ネットダイアリ-6- コンピ研イベント -2-
対戦が始まり、戸村を中心にほぼ扇型に敵陣に進む。ゲーム内容は、障害となるモンスターを倒しながら、経験値を重ね、武器を高性能化し、敵陣を潰すという単純な勝敗ゲームなのだ。同じ時間、何もしないでも経験値は上がるが、もちろんのことながら、モンスターを数多く倒したほうが経験値の上がり方が早い。それ以上に、対戦相手を倒すほうが経験値は上がる。
対戦相手を倒すことにはほかのメリットがある。第一に、相手をスタート地点に強制的に戻すことである。要するに復活ポイントがスタート地点になっているので、それまでに進んできたことが無駄になる仕組みだ。まるまる無駄になるわけではないが、チームとしての損害は大きい。第二に、復活するまでに時間がかかることだ。ゲームの進み具合や自分のキャラの経験値に比例して復活までの時間が延びる。当然、この復活までの時間は、一人倒れれば、5対4と一方の形勢が不利になる。
戸村の戦法は、まさにこの点をつくことにあった。相手の中で一番倒しやすいキャラを見つけ、一番先に倒す。次に、一番うまいと思われるキャラを複数で倒すというような感じだ。人数で優勢になったときに、頭を潰す、的な戦法である。単純そうに見えて、そんなに単純ではない。相手だって警戒しつつ、こちらを叩いてくるのだから、こちらの人数が不利な状況は避けたいのだ。つまり、戸村の戦法では、自分たちは倒れてはいけないということだ。やられそうになったら逃げろ、である。
陣形は、扇形とはいっても、戸村を真ん中に、前方に佐藤、左に昴、右に有坂、江原は、戸村と佐藤の間という感じである。まあ、昴と有坂はおとりのようなものである。相手の動きや相手の陣形を確認しつつ、戸村の指示で仕掛ける。そのため、戸村は、ほぼ真ん中にいる。
対戦は、佐藤のところで始まっていた。
「先頭は、あとだな。佐藤に任せておこう」
戸村は、大きめの声でつぶやく。
コンピ研の面々は、戸村のつぶやきすら聞き逃すまいと五感を集中させる。まあ、味覚と嗅覚は関係ないので三感なのだろうが、緊張で乾くのどと、戦闘の擬似的な匂いが感じられるような気もする対戦である。
5分を経過したぐらいから、戸村が動いた。
「昴、ここに誘い込め」
「はい」
戸村の指示する位置を確認し、昴は、今の対戦相手に対し攻勢に出た。昴は、わざと自分のヒットポイントを少し削らせ、相手を誘い込む。
戸村は、相手に気がつかせないように昴との合流地点に向う。
「相手を落としたら、江原のところで回復だぞ」
「了解」
まあ、いつものパターンである。江原の位置づけは、リアルと同じでサポート役である。
スタート6分もしないうちに、1人目を倒した。
「有坂、押せ」
「はい」
「昴は、俺のバックアップ」
「はい」
どうも、有坂の相手を潰しに行くようだ。その間、佐藤と江原は、3人を相手に、引きながら対戦していた。普通なら、3対2で押してくるのだろうが、昴が江原の回復を受けるときに、少し応戦したので、相手はしり込みしているようだった。戸村からの直接の指示ではないけれど、いつも、こうするように言われていた行動をしたまでだ。
7分経過すると同時に、2人目を倒した。
「次は、引き込むぞ」
戸村の次の指示だ。主に補給する時間を稼ぐことでもある。また、引き気味に攻撃しつつ、相手が飛び込んできたら、倒すというような作戦だ。
この時間は、佐藤と江原の補給がメインとなる。その間、戸村、有坂、昴とで相手3名と対峙する。戸村は、隙があれば、一人くらい倒す心積もりであろう。でも、口にしない。
「補給終了」
江原が言った。
「今のうち、3人倒すぞ」
戸村は言った。
「え?」
声は出なかったが、一瞬、戸村の方を見てしまった。その瞬間、相手3人の餌食となってしまった。
「おし、チャンス。有坂サポート」
戸村は、ここぞとばかりに、連続して相手3人を倒した。有坂のサポートがあってだが、まさに神業であった。
15分過ぎくらいには、相手陣地のほぼ中央まで達していた。最初の5人を倒したことでほとんど勝負がついていたものの、最後まで試合をするのが礼儀だろう。
もう相手は、戸村を倒すことしか勝ち目はない。戸村も十分戦況を見極めているが、先頭に立って正面から相手を倒しまくった。
第1回戦が終了した。時間は、17分42秒だった。
「5秒短縮!!!」
戸村は上機嫌だ。
「戸村さん、相手に聞こえたらたいへんだよ」
昴が戸村に向って言った。
「いや、画面見えてるからばれてるだろ」
知っていてやっているんかい。
「・・・・」
お互いの音が聞こえるようにして。
「お疲れ様です」
戸村から、更科高専に挨拶。
「さすが戸村さんですね。完敗です」
「10分休憩ということで。音声は開放しときます?」
「本当なら、リアルで交流したいんですけど、音声を開放しておいてもらえます?」
「了解。俺はちょっと、飲みもん買ってくるから。おまえらなにかいるか」
戸村は、照れているのだろう。もしくは、自慢めいた言葉になる自分を知ってか、ネットを介しての交流を避けたのだろう。
こんなときは、江原が表に立って、いろいろと話をする。
10分という休憩は、短い。お互い話したいことを残したまま、次の試合となった。
戸村は、休憩の半分以上教室から離れ、ぎりぎりになってみんなに飲み物を配った。
「戸村さんって、面倒見がいいんですね」
相手校が誤解していた。
「じゃ、第2試合と行こうか」
戸村の掛け声とともに、第2試合が始まった




