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始戦の勇者

 トルナンド・リッカーマンド。

 およそ1000年前、星術という概念を作りだし、魔法に追い付くまでに昇華させようとした大天才。

 言うなれば神と崇められてもしょうがないほどの業績を残したただの人間。

 「……生きてる訳が無い」

 ビトレイが呟いた。

 リーナと同じくらいシスを信頼しているビトレイさえ、この言葉を言う。

 それほど信じられない事であり、実際寿命1000年を超える人間など誰もが信じられない話しである。

 それなのに。

 「ばれてしまっては仕方が無い! 私も本来の喋り方に戻すとしよう!」

 大きな声で、魔王は肯定する(・・・・)

 「宇宙統一方程式……、世間では超重力理論と言うのかな? これを初めて暴いた報奨として、私と会話する権利を与えよう、聖術(セイクリッドメソッド)使いくん?」




 「こちらの要求は一つだ。人類を襲うのをやめろ。」

 「不可能だな!」

 「交渉決裂だな。」

 「シス、早過ぎるわよ……」

 あまりにも早い決裂に、リーナがツッコミをいれる。トルナンドが喋り始めると同時、リーナにかかっていた見えない重圧が消え去ったのだ。

 「……シスが戦うなら……」

 「ビトレイも理由くらい聞けばいいじゃない」

 と『マルチファイラー』を構えるビトレイも宥めるリーナ。そんなことをしている間にサリアとワンを含めた全員が一度警戒を解いてトルナンドの前に集まった。

 騙し打ちの可能性もあるのだが、そこは良くも悪くもシスの信頼が無視させているようだ。そんなことになってもシスなら何とかなる、という思いと、シスが信用したのだから信頼していだろう、ということらしい。

 「トルナンド・リッカーマンド? 誰なの?」

 と、そこにサリアが爆弾を放り込んだ。

 確かにトルマンドは星術史は勿論のこと、魔法史にも競合相手として名が上がる星術の創始者として名を刻んでいる。

 だが、サリアは魔法にも星術にも適正がない人間。知らなくてもしょうがないと言えるが、それがトルナンドに理解出来ている訳がない。

 「ふうん、後世には私の名前は残らなかったのか! まあどちらでも良いことだが考えていた事項が一つ減ったな!」

 だがトルナンドはそこまで固執している訳では無いようだった。サリア以外のメンバーが胸を撫で下ろす。

 「それで、どうして人類を滅ぼそうとしているの? あなたも人類なのに。」

 そしてリーナがトルナンドに訊いた。

 「正確には人類ではなく、魔法を扱う者だ。だがそれは人類とほぼ同義だろう!

 魔法はあってはならない力だ。世界を知ることも無く、探ろうともせず、ただ人間のしたいがままに世界を歪ませる。あるべき姿を改変し、なおかつそれを破壊という詰まらない目的の為に行使する!

 気に入らない者を虐殺し、自分の思い通りにならない物を傀儡にし、やりたくない物を押し付ける!

 そんなことが許される訳が無い!」

 「だから外から攻めるという形を取ったのか。それなら魔法を操るものが確実に同じ土俵に上がってくる。そこで倒せば良いと。」

 シスが納得したように呟いた。

 「それに君達は私が創った技術をなんと呼んだ? 星術、だと? これこそ魔法が自らにとって都合の悪いものを捩曲げる証拠だ! 私はこの技術群をこう名付けた! 聖術、と! 魔法を排し打ち勝つ正しい術、聖術(セイクリッドメソッド)と!」

 誰も反応が出来なかった。

 出来る訳が無かった。

 少なくともトルナンドが語った範囲で矛盾は無かった。明確な証拠をも提示された。

 そんな相手に、反論する術を一行の誰も持っていなかった。

 だが。

 それはそうとして(・・・・・・・・)、シスはトルナンドに尋ねた。

 「本当に人類を襲うことをやめる気は無いんだな?」

 「ああ!」

 



 ドッゴンッッッッ!!!!!




 と、肉打つ音が響いた。

 ガーネットで硬い物質を拳の前に“生成”、拳を振る速度をラピスラズリで“増幅”し、衝突と同時に物質を“炎熱”で昇華させて急激な体積膨張を起こし、凄まじい威力ででトルナンドを殴った音だ。

 振り抜かれた拳はトルナンドを数十メートル吹き飛ばし、三回以上バウンドさせた。

 「お前がどんな理由を持とうとも、どんな信念があろうとも、リーナを脅かす限り、倒さないという選択肢はありえない」

 「シス……」

 シスの宣言にリーナが胸キュンする中、他の一行は目を回していた。

 言い返すことが出来ないトルナンドの意見に、完全な私利私欲でシスが反証するとは考えもしなかったのだ。

 「……ふふっ」

 だがビトレイは、少し笑うと戦闘の準備を整える。

 仕方が無い。ビトレイが惚れたのはこの一途なシスなのだから。

 「……1024式『未来演算者フューチャーカリキュレイター』、『走馬思考加速リヴォルヴィングランターン』『2048式斉射砲(デストロイヤー)』……起動(アクティブ)

 「『神格化(シフト:デミゴッド)』」

 「『滅魔帝(インノケンティウス)』、『宝石配置(ジュエリィアレンジ)』、起動済み」

 この中で、トルナンドへの完全な反証が出来る者、またはそれでも自我を押し通せる者、そして押し通す者に完全な信頼を寄せる者だけがトルナンドと敵対できる資格を持つ。

 現在それをもつ三人だけが、トルナンドと向かい合った。

 殴り飛ばされた先で立ち上がって、トルナンドは言う。

 「ほう! これでもなお私と戦うか! 理由が女とはちょっとアレだが相手をしよう!」

 そして。

 トルナンドは今まで全く余裕を崩さなかった最大最後の理由を三人に告げた。

 「だがそんなことをしている暇はあるのかな!? 私が何故姿を現したと思う!? 勝利が確定したからだ!」

 何の話だ、と首を傾げる三人に、その言葉は突き刺さる。




 「あと一時間もしない内に、ドラゴンを主戦力かつ輸送に使った魔物の大群が、上空からセントラルを襲うぞ!」




 「「「んな……」」」

 三人は驚愕に晒された。

 セントラルは人類最後の生存圏だ。そこを襲われるということは、人類滅亡とほぼ等しい。

 それを防ぐためには、世界にある全ての力を操る、言うなれば世界そのものを操る敵を一時間以内に討って、セントラルまでたどり着かなければならない。

 いや、追い付く時間を考えれば瞬殺に近い速度で倒す必要がある。

 どう足掻いても不可能に思える条件。

 だが少女達に諦めの色はない。

 なぜなら。

 ((シスなら……))

 彼がいるから。

 「分かった、トルナンド。お前を倒してリーナのいる人間世界を守ってやる。」

 遂に、真の最終決戦の幕が上がった。

読んで頂いてありがとうございます!

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