ネットダイアリ-32-
おっちゃんが携帯をポケットにしまい、昴のほうを向いて、
「恐らく、パソコンを点けたときに、データが飛んできたんだろうな」
いつもどおり、電源の元は切っているので、おっちゃんの言う方法が一番可能性として高い。
「バル君は、確か、一人っ子だったよね」
「はい」
「ご両親がパソコンを点けることはあるのかな」
「いえ、うちでは僕だけですね」
昴の家族構成までこの人は知っている。
「攻撃型か」
おっちゃんは、あごに手を当てた。
特定のパソコンを狙った攻撃型のプログラムなのだろう。
しかし、昴が作った暗号化をあっさり破ってくるなんて
「暗号が破れましたね」
「恐らく、違うだろう」
「何でですか。井出さんが今言ってたとおり、パソコンの電源を点けたときなのでしょ」
「確かに、データが送り込まれたのは、パソコンを点けた時だと思うが、ネットダイアリにデータが載せられたのは、バル君がネットダイアリを開いた後だと思おう」
なるほど、それなら、暗号化しても意味がないわけだ。
「通常のハッキングは、相手の情報を盗み、使うことを想定するけど、このやり口は、単純にメールが送られてきたようなものだから厄介だ」
おっちゃんは言った。
「じゃあ、僕のネットダイアリは見られてないということ」
声に出してみたものの、よく考えれば、それはなかった。昴のパソコンにネットダイアリの存在そのものを知っているはずだからである。
おっちゃんは
「それないな。だって相手は、ネットダイアリの存在知ってるんだろ」
「そうですね」
一応、自分も気がついたが、同意したように答えた。
「武装ゴブリンを載せた理由は何だろう。脅し?何の脅しだ」
「やはり、GNAをするなという警告じゃないですか」
「確かに考えられるが、なぜバル君をターゲットにするかが理解できない」
確かにそうである。あれだけのパソコンに関する技術を持っているなら、GNAのギルドマスター候補を狙えばいいのに。
「まだ、おうちには帰らないで、ここでモンスターをやっててくれ。確か、パソコンでは、モンスターやってなかったよね」
「はい、モンスターは、携帯とここからだけです」
また、エレベータで地下に戻ると
美柑さんがやってきて
「なにかあったの?」
まだ言わないほうがいいんだろうな。
「ちょっと、プレイの仕方について相談してたので」
最近、ごまかすことが多くなった。
「ここじゃいえないようなことなんだ」
また、小悪魔目つきで見上げる美柑さん。
「違いますよ。たぶん、グラウンドやモンスターを作る人には、プレイヤーのことを聞かせたくなかったんだろうと思います」
「なるほどね」
納得してもらえるような、回答が出来てほっとした。
「昴君、さっきのパン、昴君の要望どおり怖くしてみたんだけど、見てみて」
線画でなく、色がついた強そうなパンがいた。
「これはいいですね」
「ありがとう!」
美柑さんのありがとうが可愛い。
「どうやって動くんだろう」
「井出さんの話だと、イラストを登録すると自動的に立体化されて、それを微調整するんだって」
「へぇ~」
「動くところまで、見たいな」
また、美柑さんは画面に向って細かい部分を描きはじめた。
昴は、まだ空いていた美柑さんのとなりの席にすわり、モンスター育成を始めた。ここへ来てからは、モンスターばかりで遊んでいたため、ウルフが育ち、ウルフソルジャーに進化していた。ウルフソルジャーになり、「救援」の機能が使えるようになった。使い方は、体力が60%以下になったときに使えるスキルで、遠くにいるウルフも呼び出すことが出来るスキルである。
「武装ゴブリンは、単純に武装をしているだけだから、特に、大量のゴブリンが襲ってくるわけじゃないだろう」
昴はそう思いつつ、例の北側地域に入っていた。
「バル君」
後ろで、おっちゃんが声をかけて、手招きしてた。
昴は、仕方がなく、ウルフソルジャーを放置し、おっちゃんについていった。
考えてみれば、このおっちゃんの格好を見て、美柑さんはどう思ったんだろう。
そんなことを考えながら、エレベータで3階に上がっていった。
「予想どおり、外からデータが送られているらしいのだが・・・・」
「何ですか」
「一応事実だけ伝えよう。データは、ロシアが発信元なんだ」
「ロ・シ・ア・?」
昴には、何のことだかわからなかった。いや、わかるのだが、なんでそうなるのかがわからなかったのである。
「調べては見るものの、発信元が発信元だけに、下手に手を出せない」
昴は少し正気に戻り、考えた。
「あの、もしかすると、日本のどこかからかロシアを経由させて、データを送っているんじゃないですか」
「ああ、それでも、こっちから探るには、入り口のロシアから探らないといけないから、ほぼ無理な話なんだよ」
「遮断したらどうです」
「それは、攻撃するのと同じだよ。例えば、GNAからバル君が遮断されれば、運営に抗議するだろう。それと同じだよ」
「やっぱり、ネットダイアリを隔離したほうがいいですか」
「いや、何かしらのメッセージだと思うんでそのままにしておこう」
「バル君には気味が悪いと思うけど、悪いがネットダイアリはそのままにしておいて、何も書き込まないでほっておこう」
「バル君のパソコンは、常時、監視体制にしておくから」
一応、今までも常時監視体制ではなかったのかと思う昴だったが、
「わかりました」
と言っただけで、何が起きているのか理解できない昴だった。
昴の携帯が鳴り、メールを受信した。
ツェットからである。
プロットから少しずつずれてきた。ここから、元の軌道に戻すには、また、お話を作らないと
この連続です。




