マログリフルへ
人々が住む村を離れると、とたんに森が深くなる。しかし、二人の住む村『ルフル』と南の町『マログリフル』は行き交う者も多く、幅広いしっかりとした道が出来ていた。その道は広く、とても明るい。迷うことはない。しかし、道の左右には深い森が続いているところが多い……。
まだ、昼前のせいか、ルフルを旅立ったカラルとミルル以外、歩む者は見られなかった。
「ん~んん~♪」
前を歩くミルルは元気に手を振って大股で弾む様に歩いていた。
「ねぇ、にーた。どんな竜かな。シュッとしているかなぁ。炎とか吹けるのかなぁ」
後ろを歩くカラルは早くも背負っていた盾を左手に持ち、右手は腰にぶら下げている短剣をつかみ、あたりをキョロキョロしながら歩いていた。
「そうだねぇ。お父さんが育てたんだからきっと強くて、かっこいいといいな。あと、僕達をつかんで空飛べると楽しいかもね」
「かわいいのが良いなぁ」
「もう、もらう気でいるよね、ミルル」
「えへっ。にーただってそうじゃん」
ミルルはくるっと振り返り、小さく舌を出して笑った。そしてあたりを警戒しているカラルを見て、思わず吹き出した。
「ぷっ。にーた、警戒しすぎだよ」
「ミルルは気を抜きすぎだよ」
「そんなことないもん」
ミルルがそう言った時だった。
ガサガサ
「ひゃ!」
草むらからの大きな物音に思わずミルルが声を上げた。次の瞬間、恥ずかしさから思わず両手で自分の口をふさいだ。
カラルは素早くその音の方を向いて、短剣を構え、様子を見ながら物音のするところとミルルの間に移動した。
ガサガサ
もう一度物音がした直後だった。
シュパッ
草むらから小さい火の玉が飛び出してきた。それはちょうどカラルの盾にまっすぐ向かってきた。カラルは盾を持つ手に力を入れた。
バシュッ
「うっ」
盾は思った以上に押し込まれ、思わず声を上げたが、即座に次の攻撃がないことを確認し、短剣で草むらを一太刀した。もちろん火の玉を打ったモノを倒すためではなく、そのモノを確認するためである。
「いた! 青いコウモリみたいな魔物!」
カラルはそう言うと威嚇のつもりで短剣を下から振り上げた。
ズシャ!
「えっ!!」
鈍い音と共に魔物は真っ二つになった。まさかのヒットにカラル自身、驚いていた。思わず出たその言葉の後、しばらく硬直。ミルルもまだ自分の口をふさいだまま呆気にとられたままだった。
……真っ二つの魔物は少し宙を舞い、森の奥へ落ちていった。
あっと言う間の出来事で二人とも、指一本、視線すら動かさずに、しばらく硬直していた。
「あ、どうしよ、どうしよう」
最初に動いたのは、カラルだった。カラルは森の置くに落ちていった魔物の方に駆け寄ろうとしたのだ。それをミルルを制した。
「にーた! 待って! ……どうするつもり」
「えっと、治療しないと……」
ミルルは少しあきれながら……
「もう、襲ってきたんだから、大丈夫、悪い魔物よ。それに、ま、真っ二つだったじゃない」
「あ、そ、そうだね……」
カラルはそう言いながらも森の奥を少し申し訳なさそうに見ていた。
(攻撃してきたんだから……しょうがない、しょうがない……)
自分の言葉に小さくなんども頷いていると、ミルルが左肩をつついてきた。
「……あの……にーた」
「ん?」
「ありがとう……」
ミルルはカラルの少し焦げの付いた盾を見ながらそう小さく、ちょっと恥ずかしそうに言った。
「あ、うん。怪我なくてよかったよ。……ど、どう? 少しは剣、使えるようになったでしょ?」
あの太刀は偶然とカラル自身わかっていた。でも、魔物を倒せたのも事実。そしてミルルにも怪我がなかったのも事実。
「うん……」
「それじゃ、進もうか」
カラルはちょっとらしくないミルルの素直な態度に少し困惑しつつも、妹を守ることが出来た満足感で、少し自信が付いた様な気がした。
そこからはカラルが警戒しつつ前を歩いた。ミルルはカラルの後ろをちょっと小さくなって付いてきていた。
(頼ってくれているのかな。なんか、こんなミルルはかわいい)
カラルは左右を警戒しながらも時々後ろも警戒するふりをしながらミルルの姿を見て思っていた。
ミルルはちょっとうつむき加減で、こんなことを思っていた。
(あ~あ、痛恨ね……すっごくかっこわるいなぁ……にーたしかいなくてよかった。あ、そうだ……)
「ね、にーた。さっきのこと……」
「うん。誰にも言わないよ。急に来たら誰だってびっくりするもんね。僕もびっくりしたよ」
「うん……。こ、今度はあたしがやっつけるもん!」
ミルルがそう気持ちを入れ替えようと、ちょっと強気で言った時だった。
ガサガサ
「ひゃ」
ミルルはまたもやびっくりし変な声を上げてしまった。
「……ああ、今度は小動物だね……」
カラルは音の正体を確認してゆっくりと短剣をしまった。
「ミルル、大丈夫だよ。この辺の魔物はそんなに攻撃的じゃないはずだし。でも、突然物音するとびっくりするね」
「……うん」
その後の道中、ミルルはちょっと自分自身にがっかりした様子でカラルの後を付いていった。
◆
「マログリフルの町へようこそ!」
「着いたー」
ミルルは、門番の声と共に何かから解放されたように、大きく背伸びをしながら声を上げた。
結局『マログリフル』に付くまでに出会った魔物は最初の一匹だけであった。




