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ネットダイアリ-43-  新たな問題 -4-

 おっちゃんに見送られ、グランソフトを出て行くと、路地裏入り口で亮が待っていた。

「昴、なにから話してもらおうか」

「もう遅いからいいよ」

「いや、それって、俺が断るセリフだから」

「・・・」

「まずは、一番興味ある女の子の件から」

「わかった。どこか、ファミレスみたいなところに行かないか」


 近くのファミレスに入って亮は、

「それで?」

「まず、グランソフトで起きた事件のことを話すよ」

 ネットダイアリのことは伏せて、グランソフトがサイバー攻撃を受けたことを説明した。もちろん、ロシアや中国といった、今は荒唐無稽に感じることも含めて。

「なんかすごいことになっていたんだ。そりゃ昴一人ではたいへんだったと思うよ」

「次に、グランソフトについてなんだけど」

「まだ、女の子のこと話さないの?」

「話すから、待って」

「わかった」

 亮はわくわくしている。

「グランソフトなのか、あの井出さんなのかわからないけど、GNAのカミン権限を持っているらしい。確認したわけじゃないけどね」

「カミンか」

「カミンは、マップを作ったり、モンスターを作ったりするでしょ。そのためには、原画を作る人が必要なわけだ」

「昴は絵下手だろ」

「うん」

 ここは普通の会話なら突込みを入れるところだが昴は続けた。

「最初、グランソフトに行ったとき、井出さんに絵がうまくないといわれて、恐らくイラストを書けるような人を探していたんだと思う」

「それが女の子か」

「そう、今日も僕たちの後ろに座っていたでしょ」

「女性は、2~3人いたと思うけど」

 亮はよく見ている。

「その中に、井出さんの部下じゃない女性がいるんだ」

「え、ほかの人って、井出さんの部下なの。すげぇ」

「井出さんは、謎の人なんだけど、僕の知っている女性は、アルバイトとしてグランソフトで働いている高校の先輩なんだよ」

「それが、昴の・・・」

「違うって」

 少し昴は赤くなる。

「その女性がうちの高校にいるって知って、時々、見回していたんだ」

「やっぱ気になるんじゃん」

「当たり前だよ。僕もグランソフトで働いている人だよ。気になるでしょ」

「そうしておくよ」

 亮は明らかにからかっていた。

「いや、だから、その女性がいるか見ていたんだよ」

「あ、それでこの前の休みにいなくなったんだ」

「違う、違う」

 もちろん、昴が二人いる件は、伝えないまま、

「サイバー攻撃の原因が、僕かその女性か、ということになっているんだ」

「昴じゃないよな」

「そうだと思うんだけど・・・」

「なにそれ?」

「二重人格ってあるじゃない。そんなこともあるかもと思ってね」

「二人目の昴がいるってことか」

 実際そうなんだが、本当に二人いるとは言えない。

「小説でよくあるような話なんだけどね。自分でそうでないということが証明できなくて」

 一応、亮にはそういう風に言っておこう。

「でも、ほとんど、俺と一緒じゃん。考えすぎじゃね」

「まあね」


「それで本題。その女性って昴とどうゆう関係」

「いや、だから、同じ高校のアルバイトだって」

「名前聞いてない」

「そうだったかな」

「名前隠している」

「違うよ。名前はね、早乙女 美柑」

「へぇ」


「亮さ。今度からグランソフトに行くときには僕も一緒に連れてって」

「なんだそれ」

「さっきのサイバー攻撃。井出さんが、亮と一緒にグランソフトに来るようにって」

「その早乙女さんっていうのはいいの?」

「・・・いいみたい」

「あまり詮索しないほうがいいのかな・・・」

 あとは、GNAの話を少しして家に帰った。


 昴は、恐る恐るパソコンを点けた。おっちゃんには聞き忘れたが、一応、画像収集アプリを走らせる。昴は注意深く一つ一つの画像を見ていく。

「今日は特に変わった画像はなさそうだ」

 すでに開いているネットダイアリも確認する。

「武装ゴブリンのデータはそのままだが、それ以外ここにも変化ない」

 安心して、GNAを立ち上げるが、すでに夜中を過ぎていたので、挨拶をしてすぐに終わらせた。



 数日何も事件がなく、亮と一緒にグランソフトに通う毎日が続いた。その間、昴は美柑さんとの会話はあまりない。ネットダイアリや画像収集アプリにも変化はない。

「バル君いいかな」

 亮とGNAで遊んでいたところ、エレベータでおっちゃんが昴を呼んでいた。

「はい」

 恐らく、二人目の昴についての話だと思った。

 エレベータの中でおっちゃんは、

「君は、本物のバル君みたいだね」

「ナノマシンってなんですか」

 今まで、腹の底に貯めていた言葉をやっと発することが出来た。


 エレベータを降りて、3階のコンピュータ室に向かい、おっちゃんは、パソコンを点けた。

「ナノマシン。あ~、あれは嘘だ」

「・・・」

 どこまで信じていいかわからない。

「あの時、君に打ったのは、人間の目には見えないスタンプでしかない」

「・・・」

 昴は唖然としてしまった

「よく、テレビのリモコンのボタンを押したとき、リモコンをカメラで写すと赤く光るだろ」

 そんなことやったことない。

「あれと同じように、人間の目では見えないスタンプを押しただけだ」

「ナノマシンってなんですか」

「いや、だから、スタンプだよ」

「そうじゃなくて、なんでナノマシンって言ったんですか」

「スタンプだ、と言うと、普通、必死になってそこを洗い落とそうとするでしょ」

「・・・」

 疑われていたのである。

 冗談でナノマシンって言った、と言ってもらったほうがどれだけ気が楽だったのか・・・

「その結果、偽者を発見できたね」

「いたんですか?」

「いたよ。学校には、ほとんど出てこなかったけど、美柑ちゃんと会っているな」

 それは、自分が二人いるという意味とは別の意味でもまずいと昴は思いつつ

「どこで、なにをしているんですか」

 と引きつった声でおっちゃんに聞いた。

「ありきたりだが、ちょっと外れたところのファミレスだ。2回ほどあっているな」

「2回ですか」

「2回とも、昴君が呼び出したような感じがする」

 考えてみれば、美柑さんとは、携帯の連絡先の交換はしたことがないはずだった。

「盗聴をしてもいいと思ったんだが、ツェットから止められてね。ツェットの言うとおり、そこまでするようなことではないということになってね」

 画像を閲覧するだけでも十分問題ある、と昴は思っているのだが、

「問題は、受け渡しているメモリーチップのほうだね」

「メモリーチップを偽者の僕が受け取っているのですか?」

「いや、逆だよ。偽者のバル君がメモリーチップを渡している。あれにはなにが入っているんだろうね」

 おっちゃんが画面に向かって指を指している。

 確かに、美柑さんと昴が写っていて、昴がメモリーチップを美柑さんに渡していた。

「そんなことで、美柑ちゃんには、メモリーチップの持ち込みは禁止と伝えたところ、あっさり承諾してくれたよ」

「美柑さんは、スパイじゃないということですか?」

 やはり、あの美柑さんはスパイじゃない。

「まだ、疑いが晴れたわけじゃないけど、かなり、可能性は薄いだろう。問題は、一番最初のメモリーチップだ」

「まさか、偽者の僕が渡したというの」

「それはないだろう。初めて美柑ちゃんに会ったとき、君の事知らなかったみたいじゃないか。そもそも、美甘ちゃんを採用したのは私だからな」

「でも、ここがGNAの仕事していると知っていれば、初めてのふりをするんじゃないですか」

「それも考えたが、それ以外の行動から見て、バル君と初めて会ったのは、ここだと思うよ」

 確かに、演技していたとしてもあんなにうまくは演技できないとは思った。

「そうですね」

「で、本題は、偽者のバル君なんだが」

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