応戦の勇者
魔王。
千年以上前から人類を脅かしてきた魔物の王。
魔王は2メートルはあるだろうその魔物としては小さい方に入る体躯を一行に晒し、
「お前、達が、俺を、倒しに、来た、勇者、達か、?」
あろうことか言葉を発した。
だがシスにとって、それは驚くことでは無かったらしい。確かに考えてみれば魔王は培養槽を使って魔物を強化する、なんて芸当まで行っている。人語を解する事くらい何でもないと考えたのだろう。
「そうだ。完膚無きまでに叩き潰す。封印なんて温いことは言わない。存在の大元まで断ち切ってやる。」
シスはそう、啖呵を切った。
『滅魔帝』はまだ切れていない。
各々の魔封宝石にまだ魔力は残っている。
行ける、と判断してシスは後ろの一行へ声をかける。
「……行くぞ!」
「分かったわ!」
「おうよ」
「分かった!」
「……了解」
「いっくよー!」
「わ、はいっ!」
響くように返ってくる返事と共に構えるシスに、魔王は。
「そうか。」
一度シスを見据えて。
「グラ=プレス(Gra-press)」
そう、呟いた。
瞬間。
あたかも見えざる手が押し潰したかのように、強烈な重圧が一行に襲い掛かる。
比喩表現ではない。
気を抜けば一瞬で地に伏せられそうな圧力が、頭上から降ってくる。
その正体は。
「重力、魔法……!?」
ナタージャがそう叫ぶ。
重力という概念は既にラザベイ・ラボトリーによって生み出され、常識と化して一般に広く浸透している。
だが、イメージが重要な魔法において、あるのに感じられない物というのは想像しにくく、重力制御魔法など夢のまた夢だと言われている。
だが違う。
リーナの捉えた光景が、ナタージャの仮説を否定する。
「魔王に、魔力が無い……?」
魔力が無い、則ち魔法は使えない。
ではこの重力制御は何で行っている?
未知の攻撃、未知の理論。
全く対処のしようが無い初見殺し。
体はほとんど動かせそうになく、次の攻撃は避けられない。
だがそこで。
「『破断』」
シスが魔力操作の手を伸ばし、魔封宝石を起爆させた。
いつ、どこに置いた魔封宝石だ?
そう、ドーラ湿地『発生迷宮』にあったトパーズの魔封宝石、そこから送り込んでいた魔封宝石が今、役に立ったのだ。
轟音を響かせて爆発する魔封宝石、それに魔王が動揺したのか消える重圧。同時に散開して魔王を狙う一行に、しかし魔王は揺るがない。
「ストロ=フュージョン(Stro-Fusion)」
デトネーション。
急激な爆発によって起こされる毎秒数千メートルの速さで進む衝撃波が第一陣として万人を叩き、続いて熱戦と爆風が死の嵐となって一行に襲い掛かる。
水素核融合臨界爆発。
起きた現象は分かっている。
ただしその方法論が見えない。
「何が、何が起きているんだ!?」
シスにはそう叫ぶことしか出来なかった。
水素核融合臨界爆発なら、シスにも起こすことは出来る。
だがそれは魔封宝石という魔法に一部連なる力を使うからだ。魔法を使わずに、しかも魔封宝石より速くそれを行う術をシスは知らない。
さらに。
「エレ=サクション(Ele-Suction)」
カタカタと、武器や防具が魔王の方に引っ張られる。そう、鉄製品が磁力によって引き付けられる。
それによって動きが止まった瞬間。
「ストロ=ニュトボム(Stro-nutbomb)」
魔王の目の前に見えたのは、気化金属の輝き。
(まさかっ、重水素化リチウムかっ? マズイ……っ!)
「『武器庫』っ!」
次の瞬間、中性子の激流が爆破と共に放たれる。
中性子爆弾。
これはそう呼ばれている兵器と同じ。
ラザベイ・ラボトリーではまだ実用化には至っていないが、広範囲の生物を殺し尽くす対人爆弾。
中性子と呼ばれる人体への影響が大きな放射線を使った殺戮兵器は、ある範囲内なら人間を確実に殺すことが出来ると言われている。
シュミレーションによる結果予想は次の通り。
半径130メートル以内 建物全倒壊、生物即死。
半径800メートル以内 ほぼ百パーセント人間即死。
半径1600メートル以内 死亡者と生存者とあり。
たとえ威力が4分の1でも、200メートル以内で即死する。そしてこの噴火口に張り出した土地はおよそ半径100メートルの円形。
避けきれない。避けられる訳が無い。
だから。
「アメジストっ!!」
“分解”を司るアメジスト、その紫紺の輝きが半径100メートルの空間を包んで煌めいた。
中性子が分解され、死の危険はなくなる。
誰もがこの爆発の対策に掛かりきりになったその瞬間。
やっと、魔王がその場を動く。
ワンからみれば突然魔王が現れたように見えただろう。意識が対策に向いて、誰も魔王の事を見ていない瞬間を狙って悠々と近づいた魔王は、ワンの腹に手掌を当てて一言。
「ウィー=コラプス(We-Collapse)」
崩壊。
一瞬でワンの体の大部分が崩壊した。
当てられた手掌を中心に膝から首までが虚空に消えるように消滅していく。
血が遅れてホースを全開にしたように流れた。だがまだ脳は壊れていない。脳に酸素は残っている。ならば、
「『構築』っ」
力無い声が錬式を紡ぐ。即座に再生したワンだが消えた血液は戻っても、流出した血液は戻らない。しばらくは血液不足で動けないだろう。
「何が起きているんだ……?」
シスは再び呟いた。
完全に一行を超越した強者がシスへと牙を向く。
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