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放電魔女と充電ロボット  作者: 真好
第一章:出会い

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第3話:静かの海






***



『静かの海』




 帝都の人々は、かつて中央広場だったその廃墟の一帯を、そして中心の巨大なクレーターを、そう呼んでいる。




 リリスは息を呑み、凄まじい廃墟の光景をしばし眺めた。


 ここへ足を踏み入れたのは、まだ七歳だった子供の頃以来だろうか。


 十年の歳月が流れたというのに、あの日から何一つ変わっていない。


 時が止まったかのように、広大な空間そのものが剥製にされ、保存されているかのようだった。



 圧倒的なまでの静止が、そこにはあった。



 その光景に意識を奪われていたリリスは、不意に漂ってきた嗅ぎ慣れない異臭に、ふと我に返った。


 それは、本能的な嫌悪というよりは、根源的な恐怖や逃避を煽るような、どろりとした嫌な臭いだった。



(……近道を選んだのは、間違いだったかも)



 後悔が頭をよぎるが、ここまで来て引き返すのも困難。


 リリスは意を決し、臭いの漂う方へと足を進めた。


 そして角を曲がったその先。


 唐突に、凄惨な光景が彼女の目に飛び込んでくる。



 そこでは、火刑が執り行われていた。



 いまだ復旧の進まぬ荒廃した空き地で、何台もの火刑台が火柱を上げている。



 高く組まれた薪の上、太い杭に縛り付けられた罪人たちが、足元から這い上がる炎に呑まれていく最中だった。


 噴き出す黒煙と共に絶叫が響き渡る。


 火の粉が舞う中で、生身の肉体は焼け崩れ、ただの物へと変わり果てている。


 火刑台は五つ並んでおり、今まさに焼かれている者たちの後ろには、次を待つ罪人たちが長い列を作っていた。


 ざっと数えても数十人はいるだろうか。


 泣き叫ぶ者、必死に潔白を訴える者。


 阿鼻叫喚の地獄絵図の中で、深い兜を被った執行人たちが、顔を隠したまま機械的に作業をこなしている。



 突然のめまいに襲われ、リリスはその場に立ち尽くした。


 しかし、すぐに思い直して足を動かす。


 ここを通り過ぎるには、歩き続けるしかないのだ。


 処刑の見物は禁止されていないため、それを制止する者は特にいない。



 むしろ推奨されているとさえ聞く。



 場合によっては都民を集めて公開処刑が行われ、義務的に出席させられることもあるらしい。


 だから、リリスが近くを通り過ぎても、咎める者はいなかった。


 周囲には、リリスのような通行人だけでなく、この惨劇を眺めるために集まったと思わしき者たちが、数人佇んでいた。



 歩きながら、リリスはふと視線を火刑台の方へ送ってしまう。


 既に息絶え、ただの肉塊として焼かれている死体と、一瞬だけ目が合ったような気がした。



 背中に、悪寒が走る。



(早く……ここから離れないと)



 彼女は歩調を速めた。


 死人を見たことは何度かあるが、目の前で人が焼かれる場面に遭遇したのは初めてだった。


 あまりのショックに、ここだけが別世界であるかのような、奇妙な乖離感に襲われる。


 両手で鼻を覆い、最大限に臭いを遮断してみる。


 早歩きはいつしか走るような速度になり、リリスは弾かれるように火刑の現場を抜け出した。




『静かの海』を抜けると、そこには、いつもの帝都の光景が再び広がっていた。


 建物群を一つ越えただけで、景色が嘘のように様変わりする。


 まるで、今しがた見ていた光景が全て白昼夢だったかのように。


 それでも、リリスの鼻腔にはまだあの臭いがこびりついていた。


 振り返ると、火刑の煙が空に向かって立ち昇っているのが見える。


 そよ風に乗って届くわずかな死の残り香を感じながら、リリスは鼻を覆ったまま、クロイに指定された店へと急いだ。







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