判明の勇者
シスが手も足も出ない。どころか、相手の攻撃の方法論すら分からない。
シスが苦戦するのもサリアの時以来で、シスが相手の攻撃を解析出来ないのは初めてだ。
リーナはそんなシスを見て、手伝う事を決めた。
『神格化』はもれなく物理攻撃無効の効果を持つ。今のところ魔王は物理攻撃しかしてこない。というか魔力を持っていないのなら、『神格化』したリーナにダメージを与えることは出来ないはずだ。
「『神格化』、『世界組成消去』」
一行にとって初めての反撃が放たれる。
それは魔王の攻撃と同じくらいの初見殺し。絶対回避、防御不可能な空間ごと削り取る攻撃。
しかし。
「グラ=ウィ=フィールド(Gra-We-Field)」
魔王が張ったフィールドに入った瞬間、地面に向かって折れ曲がり、魔王に届く事なく地面をえぐる。
屈折という防御。
だがどうやって?
『世界組成消去』は物理攻撃ではない。触れた物を消去する、という性質を時間制限をつけて付与した神力を飛ばしているのだ。神力に干渉できるのは、同じ神力か魔力のみ。だがどちらも魔王は持たないはずだ。
ここでもまた、知らない理論。
現象の観測から到達までが短すぎるため、対処戦法は意味が無い。そのロジックを解き明かして大本から対策をするべきであり、それはいつもシスがやっているものだったが、そのシスがロジックを暴ききれていない。
「1990式『熱電離気体尖形射撃砲』、発射」
「繊細織魔法、インフェルノバレット」
ようやく反撃のチャンスが生まれたと、ビトレイとナタージャが攻撃を放つ。
確かにリーナの攻撃を逸らしたということは、あの防壁は魔法攻撃対策である可能性が高い。
完全な物理攻撃である魔法銃や高熱を飛ばす魔法の熱量なら届く可能性がある。そう考えて二人は攻撃したのだ。
だが。
「グラ=ウィ=フィールド(Gra-We-Field)」
再びの魔王の言葉。
攻撃は全て地面に向かって屈折させられ、熱も魔王には届いていない。
圧倒的な防御。圧倒的な戦力差。
そして。
「グラ=ディメンションプレス(Gra-Dimensionpress)」
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あっっ!!」
リーナの悲鳴が木霊した。
高次元の神力による庇護がなされているリーナが、魔力を使えない魔王にダメージを喰らっている?
リーナが味わっているのは強烈な重圧。しかし実際にある訳ではない。全身が圧力に晒されている感覚が消えない。
現実に無いはずなのに、与えられるダメージ。
則ち、知らない理論、知らない攻撃。
アチェリーとサリアは攻撃すら出来ない。
得にサリアは魔法防御が張れないため、避けきれないダメージ量が大きい。だがこれだけの威力が連続的に炸裂する中生き残っているのは、『正統剣術』の有効性を証明している。
そして。
「エレ=エレクトディスペイション(Ele=Electdissipation)」
突如、七人全員の目の前にある空気が破裂した。
流石に核爆発ではない。
シスも方法論は分からないが、起こった現象だけは解析できる。
(クーロン爆発っ!?)
分子の中の電子が剥ぎ取られた場合、中の核同士が反発して分子が高速で崩壊するクーロン爆発。
それにより、一定体積の気体窒素が膨脹し、それによって僅かに一行の体勢が崩れる。
続いて、
「ウィ=コラプス(We-collapse)」
地面が50センチの深さで陥没し、両足が全て中に入り、
「グラ=コンデンス(Gra-Condense)」
頭上だけでなく、全包囲から圧搾される。
これだけで詰む。
これだけで終わり。
時間にすれば一秒にも満たない時間で放たれた正体不明の攻撃は、そして最終局面を迎える。
「ストロ=インパクト(Stro-Impact)」
瞬間。
強い力のベクトルをマイナスにされた体の各所は、血飛沫を上げて極小規模な爆発を起こした。
「ぐ、があああああああっ!! ら、ラピスラズリ増幅せよっ!」
ありえない。
一瞬、シスの頭にそんな思考が走る。
他人の体に干渉すると言うことは、魔力がその人の体に潜るということだ。つまりは他魔力拒絶反応に引っ掛かる。そんなことが出来るはずが無いのに、しかし現実としてそれが起きている。
痛みを何とか耐えて、“増幅”を司るラピスラズリで思考速度を増幅する。
もうこのタイミングで取らないと、もう考える隙など魔王が与えてくれるとは思えなかったのだ。
(考えろ、ロジックを暴け、理論を解析しろっ!
魔王が使ったのは、重力操作、核融合臨界爆発、、磁力操作、分解、シールド、高次元干渉、クーロン爆発、圧力制御、身体破壊……?
共通点がなさ過ぎる! というか本当にどうやって魔王はこれらの現象を起こしているんだ? 俺が魔力を使わないとして、どうしたらこんな事が出来る? それを考えろ、おそらくそこから道がみえてくるはずだっ!
理論上必要なのは、重力子操作、核子操作、磁力操作、電気操作、…………
待てよ?
重力、核力、電磁気力?
分解はβ崩壊だとすれば、弱い相互作用で説明できる。
まさか、だがそれ以外には考えにくい……。
つまり、四つの力の操作?
超重力理論を使った電磁気力からの全種力の制御を行っているのか……?
だが、やはり、しかし…………)
方法論が見えてきた。
シスはラピスラズリを解除し、
「『武器庫』」
最後の回復薬を取り出し、服用する。
穴から出てきたシスが見たのは、一行の中で最後の三本の回復薬を各々使って復活したナタージャ、ビトレイ、アチェリー。
リーナは物理攻撃無効になっているし、サリアはナタージャが何とかするだろう。
まだ一人も死んでいない事に安堵するシス。
だがサリアは時間の問題、ワンも戦力外だ。
シスはふうっ、と一息吐くと、魔王へ叩きつけるように言った。
「四つの力の統一理論、則ち超重力理論をお前は用いて、一つの力を介して全ての力を操っている。確かにこれなら弱点は無い。全ての力を操るなら全ての攻撃を無効化出来るからな。」
世界の、魔法を除いたただの物理法則の世界における力は、たった四つの力に分類できる。
即ち、
重力、
核力、別名強い相互作用、
弱い相互作用、
電磁気力
である。
強い弱いとはなんだ、と思うかもしれないが、これが正式名称だ。
そしてこの四つの力を同じ物と見なす、円錐を一方から見れば円、もう一方からみれば三角になるように、視点が違うだけで本質は同じだとするのが超重力理論である。
また四つの力ではなく、特定の数個の力の統一を示す理論を統一場理論と言い、例えば電磁気力と弱い相互作用の統一を示す理論を電弱統一理論と呼ぶ。
「つまりお前は、唯一星術的手法で操作できる電磁気力を超重力理論に基づいて操作することで、全ての力を操作している訳だ。そしてそのデバイスは、恐らく地中深くにあり、お前は遠隔起動しているだけだ。お前が今まで倒せなかったのは、いくらお前の肉体を壊しても、デバイスはコマンド通りに動いて敵を攻撃し、更にはお前を守る。不意を意図的につかれて封印という手しか受けないようにコントロールしていたんだ。魔法を使わずに星術的手法は見ただけでは脅威度判定しにくいことも奇襲封印への誘導へなっていたのだろう。」
「…………星術?」
シスの長々とした『お前の手札は分かっているぞ』精神攻撃も横において、魔王は呟いた。
「星術? 違うだろう、聖術だ。」
傍から聞けば、意味の分からない言葉。「せいじゅつ? ちがうだろう、せいじゅつだ。」と聞こえるのだから当たり前だ。
だが、その中でも意味の分かる言葉で推測を確信に変えたシスは、魔王に問い掛けた。
「どうした、何か間違いでもあったか? トルナンド・リッカーマンド」
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