ネットダイアリ-34-
美柑さんは携帯をだし、電話する。エレベータが開いて、二人で入る。
美柑さんは、昴の手を引いたままだった。
3階に行くと、いつもどおり誰もいない。
また、エレベータが開いた。美柑さんが地下に行く操作をしたのだろう。
「美柑さんなんか張り切ってます?」
「うんうん。新しいモンスター書いたから」と言って、メモリーカードを昴に見せる。
「今度なんですか」
エレベータに入りながら、
美柑さんは、人差し指をあげて、「ヒ・ミ・ツ」のポーズ。
メガネ女子に美人が多いのかな、といろんなゲームを想像しながら、地下作戦室(仮)に入った。
「お、青春しているのかな」
おっちゃんがからかう。
対して美柑さんは
「いいでしょ~~」と返す。
頭を叩きながら、おっちゃんは苦笑い。
「来てもらったのに悪いんだが、ちょっとトラブルがあってな」
言われてみれば、従業員があわただしい。
「情けないことに、サイバー攻撃を受けた」
「サイバー攻撃って、本物の怪獣がいるんですか」美柑さんは、ボケたわけでなく、本当にタイガーの怪物をイメージしていたのだろう。
美柑さんのボケをスルーして、昴は
「ハッキングですか」とおっちゃんに聞いた。
「それはない。いわゆる、DDoS攻撃だよ」
「それって、ここにサーバがあるってことですか」
「まあ、これだけの設備を見ればわかる通り」
グランソフトは、サーバも持っていたんだと昴は感心していた。
何のことかさっぱりわからない美柑さんは、昴の上着をつまんで引っ張り、耳元で
「あとで教えて」と言った。
亮ならうまく美柑さんの喜ぶような褒め言葉を返すのだろうと、一瞬、美柑さんの匂いに浸った。
「立て込んでいるので、今日はお休みということで」
「アルバイト代は出るからね」
美柑さんは不服そうな顔をした。
「あっそうか。新しいモンスターのことかな」と昴は思い、
おっちゃんに
「3階のパソコン使って大丈夫ですか」
「GNAの設定はないぞ」
「いえ、美柑さんが描いてきたイラストを見ようと思って」
「ネットに接続しない分大丈夫だ。念のために、ネット回線外しておいてくれ」
「わかりました」
3階に行く途中のエレベータの中で
「昴くんアリガト」
「不満そうでしたから」
「これで、3階で二人になるんだ」
意味深な言葉が美柑さんから漏れた。
動揺を隠しながら、
「また、からかうんだから」と返した。
「うんうん、その感じもいい」
3階に着き、反対側のドアを開ける。
「こんなところにもパソコンあるんだ」
「普通の作業は、ここでやるみたいですよ」
「へぇ、知らなかった」
「じゃあ、準備します」
「あ、昴君、こっち、こっち」
窓際のパソコンに行く美柑さん。
「ここからなら、もうすぐ夕日が見れそう」
「わかりました。このパソコンですね」
「やっぱ、男の子だね」
「なにが」と声を出さずに昴は美柑さんのほうを見る。美柑さんは、上から昴を覗いていた。
「機械いじりが好きな男の子。憧れるな」
また、からかいなのか。まさか、本気。動揺する昴だが、作業をするのに集中し
「設定終わりましたので、電源いれていいですよ」
「は~い」と可愛く手を挙げ、電源を入れた。
「あとはわかりますか」一応声をかけたが、黙々と作業をする美柑さんだった。
しばらくして、画面に、リスのイラストが現れた。リスとはいっても、牙を生やしたリスであった。
「名前は、危険なリスだから、リスキー・・・・・おやじギャグだね」
自分で言って、自分で笑っている美柑さん。
「あ、昴君、呆れてもの言えないんでしょ」
「いえ、いいイラストだと思ってますよ」
「名前をバカにしたな」
「それは、美柑さんがおやじギャグなんていうから」
「うんうん、その困った顔もいいかな」
やはり、もてあそばれているんだ。
「そうそうさっきのサイガーが攻撃してくるってなに?」
あまり突っ込まずに昴は説明する。
サーバは、パソコンと同じものだと考えていいが、パソコンなどからの要求に対して、その要求に答える専用のパソコンという感じだ。
サイバー攻撃とは、パソコンや携帯端末などに対し、インターネットなどの回線を通じて、破壊活動やデータを盗むなどをすることであり、おっちゃんの言っていたDDoS攻撃というのは、サーバへの要求命令を、そのサーバの処理能力を超えて要求命令を出す攻撃のことを言う。
今回の場合、恐らく、グランソフトにあるサーバに対して、何らかの要求命令が、いろんなところから来て、サーバが処理しきれなくて、止まった形だろう。
大地震が起きた時に、みんなが一斉に電話かけるとつながらなくなるという現象と思えばいい。
そんな説明を美柑さんにした。
美柑さんは、パチパチパチと可愛く拍手して、
「やっぱり、男の子ってすごい」
「たぶん、普通の高校生は、詳しく知りませんよ」
自慢げに言ったわけではないが、
「昴君、えら~い」
「あ、見て見て、街が夕日に照らされて綺麗」
美柑さんの指差す方向を見て、現実世界の平和を感じる昴だった。




