ネットダイアリ-2- 高校生の始まりはこんなもの
「昴~」
同じクラスの幼稚園のころからの友人、神崎亮が朝一番に声をかけてきた。
亮とは、特にコンピュータに関係することはないのだが、幼いころからの、いわゆるゲーム友達のようなものだ。
「今度、ん~~、なんだったっけ~。ネットでやっている、超大作RPGってやつ」
「あ~。グラン・ネット・アンダーグラウンドね」
「あ、それそれ。事前登録したぜ」
「僕もした。来週の金曜日だったよね」
「あー、はじめるときにキャラ名教えてよ」
「それ、いつもと同じだよ」
「あ~、バル、だね。昴の「す」がないだけじゃん」
「でも、バルっていい感じでしょ」
「まあな」
始業の鐘がなり、みんな席に着いた。
いじめ対策や盗難防止を名目に、この教室にも監視カメラが設置されているのだが、コンピュータ研究部が外部のネットワークに繋がっているのだから、画像は学校の外からでも見えちゃう。もちろん、学校側は、「万全のセキュリティで持って対処」しているが、僕にとっては、この程度のセキュリティのクラッキングはたいしたことはない。昴は、この監視カメラを別の用途で利用する。
「昴~~。さっきの世界史の授業、ノート取れなかった~。あとでノート見せて」
「いいよ」
「あの先生さぁ。黒板消すの早いんだよね。俺って聞いて覚えるほうだと思うんだけど、あの先生は、書いていることと言っていることがずれているんだよ。テストは黒板に書いた内容から出すって言うし。じゃ、先生いらないじゃんってことじゃね」
「亮は人のせいにしすぎ。ノートはあとで貸すよ」
といいつつも、今日は、昴も黒板を写しきれていなかった。
(しょうがない。また、部室へ行って黒板を見るか)
教室の監視カメラは、黒板方向8に対して、教室の後ろ方向2ぐらいの感じで撮影されているので、特に世界史の先生の授業には、最適な監視カメラである。
「こんな授業なら、先生いらないね」
今日の授業の映像からノートを補記しながら、横にいる同じコンピュータ研究部の同級生、有坂護に言った。
「まあ、まだまだ人間は進歩できないんだよ。それと、これからは、ついていける人とついていけない人が出てくるんじゃないのかな」
有坂は、画面に映る先生と生徒を指差ししながら言った。
「同感。ただ、本人たちは、ついていっている人なのかそうでないのかはわからないんだろうけどね」
「僕は、ついていくんじゃなくて、切り開いていくんだけどね」
有坂は、半分笑みを浮かべていた。
「有坂、その顔気持ち悪い」
有坂は、底知れぬ野望みたいなものを持っているらしいのだが、まだ、本音は見えない。本人もまだ気がついていないのかもしれないが、時々、人格が別次元に行ってしまったのではないかと感じるときがある。
「さて、これでどうどうと亮に世界史のノートを渡せるぞ」
監視カメラがあるのだから、ノートを取る必要がないと思われるだろうが、亮が授業を聴いて覚えるみたいに、昴は、ノートに書くことで覚える。これも、小さいころから日記をつけてきたせいだろうか。
「今日も授業終わった~」
数学の先生が教室を出た後、亮が大声で叫んだ。周りの女子から笑いが漏れた。
「部活で発散するエネルギーをここで発散するのはもったいない」
ボソッと昴が言うと
「こんくらいじゃぜんぜん平気平気。じゃ行ってくる。帰り一緒に帰れるようだったら、よろしく」
「了解。またね」
昴は、3階にあるコンピュータ教室、コンピュータ研究部部室、通称「コンピ研」に向った。コンピ研は、部員12名だが、主に5人のメインメンバーで活動している。ゲームプレイに特化している部長の戸村。ハードウェア専門の副部長の江原。プログラミング技術に特化した御影。それに、有坂と昴である。




