第9話『ここは俺に任せて先に行け! は小説のなかだけにしとけ 〜おじさん、有給休暇を投げ打って、がんばる善人を泥沼から救い出す〜』
【第一部:絶対管理者の危機管理と戦術的な資材調達】
(理想の未来ルート確定率が65.00%に達したことで、俺が勝ち取った報酬は【1ヶ月(720時間)の長期滞在】、および総重量30kgまでの【物質搬入機能】の解放だ。だが、これをただの休暇やお土産の持ち込みとして浪費するようでは、一流の管理者とは言えん。むしろ、この1ヶ月は最悪の執行猶予だ。現実世界でクビにしたあの元請けのパワハラ幹部が、いつ我が社の現場に嫌がらせの報復を仕掛けてくるか分からない。それ以上に、他部署が【まだ動くから】と点検を先送りし続けている『経年劣化の不具合』が、いつ自部署や家族を巻き込んで大爆発するか分からん。有給中であっても、管理者としての防衛網の構築は1秒たりとも休ませない)
キヨタカは、黄金色の犬の聖獣(大型犬パパ)の姿で暖炉の部屋に座しながら、脳細胞をフル稼働させて、搬入制限30kgの「戦術的物資配置」を冷徹に計算していた。有給の申請を通した足で、プロ向けの現場資材店、あるいは社内の日報記録から若手女子社員たちの「髪や肌の乾燥に対する最先端技術の有用性」を逆算し、徹底的に「機能性」だけで資材を厳選した。
重量計算は以下の通りに執行された。
1.娘たちの魔力回路を瞬間修復するための高栄養糖分資材:デパ地下の『特製プレミアムケーキ』および『高級ブランドいちご、完熟スイカ』(計5kg)。
2.連戦で肉体を摩耗させたユミと三姉妹の皮膚を、現代の最新技術で完璧に手入れ(防腐・防錆)するための『高級パドルブラシ』および『天然由来の高保湿ヘアオイル・リペアクリーム』(計3kg)。
3.あるいは残りの22kg──これこそが本命だ。楽園の境界線を物理的に強化するための『超強硬南京錠』『工業用防錆浸透スプレー』『高輝度ソーラー式人感センサー防犯ライト』。
「【曖昧な妥協】は一切許さん。最高の現場には、最高の資材と完璧な防衛統治が必要だ。これより、戦線への物資投入を開始する──!」
## 【第二部:確定率75%のスパークと、人間の姿の奇跡】
裏(異世界)光のゲートをくぐり、キヨタカが30kgの防衛資材を抱えて異世界へと足を踏み入れた瞬間──そこには、世界システムの確定率が75.00%へと限界突破したことによる、凄まじい因果の奇跡が待っていた。
「おかえりなさいませ、あなた……♡」
そこにいたのは、いつもの三毛猫の姿ではない。濃密な愛魔力の光が世界の仕様を書き換え、完璧に『人間の姿(擬人化)』となった妻のユミだった。品のあるしなやかな黒髪を揺らし、上品なブルーのシャツワンピースを身にまとい、圧倒的な包容力の笑みを浮かべている。その背後には、同じく可憐な人間の少女の姿へと一時的な進化を遂げた娘たちが、キヨタカを取り囲んだ。
「パパ、こっち……! ひみつの、おはなばたけだよ」
アジサイの花が咲き誇る美しい庭へと敷布を広げ、キヨタカを迎える家族たち。キヨタカはさっそく、高濃度魔力回復薬として世界システムに変換された「特製ケーキ」と「冷え冷えの完熟スイカ」を披露した。
「わぁぁぁ……! なにこれ、すっごくふわふわで甘い……! パパ、天才っ!」
日本の最高峰の糖分を口にした瞬間、娘たちの身体の奥で、首輪の呪いによってスカスカに摩耗していた魔力回路がブワッと音を立てて瞬間修復されていく。
「ふふ……あなた。本当に、世界一の絶対管理者ですね。たっぷり1ヶ月もありますもの。皆で美味しくいただきましょうね」
ユミがお茶を淹れながら穏やかに微笑む。だが、キヨタカが娘たちの猛烈な「あーん攻勢」に鼻の下を伸ばすと、ユミの背後から一瞬だけ、空間を歪ませるほどの重厚なヤンデレ嫉妬オーラが微かに立ち上る。その緊迫感に、キヨタカの管理者としての背筋が冷徹に引き締まった。日常の甘さの裏に、常に一糸乱れぬ現場の緊張感が走っている。
スイカを綺麗に食べ終えたコユキが、キヨタカの袖をきゅっと引っ張った。
「ねぇねぇパパ! このお花畑のむこうにね、すっごくお気に入りの場所があるの! そこへみんなで行こうよ!」
「よし、今回は1ヶ月もの特大有給だからな! 時間は無限にある。みんなで行ってみよう!」
キヨタカがデレデレの笑顔で了承し、立ち上がろうとした時──娘たちとユミの瞳が、きらきらと輝いた。
(人間の姿も素敵だけど……せっかくのお出かけだもん。パパのあのでっかくてふかふかした背中に乗って、みんなで一緒に、おもいっきりじゃれ合いながら進みたい……!)
家族全員の「パパの毛並みに包まれて、もっと同じ目線で遊びたい!」という純粋な愛の願い。その瞬間、極限まで高まった家族の愛魔力に、世界システムが過敏に反応して異常事態を引き起こした。
ピカァァァーーーッ!!!
「うおっ!? な、なんだこの光は……っ」
突如として家族全員を眩い魔力の残光が包み込む。
「あ、あれ……? おててが、ちっちゃい肉球に戻っちゃった……?」
コユキの可愛い手足が瞬く間に茶トラの猫の肉球へと戻っていく。ミカもモナも、愛らしい黒猫と白黒パンダ姿の子猫の姿へと逆戻りした。ユミもまた、しなやかで美しい三毛猫の姿へと戻り、敷布の上にすとんと着地する。
「お、おいおい、俺の視界も妙に低いぞ……?」
## 【第三部:もふもふトレインの進軍と、狂気のブラッシング施工】
キヨタカの身体もまた、おじさんの姿から、でっぱりとした最高級のもふもふお腹を誇る、黄金色の巨大な『犬の聖獣(大型犬パパ)』の姿へと変化していた。家族の「一緒に遊びたい」という想いが、世界システムを書き換えたのだ。
「わぁぁぁーーー! パパがでっかいワンワンになったーーーっ!」
モナが野生の突撃をかまし、キヨタカの分厚い黄金色の胸毛へとダイブする。ミカも我先にとキヨタカの広大な背中へとよじ登り、コユキもおっとりした動きでキヨタカの大きくて柔らかい耳の横にすっぽりとはまり込んだ。
「うお, お、お前たち、くすぐったい……! ユミ、助けてくれ……」
「まぁ……あなた……♡」
三毛猫の姿に戻ったユミは、夫の背中に鈴なりになって甘える愛娘たちを見つめ──その瞳の奥に、限界突破した濃密なヤンデレ嫉妬オーラをちろちろと燃え立たせた。その強烈な威圧感が、アジサイの庭の空気をビリビリと震わせる。
「子供たちばかり、あなたのもふもふを独占するなんて許しませんわ。……わたくしも、あなたの『お隣』は絶対に譲りません」
フシャーッと喉を鳴らしたユミは、キヨタカの首元──一番心臓に近くて、一番ぬくもりを感じられる特等席へとすとんと飛び乗り、自分の品のあるしっぽを、キヨタカのぶっとい黄金色の首にきつく巻き付ける。
「あ、愛が重い……っ! だが、最高に幸せだからヨシ……! これから1ヶ月、ずうっとこうして移動できるんだもんな!」
もふもふトレインとなったキヨタカパパは、背中の上で子猫たちがじゃれ合う温もりを感じながら、娘たちの案内する方向へとルンルン気分で歩みを進めた。
森の木々を抜けた先、そこに広がっていたのは、きらきらと太陽の光を反射して輝く広大な湖と、白い飛沫を上げて美しい滝が流れ落ちる、この世のものとは思えない楽園だった。
「よしっ! それじゃあ、思いっきり遊ぶぞ! 時間はたっぷり1ヶ月ある!」
キヨタカが巨体を揺らして合図すると、背中から三姉妹が草原へ飛び降りる。黄金色の巨大な聖獣と、三匹の愛らしい子猫たち、あるいは美しい三毛猫のユミ。5匹の家族は、時間を忘れて草原を縦横無尽に駆け回った。
キヨタカパパがでっぱりとしたお腹を見せてゴロンと寝転がると、モナがその上でゴロゴロと転がり、ミカが尻尾にじゃれつく。コユキは湖の水をパシャパシャと叩いて大はしゃぎだ。ユミもまた少女のように目を輝かせてキヨタカの顔の周りを嬉そうに走り回っていた。
「いつもなら『あと何時間で帰らなきゃ……』と焦っていたが、今回は違う。まるまる1ヶ月、この楽園で家族と徹底的な絆を深められるんだ」
キヨタカの心には、かつてないほどの開放感と幸福感が満ち満ちていた。──そうして、ひたすら思いっきり遊び回り、心地よい疲労感に包まれた、至高の休憩時間。
システムの魔法が再び正確な周期を描き、キヨタカだけが、ふっと現実世界の中年おじさんの姿へと戻った。
「よしよし、みんな。たくさん走って、毛並みがボサボサになっちゃったな」
キヨタカは、現実世界から物質搬入しておいた、例の『高級パドルブラシ』と『天然由来の保湿ヘアオイル・クリーム』を取り出した。
「まずはミカからだ」
「……んぅ。パパ、そこ、きもちいい……っ」
ツンデレ長女の黒猫・ミカを優しく抱き寄せ、クリームの塗布量を最適に計算しながら、高密度ブラシを一定の角度と正確なストロークで滑らせていく。日本の最先端の技術によるアプローチは、傷ついた毛根を劇的に補修し、ミカはあまりの心地よさに「ツン」を完全に喪失してとろけきってしまった。
続いて、茶トラのコユキの美しい毛並みをふわふわに整え、おてんばモナの白黒パンダ姿の毛並みも、寸分の狂いもない手つきで汚れを落としがら梳かしていく。
「次は……ユミの番だね」
「まぁ……。わたくしも、していただきけるのですか……?♡」
三毛猫の姿のまま、ユミが熱い吐息を漏らすようにしてキヨタカの膝に滑り込んってきた。キヨタカは、高魔力を秘めたユミの艶やかな三毛の毛並みに、ヘアオイルをミリグラム単位で精密に塗布し、そっとブラシを当てる。
「ああ……あなた……。本当に、身も心も統治されてしまいそうですわ……」
ユミはあまりの心地よさと、キヨタカから注がれる深い愛に身を委ね、幸せそうに目を細めた。オイルによって眩いほどに艶めいた品のあるしっぽが、甘えるようにキヨタカの手首にそっと絡みつく──。
絶景の湖畔、滝の音、 愛する家族の幸せそうな寝息とゴロゴロ音。
「――最高だな。これが、あと1ヶ月も続くなんて、夢みたいだ」
キヨタカは心から溢れ出た呟きとともに、みんなの頭を順番に優しく撫で、和みの極地へと浸るのだった。【曖昧な妥協】も【責任放棄】もない、キヨタカの徹底的な統制によって勝ち取られた1ヶ月の長期バカンス。何にも邪魔されない極上の癒やしタイムのなか、家族全員が完全に身も心もとろけきっていた──。
だが、この「1ヶ月のユートピア」の完璧な平穏を、突如として地鳴りのような重低音が引き裂く。
**――ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……ッ!!!**
「……っ!? なんだ、今の地響きは……」
キヨタカは膝の上のユミをそっと下ろし、その場に立ち上がった。黄金色の大きな聖獣の耳が、遠くの「世界のきしみ」を敏感に察知してピクリと動く。
その瞬間、草原の木々をなぎ倒し、ボロボロになりながら逃げ込んできた一団が、キヨタカたちの視界へ飛び込んできた。美しい金髪としなやかな肢体を持った──森の開拓住民、エルフの一団だった。衣服は破れ、血を流している。
「聖、聖獣様……っ!? なぜこのような場所に……! 大変です、森の奥で古代の結界が焼き切れ、魔獣どもが大暴走を起こしました! ここもすぐに呑まれます、どうか今すぐ逃げてください!」
そう叫んだのは、エルフの責任者らしき若者だった。だが、キヨタカはその若者の目を真っ正面から射抜いたまま、地を這うような冷徹な声を響かせた。
「逃げる? 結界が摩耗しているのを、お前たちは知っていたはずだな? 『まだ動くから』『上層部への点検報告が面倒だから』と、お前たちが積み上げてきた【事なかれ主義】と【曖昧な妥協】のツケが、この大崩壊だ。今さら現場から敵前逃亡したところで、この世界のシステムにおいて破滅ルートから逃げ切れるわけがないだろう」
キヨタカの冷徹な一喝に、エルフたちは息を呑んで凍りついた。現実世界(表)で、まだ誰も気づいていない『別現場の老朽化した配線の熱融解』──。その現実の構造的欠陥と、今この目の前で結界(魔力インフラ)が焼き切れた異世界の異常事態が、絶対管理者の脳細胞のなかでガチッと完全にシンクロしていた。
『 システムログ:不具合の放置、および【現場からの敵前逃亡(なぁなぁな現状維持放棄)】を検知 』
『 理想の未来ルート・確定率:65.00% ➡️ 15.00%へ急降下開始(ロック強制解除) 』
避けて通れない現場なら、今すぐ俺が絶対管理者として介入してやる。キヨタカはでっぱりとした最高級のもふもふお腹を誇る、巨大な『黄金色の犬の聖獣(大型犬パパ)』の姿へと巨大化し、戦場を支配した。
「全員、よく聞け! 逃げるのは中止だ! ここに防衛ラインを形成する! エルフの開拓団も、俺の家族も、一つの防衛チームとしてラインを繋げ!」




