についても秘匿し後世には伝えない方向で行くそうだ。
また、魔王即ちトルナンドが語った魔法から星術への干渉は魔法教会に不信感を抱かせ、今後調査が入る予定だ。恐らく長年に渡る、魔法以外の技術の台頭を妨害した記録がザクザク出てくることだろう。
世界は魔王の影響から脱出し、世の中を回し始めた。
だが勇者一行の魔王討伐の旅はまだ終わっていない。
まだ、シスが帰って来ていないからだ。
「シス……。今どこにいるの? 早く帰ってきてよ……」
リーナは窓辺でそう呟いた。
ここはセントラルにあるリーナの家だ。いや、屋敷と言った方が正しいか。
この屋敷はリーナが勇者への褒美として王に望んだものだ。
シスと暮らす事の出来る家。それがリーナにとって最も欲しい物だった。
王が与えたものとしては珍しく、この家は三等地に立っている。大きさも大きすぎる訳ではなく、メイドの一人か二人がいれば十分過ぎるほどの家だ。
「……シスなら……、きっと帰ってくる……けど……」
リーナの後ろでメイドが、いやビトレイがそう言った。ビトレイは王へ、ビトレイの既婚者への更なる結婚権を、つまりは妻のいる男性へビトレイが嫁ぐ事の出来る権利を貰った。
リーナもそこまでするビトレイの熱に負け、それを認めた。どちらが正妻かどうかという事は問題にすらなかった。
二人の少女が一人の男の帰還を待つ。
だが、待ち続けて既に一週間を超えていた。
シスがクラクナ火山からテレポートして一週間、セントラルに帰還して一週間、そして屋敷で待つこと一週間。
20日を越えて彼に会えないことに、二人は心配と、そして恐怖を感じていた。
シスは、既に死んでしまったのではないかと、怖くて堪らなかった。
だってそうだろう、帰ってくると約束した彼は、もう20日を越えたが帰って来ない。
冒険者の恋人でさえ、10日を越えれば諦める。
しかし、二人はあの約束を胸にいつまでも待ち続けていた。
「シス……」
「……シス……」
「キールー! これ見て! アチェリー可愛い!?」
「ああ、それも似合うな……。っん! こっちの方が似合うんじゃないか? 着てみたらどうだ。」
「分かったー! キールがそう言うならー!」
とある服飾店。普通に報酬をお金で貰った二人はまともな日常服の買い出しに来ていた。
アチェリーは村から持ち出せた服が少なかったし、ワンに至っては研究所に幽閉の身だ、服などあるはずが無い。
まだ籍は入れていないらしいが、同棲しているらしくもうほぼ同じようなものだ。
試着室に入ったアチェリーを見て、ワンはクッションの椅子にどっかりと腰を下ろす。
「あいつは何をやっているんだか。さっさと帰ってこいよ。」
「んー? キールー、なんか言ったー?」
試着室の中から帰ってきた大きな声に、ワンは面倒臭げに答えた。
「なんでもないさ。」
「サリア、あなたシスに惹かれかけていたんじゃないの? リーナ達と一緒にいなくて良いの?」
「何を言っているのナタージャ。私は夫一筋よ。まあシスは夫と違った魅力があったことは確かだけれど、セントラルに帰ってきてもう一回考えてみたらやっぱり夫の方が良いわ。」
とある喫茶店。
サリアとナタージャの二人は女子会、のような物をしていた。一行の中で唯一相手を作れなかったナタージャと作らなかったサリア。年齢的には親と子ほどあるのだが、サリアが若作りなのでそうは見えない。
「レジスタンスの方はもう良いの?」
「ええ、もともとあそこはラザベイ・ラボトリー打破の為に結成されたから、解体された以上続ける意味は無いわ。『正統剣術』の方ももう使うことは無いでしょう。」
「そっか……」
ナタージャは疲れたように机に突っ伏すと、心底羨ましそうな声で呟いた。
「あぁ、私にも良い運命の相手が現れないかなあ……」
「そういえば、まだシスは帰って来てないわね……」
「私の話、無視!?」
次の日の、朝。
リーナは眩しい陽光で目を覚ました。
「んん……。っうわぁ!」
いつもより眩しいその光を疑問に思って窓から外を見ると、空気がキラキラと輝いていた。
細氷。
小さな氷が降って日の光を反射し輝く現象。
(あれ……、でも今日はそんなに寒くないはず……?)
不思議に思うリーナは、だが直後に感じた感覚にそんな事はどうでも良くなった。
「っ!」
寝巻きのまま玄関に走るリーナ。細氷はリーナの体に当たっても解ける事なくその場に留まり続ける。
当たり前だ。これは細氷――ダイヤモンドダストなどではない。
純粋な、ダイヤモンドのカケラだ。
上空から、リーナのよく知る魔力が降りてくる。
リーナの大好きな彼の魔力。側にいると安心できる彼の魔力。
それを、感じ間違えるはずがない。
キラキラと煌めく空気の中、リーナは空を見上げて捜す。
何を?
それは勿論、彼を。――シスを。
ペリドットの魔封宝石を使ってゆっくりと降りてくるシスを見て、リーナの瞳に涙が溢れ出した。
このダイヤモンドダストは、魔力を完全に使い切って砕けた魔封宝石だ。シスを守った、リーナの魔力が込められたダイヤモンドのなれの果て。
後に『金剛の朝』と呼ばれるある日の朝、シスは、リーナの元へ――愛する人の元へ、帰還した。
二人の間に多くの言葉はいらない。説明なんて後回しで良い。ただ、この幸福を噛み締めたい。
「ただいま、リーナ」
「おかえりなさい、シス」
強く、強く抱き合う二人の姿を、星は静かに眺めていた。
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今日10時に投稿されるエピローグにて、この作品は完結となります。
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