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マログリフルにて1




「マログリフルの町へようこそ!」


 石で作られた大きな門柱に寄りかかったまま、軽装の若い男は挨拶してきた。腰には立派な装飾の長剣を携えているが、ヒョロッとしていてなんとも頼りなくも見える。この辺もまだまだ魔物は強くないことが、門番の風貌からわかる。


「やっと着いたね、にーた!」


「うん。お母さんと一緒だとあっと言う間だったけど、ミルルと二人だと長く感じた……」


「そ、それはにーたの歩きが、お、遅いからでしょ?」


 ちょっとツンとした言い方……ミルルは道中と違い、すっかり元気になっていた。


「えっ? そ、それはそうかも知れないけど……。結構重いんだよ、盾とか、水とか……」


 カラルがちょっと拗ねている間に、ミルルはとっとと先に進み、周りの多くの者の目も気にせず久々の大きな町にはしゃいでいた。カラルはそれを見てやれやれと微笑むしかなかった。




 このマログリフルの町も周りを森に囲まれている。そして南を大河に面し、西に大きな岩山を見ることが出来る。この岩山から切り出した堅い石を使い建物を作っている。そのため、ルフルの村では見かけない二階建ての建物も見受けられる。


 この町に住む者の服装はおおよそルフルの村と同じく、大きな布の服を頭から被り、腰の辺りをヒモで閉め、固定する、ワンピースのような格好だ。ただ、少しばかり金属や光沢のある石などアクセサリーを身につけている者が多い。白やグレー系の服が多いため、強めの色のアクセサリーはより目立っている。


「いらっしゃい! お、なかなか良い短剣、持っているな。そろそろもっと良い剣を持たないかい!」


 町に入るとまず店の多く入る建物がある。ほとんどのものが当たり前の様にこの建物を通る。初めて来たものはこの建物を抜けないと町中に入れないかと思うほどだ。その建物をぬけても小さい店舗がしばらく続く。そのため、旅人はいやでも必ず声をかけられることになる。この町は元々買い物を目的に訪ねる旅人が多かっため、少しずつ町の入り口に店が集まり、いつしかこのような配置になったという。


「お、元気が一番! お嬢さん、どう、こっちの服、軽くて動きやすいし、かわいい色でしょ?」


「あ、ほんと!?」


 ミルルは店員の声にいちいち反応を見せる。


「ミルル、買い物はお父さんと合流してからだよ」


 カラルは反応を見せるミルルをちょっと恥ずかしそうに制する。


「あ、そっか。そうだね。あたし、お金持ってないし」


「え。なんで?」


「だって、にーたが持ってきているでしょ?! それにお父さんが持っているもん」


「あ、そう……だね。しっかりしているね……」


「ありがとっ!」


(いや、ほめていないんだけど)


 カラルは小さくため息……


「とにかくここを抜けよう……って、あれ? ミルル!?」


 カラルが振り返るとミルルはまたアクセサリを売っている店先に張り付いていた。カラルは人混みの中をつかつかと歩み寄り、ミルルが手に持っていたものをそっと元に戻し、手を繋いで引っ張った。


「ひゃ」


 少し背走気味に引っ張られたミルルは思わず声を上げたが、カラルは構わず、そのままひっぱり、店が並ぶ通りを抜けた。


「もう。後ろに転びそうだったじゃない。それに、帰りに買うモノの下見するぐらい、いいじゃない!」


「まずさ! お父さんと合流しようよ」


 カラルはちょっと強めに言いながらも不安げにあたりを見回していた。以前母と来た時より、人は少ないように感じた。しかし、自分たちの住む村に比べるとやはり人はかなり多い。カラルは迷子になったかの様にキョロキョロしながら歩き始めた。


「ね、にーた。……い、痛いよ。手、離してよ……」


「だめ、はぐれたら大変」


「もう。心配性なんだから……」


 ミルルはそう言いながらもちょっと楽しそうだった。カラルが一生懸命に兄をやっている姿は、まだまだ頼もしいとは言えないが、安心感が感じられたからだ。と、同時にちょっと滑稽に見えたからだ。




 二人はそのまま旅人が集まるお店や、宿屋にも顔を出した。しかし、どこにも父の姿はなく、また、目印の白い竜を見かけた人も見つからなかった。


「まだ、町に着いていないんだよ、きっと!」


 町の中央の広場で腰を下ろし、不安げにあたりを見回すカラルに、ミルルが明るい声で言った。ミルルも少しは不安に感じているはずだが、それを見せないようにしているのを、もちろんカラルはわかっていた。


「そうだね。何回か、あったもんね、そう言うこと。……それじゃあ、どうしようか。今日、到着していないなら、暗くなる前に(ルフル)に戻らないと……じゃあ、もう一周して、居なかったら、……居なかったら、買い物して帰ろっか」


「うん」


「それじゃ、行こっか」


 カラルはそう言いながら腰を上げ荷物を背負った。ミルルも背負うのを手伝った。




 二人はゆっくり歩きながら旅人の顔、肩を見ていた。小さい竜ならきっと肩に乗っているという思いからだ。しかし、肩に乗ってるのは荷物や防具……そして小さい子供……。


「ミルル……お店の人に、もう一度聞いてみようか? 白い竜をつれた兵士を見て無いか……」


 すこし落ち付きなくカラルがそう言うと、ミルルはちょっとわざとらしく「うーん」と考えたフリをしてから、笑顔でカラルのほうを向いた。


「にーた、もしかして、白い竜を連れて来ていないのかも知れないよ!? それに格好も兵士の格好のまま、帰って来ないかも知れないし」


「うん、そっか。……去年、お父さん、去年どんなカッコで帰って来たっけ?」


「う~ん。うん! 覚えていない」


「あ、やっぱり?!」


「なんで『やっぱり』なの!!」


「いや、僕が覚えていないからミルルもそうかなって」


 カラルは、ちょっとテレながら頬を指でかいた。ミルルはちょっと頬を膨らませていた。


 そんな時、すれ違う旅人達の話す声が耳に飛び込んできた。




「さっきの白いの、なんだろうな」





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