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勝利の勇者

 「ストロ=フュージョン」

 デトネーションによって放たれた衝撃波をやり過ごし、カリバーンを手にトルナンドへと接近する。

 しかし、

 「グラ=リパルシブ(Gra-Repulsive)」

 斥力場がその進路を塞いで通ることを許さない。

 だが、それと同時に二人の少女が二方向から砲撃を加えた。

 「『世界組成消去(イレイス:スペイス)』」

 「『粒子加速砲ハドロンアクセラレイター』……発射(ファイア)

 純白の神力と青白い光は、真っ直ぐにトルナンドを貫く軌道で進み、やはり斥力場に阻まれた。

 (重力は引き付ける力。負の重力で、斥力を作ったのか……! だが斥力場なら!)

 遠距離では斥力を発生させる、つまりごく近距離では反作用で引力を発生させる力場、ポテンシャル障壁。

 「『武器庫(アーセナル)』、HSNC」

 対サン戦闘で使った理論、トンネル効果。

 ポテンシャル障壁を通り抜けることのある素粒子の現象を利用して、分解の魔弾をトルナンドに放とうとした、直前。

 「グラ=ウィ=フィールド」

 「HSNC、スイッチオン。……ちっ」

 トルナンドを守る障壁の種類が切り替わった。

 斥力で弾くものから、重力で地に叩き落とし弱い相互作用で弾を分解するものへ。

 HSNCの弾であるニュートリノはこれ以上分解できない素粒子であるが、高重力の檻に捕えられて地に落ち、トルナンドには当たらない。これでは『超光速粒子射出砲(タキオンランス)』も当たらない。光速を越えたとしても、重力の影響から逃げられる訳では無いのだ。

 障壁が変わっても諦めず、障壁を破る術を探そうと、三人は攻撃を撃ち続ける。

 「『86式四連収束爆撃砲フォアクラスターカノン』……発射(ファイア)

 「『神力操作(フォース:ハンドル)』、それで『武器変化(トランス:ウェポンズ)』っ!」

 「ブラットストーン、ルビー。……『パラボラ・アータリー』、『破断(ブロークン)』」

 放たれた三種の攻撃。それを見て、魔王はほのかに嗤う。

 攻撃が障壁に防がれる事を確信して、次の攻撃の準備動作に入った。

 次の瞬間、純粋物理攻撃の星術銃、神力で形作られた武具の攻撃、爆発の威力を口径に圧縮したエネルギーの塊、三種の種類の全く異なる攻撃が障壁に激突する。

 が、全ては超重力に引かれて地面に落ちて、物質はβ崩壊を誘発されて素粒子レベルに分解される。

 次の瞬間。

 「グラ=スペイスコンプレッション(Gra-Spacecompression)」

 三人は、空間が瞬時に圧搾される音を初めて聞いた。

 空間は壊れない。

 だが無理矢理潰された。そして、その空間はどうなる?

 空間を圧搾していた重力が消えた。

 結果、元の大きさに戻ろうとして、爆発的に周りの空間を押し退け膨張する!

 「なっ!?」

 「……!」

 「なにっ?」




 ギィィィィイイイイイインッッッ!!!!




 と、耳が痛くなるような高周波が鳴り響く。

 破壊という破壊が炸裂した。

 空間が急に引き延ばされ、圧縮され、そして元に戻る衝撃は、人類が作り得る兵器のレベルを遥かに越えていた。

 爆心地は障壁のすぐ外側。

 空間は重力で曲がるため、重力による障壁は空間爆発をも防ぎきったのだろう。

 爆心地の真下には深さ50メートルはあるだろうクレーターが出来上がっていた。

 たかが50メートル、と思うだろうか。

 だが違う。

 深さ、高さの縦の高さと、横の長さを一緒くたに比べてはいけない。世界最高峰の山でさえ、横の長さで8キロに過ぎないのだ。その高く、長く感じる比率の違いを考慮に入れれば、50メートルでも凄まじいことが分かるだろう。

 そうで無くても、半径50メートルの球圏内約523598立方メートルの範囲を破壊し尽くす、と考えれば良いかもしれない。

 それもトルナンドが圧搾した微かな空間だけでだ。圧搾する空間量が増えれば、更に破壊半径は増えるだろう。

 最強の盾、超重力・弱い相互作用障壁。

 最強の矛。概念を越えた空間圧搾爆破。

 両者を矛盾無く併せ持つトルナンドは、まさしく最強の存在と言えるのだ。

 リーナの神力に包まれていた三人が姿を現した。

 リーナは爆発の直前、自らが纏う神力の内側にシスとビトレイを取り込んだのだ。物理攻撃無効を持つ神力の鎧は、空間爆破という、魔法の要素を全く含まない爆発を全て無効化する。

 「攻める糸口が見つからない……」

 「……どうやって、あの障壁を破る、の……?」

 なんとか今の空間爆破を凌いだが、それも100パーセントの確率で成功する訳ではない。何故なら、今の対処法を見てトルナンドがまた、リーナに不可知の加圧をするかもしれないからだ。そうなれば、リーナの神力操作に誤差が生じ神力内部に二人を取り込めないかもしれない。そうなればもう打つ手はほとんど無くなる。

 シスは確認するように少しの間考えると、ぽつりと呟いた。

 「中和しかないか」

 中和。

 即ち、トルナンドの攻撃を、マイナスかつ等量のエネルギーをぶつけて無かったことにする、と言うのだ。

 だがそれには、トルナンドの言う宇宙統一方程式、即ち超重力理論を理解しなければならないし、演算能力もトルナンドと同等以上である必要がある。トルナンドでさえ外付けの外部演算素子に頼っている計算を、だ。

 しかしそんな信じられないような決断を、二人の少女は疑うことはない。

 シスを信じ、その指示に従うことが勝利への最適解であると分かっているから。

 「ビトレイ、」

 「…………?」

 「演算素子を、『未来演算者フューチャーカリキュレイター』貸してくれ。」

 「……分かった」

 ビトレイが目から外したコンタクトレンズを、シスは自らの左目にはめる。

 「……私のコンタクトをシスがはめてる……」

 ビトレイが恋する少女モードになっていた。こんな所ですることでは無いのだが、それだけビトレイにとってシスの隣は安全で安心できる所ということなのだ。

 はめたコンタクトレンズに表示される色々な未来情報。それを無視して、シスはボイスコマンドで『未来演算者フューチャーカリキュレイター』の奥底に眠る機関を呼び覚ます。

 「ラプラス1796、起動」

 途端、コンタクトレンズに表示されていた数々の未来予想図が掻き消える。

 何も表示されなくなったコンタクトレンズだが、続いて発せられた声に白色の無機質な文字を表示させた。

 「超弦理論、読込(リード)アンド反映(リフレクション)。物理演算、開始。」

 次々と流れる白地の文字。

 『Superstring theory is loading.

Loding complete.

Reflection start----complete.

Running have been onfirmed.

Calculation--start.』

 そして。



 チュイイイイィィィィィィィィンン!!!!



 という音が、『デストロイヤー』の各所から響く。

 ラプラス1796。

 それは、『未来演算者フューチャーカリキュレイター』の核となる機関の名だ。

 『未来演算者フューチャーカリキュレイター』は、ラプラス1796の演算能力を使って未来を演算していると言い換えて良い。

 だが、その二つの能力は正反対の物だ。

 『未来演算者フューチャーカリキュレイター』は、演算した未来で装着者の選択を変える。

 ラプラス1796は、装着者の望む未来に収束させる方法を演算する。

 未来に従って対処法を変えるか、未来を変えて望みを手に入れるか、その違い。

 つまりは、トルナンドの星術を中和するにはどうすれば良いかを演算する事が出来るのだ。

 そもそも、ラプラス1796の語源、『ラプラスの悪魔』という存在は、ある瞬間における宇宙の全素粒子のベクトルを把握し、凄まじい演算能力でその後の未来を予測するというものだ。その名を冠するものが、たかが今の未来を予測するだけの能力しか持っていないはずが無い。

 「行くぞ。……トルマリン」

 電気石の名を冠するトルマリンの魔封宝石(ジュエル)を片手に、シスは反撃の為に前へと進む。

 「グラ=ディメンションプレス。グラ=ウィ=フィールド」

 トルナンドの反撃。

 リーナにだけ謎の圧力を感じさせる攻撃と、絶対なる障壁の再展開。

 だが。

 シスには既に分かっていた。

 『神格化(シフト:ゴッド)』状態のリーナとシス、ビトレイの違いは、高次元に渡って存在しているかどうかだ。

 そして重力は、高次元にも干渉し得るのだ。

 何故なら、重力は弱すぎる。四つの力が同じものなら、四つの力は同じくらいの力でなければならない。

 だが実際、静電気で紙片が重力に逆らって浮く。

 何故弱いのか。

 いや、弱い訳ではない。他の次元にも干渉しているから、四次元に暮らす人間には知覚出来ないだけだ。

 そう判断して作られたのが超重力理論、そしてそれのハイエンドモデルの超弦理論なのだ。

 「トルマリン」

 電磁気力から重力に干渉して高次元上でリーナにかかる重力を排除した。

 「人類1000年の思考の足跡、一年で考える人が100人だったとしても10万人以上の試行錯誤を、一人で辿り着けられてたまるか。」

 シスの声が響く。トルナンドに聞こえるように。トルナンドに届くように。

 「カイラル異常は考えたか? CP対称性の破れは? 超対称性は、くりこみ理論は、ヒッグス機構は?」

 トルナンドの宇宙統一方程式VS人類の超弦理論。

 なまじトルナンドには、シスの言葉を類推する知性があるが故に気づいてしまった。

 自分の宇宙統一方程式の不完全さに。

 そしてそれに気づいてから自分が発生させた障壁を見れば、穴だらけの弱々しいものだった。

 それも、

 「トルマリン」

 外部からの干渉で消滅する。

 「ははっ! ははははっ!!」

 トルナンドはまだ見ぬ聖術の可能性に歓喜して。

 「『収束大砲(パラボラ・アータリー)』」

 「『超伝導大磁力砲(マイスナーキヤノン)』」

 「『神力操作(フォース:ハンドル)』」

 荒れ狂うエネルギーの奔流に巻き込まれた。




 「ごめんよ、セイ……」

 トルナンドにそんな思考が最後に生まれた。

読んで頂いてありがとうございます!

次回も頑張って更新するのでよろしくお願いします!

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