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ルフルの朝2




「カラル、ミルル。今日は何の日か覚えている?」


 母の言葉に、カラルとミルルはチラッと顔を見合わせた。そして小さく頷いた。


「今日は……こほこほ……ん ん」


「大丈夫? お母さん」


 ミルルがすばやく母の体を支えた。カラルは、今、一歩進んだだけだ。そして遅れながらもミルルとは反対側の母の横に進んだ。


「大丈夫。今日はお城で兵士をやってるパパが帰って来る日……こほこほ。皆で迎えにいきたいけど、やっぱり今回は無理そうなの」


「「うん、大丈夫だよ、お母さん」」


 カラルとミルルは同時に答え、お互いを見た。それを見て母はクスッと笑った。


「もし不安だったら、大人の人や、マクラル君に……」


「「大丈夫だって!」」


 また、カラルとミルルは同時に答え、また、お互いを見た。


「うふふふ。二人で協力したら大丈夫のようね。……こほこほ」


「うん。お城まで行くわけじゃないしね」


 今回はミルルだけが答えた。それを聞いてからカラルも、「大丈夫」と少し恥ずかしそうに小さく答えた。


「お父さんはいつも通り南の町『マログリフル』に着く予定よ。今回は一年ぶりに会うし、あなた達も成長したし、お互い、わかるかしら、ね?」


「うん……、たぶん」


 カラルは少し不安げだ。


「大丈夫! 何とかなるもん」


 ミルルはそう笑った。


 母は二人の反応を見て、小さくうなずいた後、、ゆっくり言葉を続けた。


「そうそう、手紙では、お城で育てていた魔物も連れてくるって。なかなか賢く、強くなったらしいわよ」


「え? ほんとに!?」


 ミルルは思わず母の手を強く握ってしまった。母は少し痛かったが顔には出さなかった。


「ええ。例の真っ白な小さな竜みたいよ」


 この辺では見かけない魔物。以前から父が育ているいうことを手紙で見て聞いていた。


「あたしにくれるのかな?!」


「そうね、それはどうかしらね?! でも、それを目印にしたらいいわ」


「そっかそっか。珍しい白い小さな竜が一緒ならすぐにわかる、わかるね」


 カラルもホッとしたようだ。それを見て母はミルルに握られていないほうの手でカラルの手を取った。


「いい。村の外、町の外で魔物に出会ったらまず警戒して……襲ってくる魔物ならすぐにお逃げなさい。寄り道しないで……ほんと気をつけてね」


 母は成長を信じながらも、心配は拭えない。そんな思いが両手を強く握らせていた。二人も強く握り返した。


「大丈夫よ、お母さん。あたしがついているもん! ね、お兄ちゃん!」


 ミルルは屈託のない笑顔で笑った。対してカラルはどことなく苦笑い。母はそれを見てやさしく微笑んでいた。




「にーた、準備いい?」


 家の中で準備を終えたミルルが、出入り口の扉を半分押し開けながら言った。


「ま、待って待って。なんか忘れ物ないかな?!」


「もう、一日もかからない旅なんだからそんなに荷物いらないでしょ? ろくに使えない短剣も持って行くの?」


「なにがあるかわからないから……」


 カラルは少しうつむき加減でそう言いながらも、ミルルに見えないように笑顔を作り、小さく拳に力を入れていた。


(僕の剣の上達ぶりをみたら、きっとびっくりするぞ)


「にーた、行くよ!」


「あ、はいはい」


 ミルルはほとんど手ぶら。いつもと違うところと言えば、腰に非常食(おやつ)を入れた小さい袋をぶら下げ、左前腕と両こぶしに厚手の布を巻き付けているぐらい。


 対してカラルは普段持って歩かない木製の盾を背中に背負い、その内側に多少の着替え、食料、水の入った袋を隠している。そして、腰には短剣を布の鞘にいれてつるしてある。勿論、いつも通り、髪を隠すようなフードのような帽子を被っている。これは赤い石の周りには金属のフレームがあり、多少頭を守る役目が期待できる。


「にーた、すごい装備だね」


 ミルルは少し鼻で笑う様に言った。


「なにがあるか、わからないからね」


 カラルはふふんと笑い返した。




 そんなアンバランスな格好の二人が村の中を並んで歩いてるのだから、村人の反応はやっぱりこうなった。


「やあ、ミルルはお兄さんの見送りかい?」


「カラル君は一人でどこに行くんだい? 気をつけてな」


「ミルルちゃん、後で家に寄って。菜っぱいっぱい採れたからね」


「なんだ、カラル。遠出か? 一人で大丈夫か?」


 ……カラルが旅に出て、それを見送るミルル……そんな風に見えたらしい。二人は声をかけられる度に、いちいち「二人でマログリフルの町にお父さんを迎えにいく」ことを説明していた。


「もう、にーたがそんな大げさな格好をしているからっ!」


「ミルルがそんな軽装だからじゃないか。まさかそんな格好で村を出ようなんて思わないからっ」


 そんな会話をしながら、南の町『マログリフル』に向かうため、村の出入り口に向かっていった。




 出入り口にはちょっとがたいのいい男が、石やりの付いた長い棒を持って立っていた。一応門番、兼、旅人の案内人である。この辺の魔物はそれほど強くなく、もし襲ってきても、大人一人で対応できるレベルであった。


 門番の男がカラルとミルルを見つけた。


「やあ、二人とも……」


 そこまで言われるとミルルは慌てて、


「二人でマログリフルに行ってきます!」


と言葉をかぶせた。


「ああ。見ればわかるよ。ミルルちゃんはいつもより()重装備だもんな。カラル君もミルルちゃんをしっかり守るんだぞ。二人とも気をつけてな」


「「はい!」」


 二人は声を合わせて元気よく返事した。


 二人だけで村を出るのは、実は初めて……。二人ともちょっとだけドキドキ、ちょっとだけワクワクしていた。




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