決戦の勇者 中編
一行の切り札が最初から炸裂する。
「『神格化』」
「セルフ・ハンディ・キャッピング。……勝つぞ」
「『正統剣術』、行きます」
「『繊細織魔法』、……」
「キールー、いっくよー!!」
『2048式『デストロイヤー』、起動』
次々に聞こえる仲間が本気を出す宣言が聞こえる中、シスも切り札を切る。
「『宝石配置』」
七人の切り札に対して、三人は何も感じ無いようだった。
ラザベイを除いた二人が無造作に迎撃する。
「迎撃して捕獲してねェ。トーは私の護衛中心ねェ?」
「命令受諾。命令を開始します。」
「『不落城塞』。稼動出力上昇します。」
魔王は既に倒された。後は人類を脅かすラザベイ・ラボトリーだけだ。
勇者の最後の決戦が始まる。
「『因果書換』」
始めにリーナが一行の攻撃が当たりやすく、相手の攻撃が当たりにくくなるように因果を書き換える。
今持っている全ての神力を篭めた『因果書換』は、火口に突き出す半径100メートルの空間を全て覆い尽くす。
その言葉と入れ代わるように飛び出したシスは、しかし僅かな間逡巡した。
トーとフブ、どちらと戦えば良いか迷ったのだ。
ラザベイを殺すためには、どちらも倒す必要がある。
単純に考えれば、シスは相性の悪いフブと戦わない方が良い。
だが他の一行もほぼ、分類としては後手超越火力だ。全員が相性悪いのなら、その中で最も強い自分が行くべきなのかとシスは一瞬考えた。考えてしまった。
その一瞬が命取りになると、身をもって学んでいたはずなのに。
ドガガガガッッ!!
再び致死の拳撃が炸裂した。
思考で生まれた行動の空隙に滑り込むように、超高速で間合を詰めたフブは、シスの天敵としての拳を放つ。
「ちぃっっ!」
だが。
その攻撃はシスには届かなかった。
「おおおおおおおおッッ!!」
ワンが咄嗟にシスを突き飛ばし、その拳を全てその体に受けたからだ。
覚悟を決めたワンはその激痛を叫んで耐え、そして
「『構築』っ!」
そう呟いて致死に達する傷を癒す。
「アチェリーっっ!」
その声が響いた否や、ワンの首筋をかするように、フブの死角となるワン後方から炎と氷に包まれた矢が二本、フブへと殺到する。
「シスっ、お前はトーを頼むっ!」
その役割分担は、ラザベイ・ラボトリーでシスとフブが仲良くしていた事に対する配慮なのか。
キンっ、とその矢を弾いたフブに再び応戦し始めるワン
分類上は後手超越火力だが、Project『WC』の完成実験体であるワンなら、このタイプの敵と戦うことも想定されているはずだ。そう考えればシスよりマシに戦えるはずだ、とシスは考えてワンの言う通りトーの元へ向かう。
「おいフブ、起きろよ。って起きる訳ないか。」
ワンは少しふざけた口調でフブに話し掛ける。
Project『Kronos』は、先手最低火力を追究した研究、つまりは長期戦で扱うことは想定されていない。研究者がプログラムした理論上最も効率よく敵を倒すルーチンも、長期戦のデータが少な過ぎて誤差修正ができていない。初手で仕留められなかった以上、再び仕切り直す機会を与えないかぎり、遅れを取ることはない。だが有利になることもできなさそうだった。
「だがフブの人格形成はトーのものとは少し異なりそうだな。」
少しずつ変わって行く攻撃パターンに対応しながらワンはフブの人格形成について解析を続けて行く。
(自分の意思でラザベイに従ったエトとナン、サン辺りならともかく、無理矢理従わされているのは見過ごせないよなあ)
そもそも、フブはラザベイ・ラボトリーの権威を地に落とすための足掛かりとするためにシスを逃がすことに尽力していた。元来は反ラザベイ・ラボトリー勢力側と言って良いだろう。
それならば助けることに是非はない、とワンはフブを助ける方法を模索していた。
だが。
Project『Kronos』はそこまで甘くはなかった。
そもそも、ラザベイ・ラボトリーは魔法と星術を融合させて新しいものを作る研究所だ。フブの超速度は体術によるものなので、星術も魔法も関係ない。身体機能の底上げに星術が使われているとしても魔法は使われていない。
ラザベイ・ラボトリーは目的のためならどんな事も厭わない。魔法を使わないなんて事をするわけが無いとワンはきちんと理解をしていたはずなのに。
「戦況が膠着しました。強制離脱を行います。」
攻撃パターンが大体分かったと安心したワンへ、フブの魔法攻撃が突き刺さる。
自己加速魔法。
過去キールと名乗っていた頃に使っていたのとは、比べものにならない増幅率の魔法で円を描くように拳を振り抜く。
「く、そっ!」
拳はワンの体を軽々と吹き飛ばし、そのまま突き進んで地面と激突する。
たかが拳が衝突しただけで、もうもうと上がる砂埃。その中に痛む胸を堪えて着地したワンは、自らの失敗に気付いた。
「命令を再開します。」
フブに、仕切り直しの機会を与えてしまったのだ。
「しまっ……」
後悔の言葉を放つ前に、致死の攻撃がワンに迫る。
シスがラザベイに向かって走ると、トーは予想通りその軌道に割り込むように移動した。
「『不落城塞』、準備…完了」
異形の装備が少女の周り半径10メートル弱にわたって展開される。
もう疑うことはない。2番が操る『不落城塞』は。
Project『Wepons』の傑作だ。
ナンが持っていた錬式銃が錬式を組み込んだ『2048式全銃統合砲』の後継機というならば、『不落城塞』はチューンアップ機だ。新しい技術を投入するのではなく、現在搭載されている兵装の強化更新を行った形。錬式銃が侵攻に特化しているのものとするならば、『不落城塞』は防御に特化したものなのだ。
「『武器庫』、HSNCスイッチオン」
全てを灰燼に還す攻撃。防ぐには自らに掛かる魔法を抵抗する魔法耐性を上げるしか無いが、そんなことをしたら魔法銃が魔法を使えなくなる。そんなものはないと判断して。
「ビトレイ」
『『86式四連収束爆撃砲』、……発射』
その上で、念を押すようにビトレイに砲撃を命じる。
亜光速で迫る極小の分解弾と、逃げ場の無い面を埋める一撃。
その二種の攻撃を。
「圧縮金属障壁、展開します。」
たった一つの方法で、防御しきる。
物質は、凄まじい圧力下では密度さえ変わる。例えば星の内核では、350万気圧という圧力で、通常密度7.86の鉄が密度15~17、つまりは二倍以上に跳ね上がる。その超硬物質で『86式四連収束爆撃砲』の子弾を守りきり、通常の二倍の密度でニュートリノの到達を阻む。
代償として消え去る圧縮金属障壁だが、トー本体にダメージは全くない。
どころか。
「『熱電離気体収束砲』、発射します。」
たかがプラズマカノンと侮ってはいけない。マルチファイラーのチューンアップ機である『不落要塞』のそれは、威力も初速も大幅に強化されているはずだ。
人間の動体視力を超えて迫る水素プラズマの槍はシスに向かって迫る。
(まずい、瞬殺だな……)
シスは思う。
(くそ、油断した……)
ワンは思う。
そして、二人は勝つための策を探す。
「『滅魔帝』」
「セルフ・ハンディ・キャッピング。……生き抜くぞ。」
現実に干渉するほど強く、濃い魔力がシスから放出され、プラズマ流が分断された。
ワンがまっすぐに延ばした拳が、フブの顔に突き刺さった。
「リーナのために……」
「アチェリーのために……」
「お前達は、倒すっっ!」
絶対的な力を持つ敵への逆襲の時間が始まる。
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