ネットダイアリ-31-
早乙女美柑さんが何をやっている人か。その正体は。
「どう、昴君のときと違う?」
「出てくる画面が違うだけで、ログインは同じです」
昴は画面を見ながら
「ネットで見たことあるけど、普通のお絵かきセットですね」
美柑さんは指を左右に、ち、ち、ち、といいながら
「うちで使っているソフトと同じものを入れてあるのだよ」
「へぇ」
「だって、はじめから、新しいソフトを使うことなんて出来ないじゃん」
画面に目を向け
「同じソフトじゃないと自分のデータ開けないでしょ」
「たぶん、大丈夫」
「そうなの?」
「これ、A社のソフトでしょ。一番売れているやつだから、だいたいどのソフトでも読み込めると思うよ」
「レイヤーなんかも」
「レイヤーって何ですか」
「あら?」
専門分野が違うと同じパソコンでもこんなに使い方が食い違うものだと二人は思ったのだ。
「じゃあ、私の作品見せようか」
「はい」
画面に映し出されたのは、一面森の風景に太陽が2つ。S字の道と森の木々に集落があった。
「きれいですね」
昴は、バルが狩りをする姿を想像しながら、美柑さんのイラストを眺めていた。
「プレイする人から見てどうかな」
「楽しそうですね。ただし、モンスターが変なのじゃなければ」
「うん。それそれ」
突然、美柑さんが迫ってくる。
「あ、これが女性の匂いか」と昴は、大きくは吸い込まないように、息を殺した。
「可愛いモンスターを書いたら、井出さんは、もっと怖いのにしてって言ったのよ。この森に、怖いのは合わないと思うんだよね」
美柑さんの美的センスはわからないでもないが、グラウンドを作る以上、モンスターがいないとね。
「定番は、森だとパンとか」
「なるほどね」美柑さんは席に着き、線画をさらさらと描き始めた。さすがにうまい。
「大まかだけど、こんな感じかな」
さすが、イラストを描きなれている。すぐにパンが現れた。
「すごい。そんな感じです」
「そう?」
振り向くとまた、いい匂いがする。
間を空けてしまった昴。
「え、ええ」
「なにか気に入らないわけだ」
昴の作ったちょっとの間が気に入らなかったのか、美柑さんが顔を寄せてきた。
「あ、もう少し怖くてもいいかな」
ごまかした。
「井出さんと同じこと言う」
昴は、美柑さんの描いたパンの筋肉をたくましくすればいい、ぐらいだろうとは思っていたが、すぐに言葉が出来なかった。
「ごめんなさい。悪いという意味じゃなくてね。倒したいって気分にならないのかな」
「ふ~ん」
「倒すのがもったいないって感じかな」
少し、ご機嫌を取ったつもりだった。
「あ~、なるほどね」
「ドラゴンを書く感じかな」
「わかりません」
口には出さない昴だが。
また、美柑さんは振り返って
「ほら、人が乗るドラゴンと人を襲うドラゴンがいるでしょ。あんな感じ」
「絵が下手な僕には、わからない」
クスクスクスと笑う美柑さん。
「下手は言わなくてもいいのに。まあ、いいわ。なんとなくわかったから」
仕事モードに切り替わったらしい。画面を見ながらペンで書いていく。
昴は、美柑さんの作業を少し見た後、自分の席で認証した。
あ、そういえば、おっちゃんに武装ゴブリンのこと聞かないと。
ネットダイアリのことをすっかり忘れていた。
昴は、あたりを見回し、おっちゃんを探した。
エレベータが開き、ちょうど、おっちゃんが出てきた。
「井出さん」
手を振って、声を上げていた。
「ここの社長に、手で指図するとは、出世したな」
「あ、すみません」
となりで、美柑さんが例のごとく笑っていた。
「冗談だよ。バル君は真面目だな」
「・・・」
「それで、なんだ」
「ネットダイアリのことで・・・」
美柑さんを気にしながら声を抑えた。
「ちょっと待て。3階に行こう。画面は、自動的にログアウトするから大丈夫だよ」
おっちゃんのあとをついていくときに、美柑さんは小さくバイバイしていた。
エレベータに入り
「ネットダイアリに変化があったか」
「はい」
「GNAで武装ゴブリンが出たんですが、昨日、ネットダイアリを書こうとしたときに、すでに武装ゴブリンの画像が貼ってあったんです」
「いじってないな」
「はい」
「あとで、部下に解析させる」
部下っているんだ。
「地下の人たち、井出さんのところの社員だったんですか?」
昴が聞くと、おっちゃんからの返事がなく、間をおいてから
「アルバイトもいるぞ」
とだけ言った。
3階について、携帯から電話をする井出。
電話しても、したの人が聞いたら同じじゃないかと思いつつ、若干厳しくなった井出の顔を昴は見ていた。
会話入れると、間延びしているみたいだけど、読むと早いね。




