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決戦の勇者 後編

 「『武器庫(アーセナル)』、『超光速粒子射出砲(タキオンランス)』」

 ここにおいて、シスが取り出したのはHSNCに酷似した星術銃。ラザベイ・ラボトリー脱走後に作ったこの星術銃は、HSNCと用法は同じ、しかし加速する必要はなく、弾種が異なるだけだ。それだけで、人としては成し遂げ得ぬはずの効力を発揮する。

 「『超光速粒子射出砲(タキオンランス)』、射出。」

 プラズマを魔力で弾いた場所から一歩も動かず、シスは引き金を引く。堂々と、もう恐れぬ物など無いと、主導権を握る絶対的覇者は自分だと宣言するように。

 「圧縮金属障壁、展開します。」

 トーはニュートリノさえ通さない圧縮金属の障壁を張って阻もうとする。

 だが。

 トーに人格改変を施していなかったら、または今のシスの言葉をラザベイが聞いていたら。

 両者は、驚愕で固まっていただろう。

 超光速粒子(タキオン)

 この超は超越の意味。つまりは、光速を超える(・・・)速度の粒子がタキオンだ。

 ちょっと待て、宇宙の最高速度は光速のはずだ、という人がいるかもしれない。

 だが、それは少し異なる。

 アルバートの提唱した相対性理論では、最低速度が光速より小さいものが光速になることを禁じている。だが、最低速度が光速より大きいものが光速異常になることを禁じてはいない。

 どれだけ遅くなっても、光速にしかならない粒子。

 それがタキオンなのだ。

 そして、同じ相対性理論上、光速を超えたものに起こる現象がある。



 時間の逆行(・・・・・)だ。



 逆行したタキオンは、陽子と衝突する確率が増幅された空間に入り、HSNCと同じように連鎖陽子崩壊を起こして全てを素粒子レベルに分解する。

 簡潔にまとめよう。

 『超光速粒子射出砲(タキオンランス)』は、過去の物体を分解する。

 射線上に何があろうと、今現在何をしようと、全てを無視して破壊する。


 結果。

 圧縮金属障壁が掻き消える。

 『不落城塞(インバラナルブル)』の障壁を射出する機構が『超光速粒子射出砲(タキオンランス)』に破壊され、発射された障壁は世界のエラーとなって消去されたのだ。

 人格改変されたトーは、プログラム通りにしか動くことは出来ない。

 避けることも防ぐことも出来ないという、想像の埒外の攻撃をされて、『不落城塞(インバラナルブル)』も陥落しようとしていた。




 ワンは、意識を切り替えた。

 フブを、捕獲する対象ではなく、自分が死力をとしても辿り着けるか分からない強大な敵と認識した。

 全てのポートを解放する。

 思考のリソースを戦闘のみに注ぎ込む。

 すぅぅぅぅ、と息を吸い込み、

 爆進。

 未だかすかに残る土埃の中、フブに向かって殺到する。

 自己加速魔法を使って加速する体、思考加速で追い付く意識。きちんと早さに追い縋って制御する行動で、フブに一撃加えようとする。

 対するフブは、向かってくるなら丁度良いとこちらも加速する。相対速度は足し算になり、攻撃威力は二倍以上。

 のはずが。

 「『障壁(シールド)』」

 ワンが起こした魔法によって、戦況が変化する。

 物理を堪える魔法障壁は、フブを止めるのではなく坂のような地面になって、ワンとフブの高度差を作り出す。

 戸惑ったように歩みを止めるフブの上空で螺旋を描くように駆け上がるワン。

 今までワンが錬式を使っていたのは、効率が良いからだ。

 だが効率を度外視すれば、魔法でも星術でも応用できる。

 空高くまで上昇したワンは、躊躇無く頭から飛び降り、

 「『開放(バースト)』」

 さらに初速を上げる。

 自由落下の速さ、則ち初速足すことの9.8掛ける時間。

 衝突エネルギー、則ち質量掛ける速さの二乗。

 星術に裏付けられた理論で、一人では出しきれない威力を乗せる。

 ワン。

 魔法併用星術併用錬式併用拳術併用剣術併用対多戦闘完成体。

 その真髄は、あらゆる手段を用いて確実に相手を噛み砕く、応用的手数の多さにある。

 

 あらゆる分野を束ねる応用の濁流が、フブを飲み込んだ。




 そして。

 残るはラザベイのみになる。





 「素晴らしいねェ、僕ののラボトリーの対反乱実験の産物をこうも打ち破るとはねェ?」

 ラザベイは自分の前に立つ一行を見て、そう言った。その態度からは余裕が滲み出ている。

 「それでもォ、僕に勝てるとでも思ってるのかいィ?」

 「ああ。」

 何を虚言を吐いているのかと、ハッタリをかましていると判断して、シスは無造作に攻撃を放つ。

 「『超光速粒子射出砲(タキオンランス)』、射出。」

 ラザベイは、得意そうな顔のまま死に絶える。そうでなければおかしいのに。

 「この世の事で僕に分からないことはないのさァ。タキオンを使う攻撃でもォ、それが全てを無効化して使える最強の矛にはならないのさァ。例えば、着弾時間より前から現在まで継続して張られている障壁は無効化貫通できないだろうゥ?」

 この短時間で『超光速粒子射出砲(タキオンランス)』の性質から対策法を暴き出し、それをしてのけた。

 「『開放(バースト)』」

 「『分解(リソルウ゛)』ゥ」

 さらにワンが、

 「『繊細織魔法(ミニュートウェーブ)』っ」

 「魔法なんかァ、魔力で押し流せば終わりだよォ」

 ナタージャが、

 『『超電導大磁力砲(マイスナーキヤノン)』、発射(ファイア)

 「今更物理攻撃かいィ? 『八重隔絶遊離オクタ・アイソレーション』」

 アチェリーが

 「ううーー、アチェリーもやるもんっ!」

 「属性付与の矢ねェ。発想としては面白いけれどォ、10世代はおそいねェ。」

 攻撃をするが、その尽くが防がれる。

 「そもそも、何故研究所がラザベイ(・・・・)・ラボトリーと呼ばれているんだいィ? 僕の研究が認められたからだァ。つまり、」

 ラザベイは、手も足も出ない一行をなめ回すように見回して。

 「つまり、研究所の基礎研究はすべて僕が行っていたのさァ。そこからどれだけ他の研究者が発展研究をしていてもォ、僕が理解できないところはないのさァ。」

 「でもっ、これなら通るはず! 『因果書換(フェイト:トランス)』」

 リーナが突然動いてラザベイの運命を書き換える。

 確かにラザベイ・ラボトリーが計画していたのは『半神霊化(シフト:デミゴッド)』。より上位の『神格化(シフト:ゴッド)』は想定外なのかもしれない。

 いや。

 ラザベイ・ラボトリーの報告書にはどうあったか?

 【だが神力を注ぎ込みすぎると存在が下等な高次的存在に近づく恐れがあり、注入する神力の量には繊細な調整が必要とされる。】

 「『主神の聖槍(グングニル)』ゥ」

 運命操作が、弾かれる。

 神格の神力が、効果を現さない。

 「たかが擬似神格の一匹がァ、とある神話では神々の王とされる真性神格の武器に勝てる訳がないねェ。」

 届かない。

 考えてみれば魔法も、星術も、錬式も、そして高次存在の領域も、すべてラザベイ・ラボトリーが発展させて来たのだ。

 そういう意味では、一行の中でラザベイ・ラボトリーの影響を受けていない者は、ほとんどいない。

 シス。    ラザベイ・ラボトリー産実験体。

 ワン。    ラザベイ・ラボトリー産実験体。

 リーナ。   ラザベイ・ラボトリー産実験体。

 ビトレイ。  ラザベイ・ラボトリー産武装。

 アチェリー。 ラザベイ・ラボトリー発展魔法。

 ナタージャ。 ラザベイ・ラボトリー発展魔法。

 サリア。   ……何も、影響を受けていない!

 一行は黙って後ろに下がり、サリアだけが一歩前に踏み込んだ。

 地鳴りがどこからか聞こえる。

 そんな中、静かに両手剣を中段に構えたサリアは静かに息を吐く。

 「さてさてェ、そちらのお嬢さんは何をしてくれるのかなぁ?」

 サリアは丹田に力を入れ、覚悟を決めた。敵は魔法と星術の元締、ラザベイ・ラボトリーのラザベイ。

 『正統剣術(リジテマシーリピアー)』。

 魔法を操る才能も無く、星術を扱うセンスも無い者達が、それでも魔法使いや星術師に勝ちたいと努力した、第二の革命。

 魔法に並びたいと願った星術に続く、それらに勝ちたいと(こいねが)う『正統剣術(リジテマシーリピアー)』。

 ドンッッ!!

 サリアは勢いよく踏み込んだ。

 「うんン? 近接戦闘系かねェ? 『障壁(シールド)』ォ」

 ラザベイが、魔法による物理障壁を張る。

 その事を予測していたサリアは、既に『障壁(シールド)』が張られる所を進路からずらしており。

 白刃が煌めいた。

 その想いは、成就する。





 「シス、やったわ!」

 「やった、のか。」

 「ああ、やった、らしい」

 サリアの報告、ワンの疑惑、シスの断定を経て、一行は歓声を爆発させた。

 「ぅよっしゃぁぁぁぁぁああっっ!」

 「き、キールー……」

 アチェリーを抱き上げて嬉しさを迸らせるワン。

 「シス、シス……!」

 「よし、ここまで来たっ!」

 「やっと、終わったわよリーナ!」

 「……お疲れ、シス……」

 感極まったのかシスに抱き着くリーナ、達成を噛み締めるシス、リーナに抱き着くナタージャ、急いで戻ってきたのかシスの横に立つビトレイ。

 一行は喜びを共有した。

 少し経って、リーナが顔を紅くして離れ、アチェリーも恥ずかしそうにする中、シスはラザベイに近づいた。

 「ガーネット」

 途中で魔法を封じる首輪と手枷を“生成”して、ラザベイに取り付ける。

 「ナタージャ、回復魔法を頼む」

 「え、どうして? ……まあ良いわ。」

 シスはラザベイの刀傷をナタージャに治させてから、ラザベイの頬を叩いた。

 「起きろ。」

 「シスっ! 何をするつもりなの!?」

 ナタージャが大きな声を上げるが、シスは短く言葉を発して取り合わなかった。

 「まだ訊くべきことがある。」

 




 地鳴りがどこからか聞こえる。

 目を醒ましたラザベイに、シスは一つの疑問を突き付けた。

 「何故未開拓領域で魔物の強化繁殖を行っていた? Project『Braver』の完成度を計るために強い魔物が欲しかったのか?」

 「……そういえば」

 その質問を聞いて、一行は納得した。

 未開拓領域の施設は、魔物には作れるはずがない。そして魔王が倒されているなら、ここにいたラザベイが最も怪しい。

 はたして、ラザベイの答えは。




 「なんだそれはァ? 僕は未開拓領域には行ってないよゥ?」

 




 一行に衝撃が走った。

 「じゃ、じゃあ、あれは誰が作ったんだ?」

 ワンが呟いた。

 「え?」

 誰かが呆然と声を漏らした。

 「まさか……」

 シスが言った。

 「まさか、魔王は討伐されたふりをしただけで、まだ生きているのか……? 生きて、T種やC種を作っていたのか……?」

 ドォォォォォンッッ!

 と地面が揺れた。

 何故だ。ここはもう死火山。噴火することは無いはずなのに。

 「なにが……!」

 リーナが叫ぶ中も立っていられない振動は続き。

 数十秒後に一瞬止まり。

 続いて、地中から巨大な影が飛び出した。

 その姿は、伝承に伝えられた通り。

 



 愚かな人類を騙して、魔王が姿を現した。

読んで頂いてありがとうございます!

次回も頑張って更新するのでよろしくお願いします!

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